第9話 初めてのダンジョンへ!

「街道は野盗も出るから気をつけてくださいね。」

 ウェノラはそう言いながら、どんどん歩く。俺は後をついていった。

 町の門を出て荒野をしばらく歩きつづけた。ウェノラのブーツと俺のサンダルだけが渇いた地面の上で音を立てている。叫べば声が届くぐらいの距離に、町に向かう旅商人たちの隊列が見える他には人の気配はない。


 俺たちが出会ってすぐ、今からダンジョンに行こうとウェノラは持ちかけてきた。まだ朝だから、早いところさっと潜って、明るいうちに帰ってこようというのだ。彼女の言う、成り行きを信じるということらしい。

 俺は不安もあったが、ウェノラは慣れているようだったので頼ることにした。犬人マルマリは体格にも恵まれており、一緒に歩いていると安心感がある。


「間違っても一人でダンジョンに潜ろうとか考えちゃダメですよ~。」

「一人で探検する人もいるんですか?」

「単独でどこまでやれるかを競う人たちがいるんですよ。命知らずで…死と隣り合わせの時しか喜びを実感できない感じの人たちです。そういう人たち、無頼ローグって呼ばれてます。けっこう頭のどっかがキレてる人が多いからあんまり近寄らない方がいいかも。こんな感じの目、こんな感じの目してますよ。」

 ウェノラはそう言って目を大げさにカッと開いた。


「普通は何人くらいで潜るんですか?」

「4人が多いですねー。バランスがいいんですよね…4人ならできることも多いし、ダンジョン内の狭い場所でも動きやすいし。」

「サード・ガーディアンも4人ですよね。」

「そうそう!今は彼らの影響もあるから余計4人が多いかも。わたしは3人が好きなんですけどね。4人だと話したりしてて自然に2、2に分かれるじゃないですか。いや…別にいいんですけどね。3人の方がわたしは楽かも。」


「今のこの状態、2人だけってのは…どうなんです?」俺はやや心配になった。

「あー…実はちょっと危ないかも…。まぁ、魔物からはとりあえず逃げるって方針でいけば、大丈夫かな~。」

 ウェノラの声は自信なさげだ。勘弁してほしいと思った。


「2人の良いところは…取り分が多いってことですね~。人が多いと、ひとりひとりの取り分が少なくなっちゃうから必然的に深い危険な階層まで潜ることになるんですよ…。だからどっちもどっち、みたいな。」

「ああ、あるほど。」


「オールドスタイルだと6人パーティってのも変わらず人気ありますよ。取り分は少ないんですけど、じっくり探索できるし、初心者の訓練とかにも向いてます。ダンジョン内でキャンプして深く深く潜るなら6人がオススメかも。」

「キャンプとかするんだ。」

「キャンプしますよ~。キャンプ配信してるパーティもいるから見てみるといいですよ。もっと言うとダンジョン内に基地みたいなのを建てて…住んでる人たちもいますからね。」

「えっ!」

「ダンジョン内の拠点で寝泊まりして、そのまま周りを探索して、必要な時だけ町に出てくる、みたいな。20人くらいでチーム組んでたりしますね。中でお店をやってる人もいますからね~。」

「すごいなあ。」

「わたしは大勢で集まるの苦手なんで…ちょっと出来ないですけど。ヒヒ。」


 ウェノラは本当にダンジョン潜りが好きらしく、語り出すと饒舌になった。

 そんなこんなで色々と教えてもらいながら歩いていると、右手に高い崖が現れた。崖の赤茶色の岩肌にはところどころ細いツタが絡まっている。

 ウェノラが指さす方を見ると、洞窟がぽっかりと口を開けていた。


「着きました。ここです。大ネズミの洞窟、と呼ばれているダンジョンなんですよ。」

「大ネズミの洞窟…ってことは…?」

「大ネズミがいる、ってことですね~。」


 俺は緊張しながら洞窟に入っていった。冷たい空気が体を包む。

 こうして俺のダンジョン潜りの冒険がはじまった!

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