第13話 賭け
啓示石。
神の加護を伝える石である。簡単にいえば、特定のクラスの真髄がその中に封じ込められていて、石を体の中に取り入れることでそのクラスに就き、技能や奥義を瞬間的に習得することができる、というものらしい。
「ええッ!そんな楽な方法があっていいんですか!?」ウェノラに啓示石について説明され、俺はのけぞった。「戦士の訓練とか、魔術師の修行とかしなくても、いきなり力が手に入るってことですか?この石で?」
俺は啓示石を手の中で転がした。石の放つ光が卓上の食事を薄緑に彩る。
ウェノラはビールを一気に飲み干すと、むずかしい顔をして石を眺めた。
「まぁ…楽と言えば楽だけど…そんなに単純な話でもないです。」
そう言って話をつづけた。
ウェノラの説明によれば、こうだ。
啓示石はもともと、魔術師や神官の間で、技能や魔法を継承するために作られはじめたものだ。師が弟子に、親が子に、神官長が後継者に。そうやって何代もかけて知識を受け継いできた。
死にゆく者が、仲間に啓示石を預けて遺志を託すこともある。
また、昔は神々自身がしもべに啓示石を授け、力を与えることもあった。
そのような場合、啓示石を託された者はどの神の加護と威力が封じされたものであるか、石によってどのような力を手にできるかを当然知っている。
だが、ダンジョンの宝や隠された遺品として啓示石を入手した場合はそうはいかない。石によっていかなる力を授かるか、試すまでわからないのだ。
高位魔法の奥義かもしれないし、鍛冶工芸の極意かもしれない。もしくは盗みの技術であるとか、敵意を感知する力、フクロウのように闇の中を見通す力、肉の解体技能…まさにあらゆる可能性がある。
そして重要な点として、啓示石による継承は神の特別の恩寵であり特権であるから、一度得たら拒むことはできない。授かったクラスによって生きることを確約しなければならないのだ。
「完全にバクチじゃないですか。」俺はうなった。
「でもユーダイさん、手当たり次第に神殿とか回ってたくらいだし、この際なんでもいいんじゃ…。」
「そんな無責任な。」
「あなたがこの世界にやってきたのも巡り合わせ。祠の前でわたしと会ったのも、初めてのダンジョンでスライムの中に啓示石が入ってたのも巡り合わせですよ。ここは成り行きに身をまかせたらいいと思いますよ~。」
他人事だと思ってずいぶんいい加減なことを言う。とはいえ他に策があるわけでもない。早いところ何かクラスに就いてダンジョンで宝探しを始めないと。
俺とウェノラは大ネズミの洞窟を出て町に戻ると、鉱石と酸術のワンドを売った。それなりの金になったので、その足で酒場に来てこうなっているわけだ。
啓示石は売らなかった。売らなかった時点で俺の心は決まっていたのかもしれない。
可能性に賭けてみよう。俺はもう一度、石を手の中で転がした。
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