第23話 スケルトン

 動く骸骨スケルトンを破壊した後、俺たちは残骸から装備をはぎ取った。

 無事に残っていたのは…ケープ、ブーツと短剣だ。それらを丸めて俺のカバンになんとかして詰め込んだ。骸骨の着用品だが少なくとも悪臭などはしなかったのでホッとした。気味が悪いのはこの際しょうがない。


「町に戻ったら洗濯屋に持っていきましょう。」とウェノラが言う。

 もちろん洗わないと汚いしな…と思ったが、どうやらそれだけではないらしい。

「洗濯屋には、魔術的な浄化と解呪の専門家もいるんですよ。ダンジョン内で拾ったものは呪いがかけられていることも多いですから。」


 というわけで、良さそうなものを拾ってもすぐに装備するのはやめた方がいいらしい。


「さっきは危なかったけど、ふたりともさすが強いですね。」

 皆で鉱脈を崩しながら、話をふった。俺とウェノラが掘っている間、グリシャが見張りを引き受けてくれるのでかなりやりやすい。


「剣士がいると違いますね。近接戦クラスは必須ですから。」と言いつつ、ウェノラは付け加えた。「あとは遠隔攻撃のできる人がいればいいんですけど…。」

「ウェノラさんが魔法を撃てばいいんじゃないですか?サード・ガーディアンのヤグルマギクが吹雪を発射してたけど。ああいうの、なんか無いんですか?」


「ウギー…!」ウェノラが苦しそうな顔をした。「リナーリル神の水術には、攻撃と破壊の術は無いんです…。補助、回復、探知…そういったものに限ります…。ヤグルマギクさんとかはゴリゴリの攻撃系術士なのでタイプが違いますね。」

「そうかぁ。じゃあやっぱり遠隔クラスの人を探さないと。」

「吟遊詩人も何か術があるといいですけどね~。」

「歌で攻撃…鼓膜を破壊、とか。あるかなぁ…?」

「なさそうですね…。」


 しばらく黙々と鉱石を掘っていると、グリシャが小さく声を上げた。

「静かに!向こうの奥から物音がします。」


 俺たちは採掘の手を止め、魔法の光が途絶えた先、暗がりの中を凝視した。砂の流れるような乾いた音がして、またもスケルトンが姿を現した。

 スケルトンは朽ちた布を身に着け、刃が折れた剣を手にゆっくりと向かってきた。乾ききった頭蓋骨に表情はもちろん無く、その動きからは敵意や殺意も感じない。ただ淡々と、機械的に、白骨が歩いてくる。


 この度は不意を突かれることもない。俺たちはまず崩れた壁、手ごろな石をとって投げつけた。

 石が当たるとスケルトンの体勢が少し乱れるが、痛みも恐れも感じないであろう魔物は、ひるむことなく距離を詰めてくる。


 グリシャとウェノラは、折れた剣を振るうスケルトンの攻撃をかわすと、一気に攻勢に転じてそれぞれの得物で殴りまくった。骨がどんどん砕け、あっという間にバラバラになる。

 砕け散った残骸を見る。折れた剣とボロ布。このスケルトンからは得るものはなさそうだ。


「まずいですね。まだ来ますよ!」

 勝利の余韻も何もなく、グリシャが告げる。

 乾いた足音が、奥からさらに聞こえてきた。心なしか音が大きい気がする…。


 魔物が暗闇から姿を現すと、それが気のせいでないことがわかった。今度はスケルトンが3匹だった。

 クロークを羽織り杖をつくスケルトン。頭に兜を乗せて槍を構えた小柄のスケルトン。そして先頭は、金属の胸当てをつけ、大きな戦棍メイスを握った際立って背の高いスケルトンだ。こいつは迫力が違う。よく見れば頭蓋骨は動物のような形だった。


「ひゃー、犬人マルマリだぁ…。」ウェノラがうめいた。

「逃げましょう!」グリシャが叫んだ。「これは勝てないです!今日の探索はここまで!」


 俺たちは全力で走り、来た道を戻っていった。

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