第12話 啓示石

 いきなり、何かに首をつかまれて、俺は慌てて身を引いた。岩壁から離れようとするが、もがけばもがくほど、ぐいぐいと引っ張られる。

 首に巻きついたのは、やわらかくブヨブヨしたものだった。そして冷たい。なんだこれは!


「ユーダイさん!!」

 俺の叫び声を聞いて、この場を離れかけていたウェノラが急いで戻ってきた。彼女は杖で、俺に巻きつく物体を打つ。魔法の力が発揮され、杖で打たれるたびに破裂音をたてて物体がはじけ飛んだ。俺自身も激しい振動にさらされて気が遠くなりそうだ。

 ついに拘束が解かれ、俺は這いつくばって逃げた。破裂して四散した物体は、半透明の、ぬるぬるした、ゼリー状のものだった。杖で打たれ砕けた破片が地面の上でゆっくりと動いている。

 そしてとてもくさい。よどんだ沼地のようなにおいだ。


「スライムです…!あぶなかった…。」

 ウェノラも青ざめた顔をしていた。実際には灰色の毛に覆われているので顔色はわからないが、人間なら青ざめた顔をしているであろう雰囲気が出ていた。


「音もなく忍び寄ってくるし、水のように姿を変える厄介な魔物なんです。」

「びっくり…死ぬかと思った。」

「助けるのが遅れたらそのまま絞め殺されてたかも…。顔に覆いかぶさって窒息させたりもしますね。」


 体の一部が破裂したスライムは、まるで滝の流れが逆流するように、ずるずると岩壁を這い上がりながら亀裂の奥深くに戻っていこうとしていた。


 その時、突然ウェノラが身を乗り出した。

「あッ!石あります!やばい!石入ってます!」

 ウェノラは興奮しはじめ、戻ろうとするスライムをいきなり両手でつかむと思い切り引っ張りはじめた。

 気でも狂ったのかと思うほどの熱狂的な彼女の様子を見て、俺は唖然として立ち尽くす。


「ユーダイさんもはやく!とにかく引っ張り出して!」

 俺は言われるがままに手を貸し、気味の悪いぬるぬるしたスライムを再びつかんだ。ふたりで力いっぱい引くと、力負けしたスライムのゼリー状の体が亀裂から出てきた。

「もうちょっとです!」ウェノラが叫ぶ。


 さらに引きずり出すと、スライムが光りはじめた。

 見ると、スライムの体の中に宝石のようなものが入っていて、それがまわりを照らしているのだった。


 ウェノラが杖に魔力を込めて振りかざし、またスライムを何度も打った。半透明の肉が破裂、四散する。

 スライムはとうとう力尽きたようで、後には散らばった肉と悪臭だけが残った。


「結局魔物と戦うことになっちゃって、すみません。でも、これ見てください。」

 ウェノラはスライムの体内から出た石をかかげた。石は宝石のように澄んだ緑色だが、中でロウソクの炎が揺れるごとく淡い光を放っている。


「きれいですね。これ高く売れるんですか?」

 さきほどのウェノラの興奮を見るに、相当な高級品ではないかと思ったのだ。

「それなりに値段はつきます。でもそれだけじゃないですよ。これ、啓示石っていうんです。」

「啓示石?」

「これでユーダイさんもクラスに就けますよ!」

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