第6話 ラプラスの瞳
蟻命(ぎめい)の言葉に驚き、どんな言葉を口にすればいいのかと守偵(さねさだ)と如珠(いたま)は二人して目を空中にさまよわせる中、蟻命(ぎめい)が再び口を開いた。
「アイズに聞いたんだけど君は容疑者を一目見ただけで犯人を特定したらしいね」
「それが、何か」
蟻命(ぎめい)の言葉に二人の顔が強張る。
「素晴らしい洞察力と推理力だ。さすがは超一流の探偵、だけど一つ不思議なことがあるんだよね」
警戒心むき出しの二人とは対照的に蟻命(ぎめい)はおちゃらけた口調をとる。その目は無邪気な子供のようにきらきらと爛々と揺らめいている。
「現場保全していた警察官の人たちに聞いてみたんだけど。シルクハットをかぶった奇妙な男はおろか現場を任されていた刑事二名以外だれも現場保全後の事件現場には入ってないって言うんだよね」
重くなった空気で喉が詰まり、よどんだ空気が首に絡みつく。守偵(さねさだ)の背筋から冷たい汗がヒヤリと流れ落ちた。
「現場も見ていないのに君は一体、どうやって犯人を特定することができたんだい」
揺るがしようのない事実。そこから導き出される一つの答え。
探偵――探護守偵は異人である。
蟻命(ぎめい)により守偵(さねさだ)の秘密は暴かれた……
しかし、ここで守偵(さねさだ)は一つの策を講じた。
「よくわかったな。さすがはこの街の王様だな」
蟻命(ぎめい)の言葉を一切否定しなかった。否定したところで意味がなかったからだ。
「……」
あっさり異人であると認めた守偵(さねさだ)を蟻命(ぎめい)の秘書――秘事アイズは変わらず冷えた目で見ていた。
(蟻命の秘書の態度からして俺が異人であることはこいつらの中で確定事項みたいだな)
「あんたの言う通り、俺は異人だ。他の異人たちの例にもれず、俺にも特別な能力が宿っている」
一度生じてしまった疑惑は中々晴らせない。ならばと、守偵(さねさだ)は自分が異人であることを否定せず肯定することで話の主導権を握ろうとした。
「先の事件で犯人を特定できたのはその能力のおかげだね」
「ああ」
そうすることでこれ以上目の前で薄笑いを続けるこのいけ好かない男に腹の内を探らせないようにした……のだが、
「俺は過去を――」
「未来が見えるんだね。君は」
守偵(さねさだ)の思惑はいともたやすく泡と消えた。
「「……」」
蟻命(ぎめい)の言葉に如珠(いたま)と守偵(さねさだ)はそろって言葉を失った。代わりに驚愕という言葉を顔に浮かべていた。
異人――探護守偵の瞳は未来を映す、ラプラスの瞳である。
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