第19話 3人目:オークの剣士

 ウェノラが声をかけて、パーティに加わってほしい旨を伝えると、蜥蜴人ナガの男はこちらのテーブルに寄ってきた。彼はたくましい腕を伸ばして俺たちを順番に指差し、自己紹介を求めた。


「ははん、水術士と…吟遊詩人か!珍しい取り合わせだな!珍しい!」男は楽しそうに笑う。「そうだなぁ。後学のためにもお前たちの技がどんなもんか、見ておきたくもある…が、お前たちはかね稼ぎにダンジョンに潜りたいと言う。だが、俺は、今はスパウ火山に挑戦しに行くのだ。竜の娘に会い、祝福をもらいたい。そして神の火で鍛えた剣も手に入れる…。だからお前たちには残念だ!いずれ目的が合えば共に旅をしよう!」


「スパウ火山は竜神の本拠地のダンジョンなんですよ。」男が行ってしまうと、ウェノラが説明した。「すごく険しい山道と洞窟で、魔物も手強いんです。わたしも行ったことないし、ネクロマンデスが2回挑んだけど2回とも途中で下山してます。」


 つまりあの蜥蜴人ナガは相当強い戦士のようだ。ちょっと俺たちとは釣り合わない。レベルも目的もあまりかけ離れていない、ちょうど良い人がいればいいのだが。あるいは今回限りでも手を貸してくれる強い人とか。


 その後も、俺たちは諦めずに何人かに声をかけた。体格に似合わぬ長い槍をかついだノームの青年や、顔を縦断する大きな傷が目立つ人間の女剣士、穏やかな顔のエルフの格闘家などなど。

 しかし残念ながら良い返事は聞かれなかった。


「うーん、いい人なかなか・・・・いないですね~。」

 ウェノラも諦めて、もそもそと飯を食べている。


 今日は収穫がないかもしれない。だが酒場も人が出入りするから、もう少し待っていればまたそれらしい人が…と考えていたその時、ドアが開いて、知った顔が現れた。

 あの、オークの男だ。


 オークは店内を少し見回し、空いたテーブルに向かうと、食事を注文した。

 彼はまた独りだった。誰かに声をかける様子もなく、彼に声をかける者もいない。


 俺はしばらく様子を見てから、ウェノラに話しかけた。

「あのオークはどうですか。彼は剣士みたいだけど。」

「えっ。あー…。」

 ウェノラは言葉に詰まったが、この考えを歓迎していないのは見てとれた。

「やっぱりオークはダメですか?」

「ダメ…ってわけじゃないけど…はっきり言って、仲間になったらやりにくくなりますよ。オークは嫌いな人も多いし…。」


 嫌いな人も多い…って、あんた自身はどうなんだ?などと、俺は反論したくなったが、ここでウェノラと口論してもしょうがない。

「もし彼が仲間を探してるのに、誰にも相手にされなくて独りになってるんだったら、かわいそうじゃないですか。彼が無頼ローグとかで、好んでひとりでいるんなら断ってもらえば済む話だし。ちょっと声かけてきますよ!」


 俺はそう言って、ウェノラの反応も見ずに席を立った。もしこれで彼女が嫌がるなら、俺はこのオークと一緒に行けばいい。そもそもウェノラとも偶然の出会いだ。出会いもあれば別れもあるさ、と思った。

 それよりも、オークがのけ者にされて、遠くから冷ややかな目で見られているこの状況に無性に腹が立っていた。俺は、元の世界でこういう嫌なものを何か見ていたのかもしれない。記憶は無いが。

 それに、根深い事情がわからないよそ・・者だからこそできることだ。俺がやらなきゃ、という妙な意地も湧いている。


 俺はつかつかとオークのところに歩いていって、向かいの椅子に腰をかけた。

 オークが驚いて俺を見つめる。


「やあ、こんばんは。」と俺はつとめてさりげない調子で話しかけた。「俺はユウダイ。よろしく。訓練場で一緒に手合わせしましたよね。俺はダメだったけど、そちらは剣士になれたみたいで、良かった。ところでいきなりなんだけど、ダンジョン潜りをやるのに近接戦クラスのメンバーを探してるんですよ。よかったら一緒に行ってくれませんか?」


 要件を単刀直入に言ってからオークの顔を見ると、戸惑いのような疑念のような、なんとも険しい顔をしている。

 これは…やはりダメだったかな…と思っていると、オークは俺の言葉をようやく飲み込み終えたらしく、やっとという感じで返事をふりしぼった。

「え…僕を、パーティに…?ということですか?」

「そうそう。そうです。もちろん先約があるなら残念だけど…」

 と、オークが俺の手をガシッとつかんできた。

「本当ですか!?うれしいです…お願いします。ぜひお願いします!」


 オークの顔がみるみるうちにほころんで、笑みが広がった。横に突き出た両耳がピンと張り、犬人マルマリほどではないが鋭い牙が剥き出しになった。

 こうして顔から緊張が解けてみると、オークの男はずいぶん若いというか、幼く見えた。


 オークを促して俺たちのテーブルに連れてくると、ウェノラが弱ったようななんとも言えない顔をしていた。

 

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