第8話 この青髪少女、超能力使えるってよ④
俺がショックを受けていると、しかめっ面をしながら会話を聞いていた結城さんが、呆れたように話し出した。
「……ねえ、先生。あんまり間に受けない方がいいよ。周りと違った変な事言って、気をひきたいだけのかまってちゃんっているの。自分の事特別だとか思ってるやつ……」
それ、まさしくお前の事だよ。自分の事棚にあげて何言ってんだコイツ。
例え周りに俺の事がそう映ってたとしても、コステレ野郎だけには言われたくないから。
「まあまあ、お手柔らかにね結城くん。うーん、そうだな……金之助くんは、最近疲れていたり、ストレスがかかっていたりしないかい?」
「え……? いや、まあストレスみたいなのは日々感じてはいますが……」
「"ゲシュタルト崩壊"という言葉を聞いたことある?」
先生の問いかけに、頭の片隅にまとめて置いてあった"人生の中で特に必要とされない知識BOX"の中から、その言葉を必死に引き出した。
「……ええと、同じ文字をずっと見つめているとおかしく感じてくるみたいなやつですよね?」
「そうそう、認知心理学で使われる言葉でね。今まで普通に捉えていたものがおかしく感じてしまったり、ワケがわからなくなってしまったりするんだ。認知能力の低下によって起きるらしいよ。僕は全然専門じゃないからヘタな事言えないけど、それに近いことが起きてるのかもしれないね」
なるほど、さすが獣医といえども医者だ。すんなり説明が入ってきた。
むしろ、なんかこの薄汚さも含めて、アウトローなはぐれ名医のように見えてきた。
「じゃあ、精神科とかに行った方がいいんですかね? あまり気は進まないんですが……」
「んー、気が進まないなら別にいいんじゃないかな。日常生活に支障きたしてないでしょ? これがマサルさん以外に、色んな事がおかしく思えたり、不安になったりしてきたら要注意だけど。まあ、病は気からだよ! 細かい事は気にせず笑い飛ばしておきな! あっはっは!」
そう笑いながら、先生は俺の背中をバンバン叩く。
気持ちがブルーになっていたが、先生の笑い声を聞いていたら急にスッと楽になった。そして心の中が暖かくなる感覚を覚える。
これはなんというか、久々に人の善意、優しさみたいなものに触れたからだろう。
今まで他人というものは俺にストレスしか与えてこなかったが、安らぎをくれることもあるんだな。
顔を赤く染め上げながらモジモジしてい
るそんな俺の姿を見て、結城さんが呟いた。
「……ホモ?」
ちげーから。本当やりづらいなこの人。
せっかくいい感じに終わろうとしてたのに、
水差すなよ。
ほら、先生も"え? まじで?"みたいな目をして、距離取り出しちゃったじゃねえか。
「あの、違いますから。僕ノーマルなんで……」
「あ、あっはっは。そうだよね、結城くんは冗談が過ぎるなー。……あれ?」
先生が何かに気づいたように、首を傾げる。頭の中に違和感でもあるのだろうか。
歯の隙間に挟まったものが中々取れないようなもどかしい表情を浮かべながら、必死に何かを考えている。
「先生、どうかしました?」
「いやさ……なんか前にも金之助くんと同じ様な事言ってた人がいた気がしてさ。マサルさんのことおかしいのどーのって……誰だったかなあ」
「え、本当ですか!? どこの誰ですか!?」
これは急に光明が見えてきた。是が非でもその人と会って話しがしたい。
自分と同じ常識を持った人がいれば、大分話しは変わってくる。
「えっと……最近会ったような、昔だったような。それとも気のせいかな……。ごめん、今はちょっと思い出せる気がしないなあ」
「……そうですか。じゃあ、連絡先を渡しておくので、思い出したら連絡を頂いてもいいですか?」
俺は携帯の番号を受付にあった用紙に書き、先生に手渡す。
そうすると、先生に大人しく抱かれていたマサルが急に鳴き出した。
「ブギギ! フゴッフゴッ、ブブギョ!」
マサルが鳴いた後、沈黙が走る。
先生と結城さんは、何も言わずに俺の方を見ている。これは、あれか? マサルは俺に向かって話しかけたのか?
「あ、あの……すいません。今、マサル何て言いました?」
「ん? ああ、本当に言ってることわからないんだね。そのまま伝えると、"さっきから俺の事でごちゃごちゃ言ってるが、まあいい。変な兄ちゃんだが、ここまで運んでくれた恩がある。また日を改めてちゃんとお礼がしたいから、俺にも連絡先をくれねえかな?"って言ってたよ」
いやいや、嘘だろ。絶対そんなに長く鳴いてなかったじゃん。
それとも、"ブギギ"だけで、人語の30文字分くらいまかなえちゃうの? 豚語便利すぎるだろ。
それに、急に電話がかかってきて、通話口で"プギプギ"聞こえてきても困るんだが。
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