第15話 怒り
突然の声に振り向いて見ると、
白い方の男は、俺には構えることすら難しそうな巨大な剣を吊っており、その腕力がうかがえる。
ウェノラはというと、彼らを見て慌てたようで「や、やあ…。」と曖昧な挨拶をして、うつむいていた。
「そう、ウェノラ…だったな、お前。」黒茶の男が小さく笑いながら言った。「まだ野垂れ死んでいなかったとは、驚きだ。」
「フン、少しはマシな術でも使えるようになったのか?」白毛の男は明らかな嘲りをこめて、ウェノラをにらみつけた。革手甲で鎧った大きな拳でゴツゴツとテーブルを叩く。
ただならぬ緊張感だ。ウェノラと彼らの間には何かあったらしい。事情を知らない俺が口出しできることもないし、そもそも彼らふたりの威圧感に気圧されてもいたので俺は黙っていた。
ウェノラもせわしなく視線を泳がせるばかりで、さきほどまでの饒舌が嘘のように口を閉ざしていた。
「フウーン、人間か…。」
白い
「ひょろっちいガキにしか見えないが…」彼は大きな手で俺の肩をつかみながら言った。「お前ほどの水術士と一緒にいるんだ、大した強者なんだろうよ。なぁ?」
「おい、あんまりからかってやるなよ。手を離せ。」黒茶の男が制する。「お前が触って壊したら、かわいそうだろう。せっかくこいつにできた人間のお友達さんなんだからな。また独りになっちまうぞ。」
ふたりは牙を見せ、舌を出してゲラゲラと笑った。
「オッホ!お前、相変わらずこんなもの大事にしてるのか。」
黒茶の男が卓上に並べてあるネクロマンデスのグッズに目をつけた。彼は護符をひとつ摘まみあげると、床に放り落とした。
ウェノラが「やめてください…」と弱々しく制止するのも構わず、白毛の男が重そうなブーツの底で護符を踏みにじる。
「こんな馬鹿どものくだらん配信ばっかり見てるから、いつまでも弱いんだお前は!」
「おい!」俺はさすがに我慢ならなくなって、立ち上がった。「何をするん…」
だが、白毛の男がまた俺の肩に手を置き、ぐっと押しこんできた。すさまじい力になすすべもなく、俺は強制的に座らされた。
「調子に乗るなよ、小僧。まぁ、文句があるならかかってくるのは大歓迎だ!決闘してやる。俺に勝てるんなら…」白毛の男がぐっと手に力を込めた。肩が外れそうだ!「パーティに入れてやってもいいぞ?」
ふたりの
「なんなんですか、あいつら!?」
俺は踏まれた護符を拾いながら言った。ウェノラはすっかり意気消沈している。
「あの人たちは…わたしが前にいたパーティのメンバーなんです。」
「それにしたってひどいなぁ。あんな乱暴な。何かトラブルでもあったんですか?」
「うーん、
「えぇ…みんな荒っぽいんですか?」
「上下関係というか、力関係が厳しんですよ…。リーダーの命令は絶対だし。でも、わたしは昔から馴染めなくて…あのパーティでも、お荷物扱いでずっと馬鹿にされてたんですよ…。」
「ひどいなぁ。辞めて正解ですよ。」
「わたしも全然強くないし、足手まといなのは自分でもわかってたけど…。その後も他のパーティに参加したけど、やっぱりうまくいかなくて…それからは独りになっちゃいましたね。」
「でも、ダンジョン潜りはどうしてるんです?ひとりで潜るのは危ないって言ってましたよね?
「潜るときは、こういう酒場とか広場で仲間を探すんです。その時限りのね。そういう目的で集まってる人も多いですよ。」
「毎回違うメンバーかぁ。それはそれで大変そうですね。」
「でもわたし…しっかりパーティを組むのが苦手になっちゃったので、しょうがないですね…。リナーリルの祠を巡りながら、成り行きで…ぼちぼちやってます。」
「アアーッ!」俺はなんか歯痒くなって、うめいた。「悔しいですよ。あんな風にいじめられて。俺は悔しいなぁ!」
俺のいらだちを見て、当のウェノラの方が戸惑っている様子だった。
「彼らは乱暴ですけど、すぐ過ぎ去る嵐のようなものですから。少し我慢すれば…。」
「ダメですよ!あんな失礼な。ウェノラさんが大事にしてるものを踏みつけて…。我慢しちゃダメですよ!」
「でもあの人たちは強いんです。あんまり文句を言っても、殴られて終わりなんですよ。」
それを言われると参った。彼らは強い。押さえつけられて、俺は体を動かすことも出来なかった。それにしても…。
「それにしても悔しいですよ。そうだ、一緒に見返してやりましょう!俺が啓示石で力を手に入れて、ふたりであいつらを見返してやりましょうよ。」
ウェノラは明らかに乗り気でないようで、口を固く結んで曖昧にうなずいた。
「応援してもらえるのはありがたいけど…どうかなぁ。ともかく、明日図書館に行ってみましょう。」
嫌な目に遭ったせいで、俺もウェノラも口数が少なくなり、すっかり辛気臭いテーブルになってしまった。もそもそと食事をする。
ふと周りを見ると、少し離れたテーブルにひとりでいる男が目に入った。
短く白っぽい毛に覆われた体に、横に伸びた長い耳。質素な革の服を着ている。そうだ。訓練場の試験で俺と手合わせした男だ。彼は剣士として認められたのだろう。腰に剣を吊っていた。
「ウェノラさん、あのテーブルにいる剣士は何の種族ですか?」
俺は気になったので聞いてみた。
「ああ…。オーク、ですね…。」
ウェノラはそう答えたが、何かさらに言いたげな顔だった。
「彼はひとりでいるけど、仲間を探してるのかな。」
「そうかもしれませんね。でも…」
「でも?」
「たぶん、声をかける人はいないんじゃないかな…。」
「なんでです?」
「オークだからです。嫌われてるんですよ。」
「嫌われてる?乱暴なんですか?」
「オークは、人里離れたところやダンジョンのそばに集落を作っていて、死体漁りとか盗みをやってることが多いんです。だから、昔から気味悪がられて、嫌われてるんですよ。みんな関わり合いたくないと思ってるんです。」
「ウェノラさんも?」
「わたし?わたしは…うん、やっぱり恐いですね。まぁオークじゃなくてもだいたい苦手ですけど…。」
「ふーん。」
乱暴者の
空想郷にもいろいろ嫌なことはあるようだ。
もう一度向こうのテーブルに目をやると、オークの男もこちらを見た。視線が交わり、そして彼は目をそらした。
「ふーん。」
俺は何か、形にならない
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