大ネズミの洞窟

第21話 再びダンジョンへ!

「やっぱりオークと一緒は嫌ですか?」

 グリシャを誘った翌朝、町を出てダンジョンへ向かう坂道を下りながら、俺はウェノラに聞いた。


「うーん…。パーティにオークがいることでいろいろ言われそうで…っていうのがちょっと心配ですね…。」

 ウェノラは相変わらず浮かない顔をしているが、それでも一緒についてきてくれた。

「俺もここに来たばかりだし何も知らないから、オークの実態がどうだかはわからないけど。それでもグリシャは信じていいんじゃないかって気がしますよ。彼は誠実だと思う。」

「わたしもそう思います。だから単純に嫌ってわけでもないんですよ。」

「いろいろ悪いイメージがあるだけで、実際付き合ったら楽しいかも。近接戦クラスのメンバーがほしい俺たちにはぴったりだし。これも成り行き…ってことで!」

「そうですね~。」

「少なくとも今のところ、俺の金袋を盗んだスリよりは善人でしょ。」


 グリシャを仲間に入れて酒場を出ようとしたとき、酒場の主人は言った。「あんた、悪いことは言わねえ。オークはやめときな。油断したところを後ろから…グサッとやられるだけだぜ。」

 俺は「忠告ありがとう。気をつけますよ。」とだけ言って店を出た。

 確かに、グリシャと行動することで今後いろいろと、やりにくくなることもあるだろう。だが俺は空想郷に何の縁故も思い入れもない身だ。ひとつ気の向くままに動いてみよう、と改めて思った。

 直感に過ぎないものの、あの少年は良い奴だと感じるし、オークたちがずっとダンジョンとともに生きているというのが本当なら、相応の知見があるはずだ。


「おはようございまーす!」

 大ネズミの洞窟の入口に着くと、グリシャがもう先に来ていて、元気にあいさつをした。

 グリシャは、革の胸当てに、複雑な模様が刺繍された腰巻き、サンダル、そして茶色のクロークという出で立ちで、革帯には例の黒刃の剣を吊っていた。

 犬人マルマリの手足が背の高さのわりに短いのと対照的に、小柄なオークの腕は長く、手が膝に届くほどだった。


 洞窟に入る前に、俺たちは軽く話し合った。今後のことだ。

 皆の目的は違っていたが、ひとまずはそれぞれの技能で何ができるか確かめつつ、少しずつ深く潜っていこうということになった。ダンジョンの奥に行けば行くほど危険は増すが、手に入る戦利品の質は上がってくる。


「よし、じゃあ行きますか!」と俺はふたりを促し探検をはじめたが、当の俺がいちばん技能が無く、特に武装もせず歩いているだけなのだからどうしようもない。


 ウェノラが魔法の光で通路を照らし、グリシャが先頭に立って警戒しながら、3人で固まって進んでいく。だいぶ形になっている気がする。


 ところどころで大ネズミやコウモリが現れるが、今回はウェノラの魔法の霧でやり過ごすだけでなく、グリシャの剣が怪物をなぎ払った。

 道中で少しの鉱石を掘り出しつつ、俺たちはすんなりと最初の階段を下った。


「順調ですね。あとは俺の服とか帽子とか武器とかも手に入れば話が早いんだけど。」

 俺がそう言うと、先頭を進んでいたグリシャが答えた。

「服とか帽子とか武器がありましたよ!」

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