第18話 仲間探し

 図書館を出ると、日はもう落ちかけていた。図書館は町の北の高台にあるため、都市を埋め尽くす建物が強い夕日に染められて、絵画のように横たわっているのが見渡せる。

 遠くの空には、青とオレンジのグラデーションのあいだを縫うようにして鳥の群れが飛んでいる。晴れているがとても風が強い。マイーズル神殿の尖塔のてっぺんから凧のようなものが上がり、駆ける雲の中で踊っているのが見えた。


 午後になると気温が下がるため、風に吹かれるとやや寒い。

「ユーダイさん、とりあえず何か着るものを買った方がいいですよ。」とウェノラが言った。


 そうなのだ。俺の服装は病院で着せられたものそのまま。簡素なチュニックに革帯、サンダル、革のバッグというシンプル…というかダンジョンに潜るにしてはずいぶんしょぼい格好だった。さすがにもうちょっとマシなものを着る必要がある。


 ウェノラはといえば、白っぽい服を着て、緑色のケープを羽織り、ブーツを履いていた。手には長い木の杖を持ち、首にはリナーリル神のカニを象ったペンダントだ。

 犬人マルマリは全身が毛皮に覆われているからだろう、酒場でからんできた男たちは上半身に何も着ていなかったし、ウェノラも布切れを軽く垂らしただけのような服だった。

 いずれにしろ彼女の風貌は、一人前の魔術師といった雰囲気でかっこいい。俺も早いところそれなりの格好をしなければ。


「何着たらいいんですかね、吟遊詩人。」

 吟遊詩人と言われてもイメージがさっぱりわかないのでウェノラに尋ねてみた。

「うーん、たまに見る詩人や楽師といえば、きらびやかな衣装を着て街頭で歌ったりもしてますけど…わたしもダンジョン潜りでは詩人を見たことがないから、難しいですね~。戦うならしっかりした格好をしないと危ないし…。」


 ウェノラはしばらく考えてから、言った。

「とりあえずクロークでも羽織って、帽子かぶったら…それなりに様になるかもしれないです。武器がまったく無いのも危ないから、短剣とかも買った方がいいですね。それと一番大事なのは…」

「大事なのは?」

「楽器かなぁ~。」

「あ、そうか。」

「吟遊詩人ですからね。でも楽器はやっぱり値段するので、すぐには買えないかも。」

「安めの楽器ってあるんですか?」

「木の笛とかだったら、そんなにしないかも…。詳しくないけど。」

「笛吹きながら歌えないですよね。」

「あ、そうか。アハハ~。」


 そんなことを話しつつ、丘を下り、市街に入っていく。

 酒場に近づくと、鎧を着けた者たちや、魔術師らしき者たちなどが道の端で話しているのが見えた。酒場は仲間探しの場所でもあるので、パーティ参加の交渉などをしているのだろうということだった。


「わたしたちも仲間が必要ですね~。せめて3人いないと。」

 ウェノラが酒場のドアを開けながら言った。

 ウェノラは誰かと組むのが嫌になったと言っていたが、どうやら俺と行動するのは不快に思っていないようだ。俺は何も知らない転生者だから、付き合いが薄いというか、やりやすいのかもしれない。

 とはいえそのうち分かれることになるのかな、とも思った。


 酒場の中は、すでに大きな話し声や笑い声が満ちていて、とてもにぎわっていた。

 窓際のテーブルに陣取り、食事を注文する。辺りを見回せば、冒険者らしき者たちもちらほらと見える。

「接近戦クラスの戦士を探しましょう。」ウェノラも店内を眺めながら、言った。「剣士、格闘家、ナイトとかですね。わたしたちはふたりともサポート役のクラスなので…このままだと結構やばいです。戦士は戦士でサポートが必要なので、誰か適当な人は見つかると思いますけどね…。」


 しばらく人々をうかがっていると、厚い革の鎧に身を固めた蜥蜴人ナガが目に入った。

「あの人、いいかも。」

 ウェノラが席を立った。

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