第6話 剣士失格
翌朝。俺は失意のうちに、ほこりっぽい訓練場の隅に立っていた。
昨日、金の入った革袋がなくなったことに気づいた俺は、宿屋の主人に尋ねたり衛兵の詰め所に行ったりと駆けずり回った。広場に戻り、
衛兵によれば、おそらくスリにまんまとやられたのだろうという話だった。そして犯人が捕まり、お金が手元に戻る可能性はほぼ無い、と。
最悪だ。俺は宿屋のベッドに倒れ、うなった。その後眠りに落ちたものの、心痛からか嫌な夢を見た。
宿屋の主人が不憫に思ったらしく、一週間は簡単な食事の面倒を見てやると言ってくれた。
こうして簡素な朝食にありつき、朝から訓練場にやってきた。
「整列ーーッ!!」ミラー隊長が叫ぶと、袖なしの薄い服とサンダル姿の者たちが、わっと集まった。
ミラー隊長は中年の人間男で、特にいかつい外見でもなかったが歴戦の兵士らしい。年季の入った革の服に無骨なヘルメットをかぶっている。
「ヨーシ、それでは試験を開始する。」
ミラー隊長が進み出て、整列した人々の足元に1本ずつ木の模造剣を投げていく。
「転生者、いきなりだが君にもやってもらう。聞いているかもしれないが、私も転生者だ。期待している。」
俺の足元にも木剣が投げられた。
順番に、二人一組での剣闘がはじまった。
ミラー隊長の号令で最初の二人が打ち合いを開始。片方が相手の体を木剣で打つと、仕切り直しだ。何度か剣をまじえると、隊長が止めるよう命令し、次の組にうつる。
すさまじい打撃で相手を圧倒する強者もいたが、ミラー隊長は立ったまま顔色ひとつ変えず全員の戦いぶりを眺めている。
俺の番が来た。相手は…他種族の男だ。俺より背が低いが、身長に比して肩幅が広く、腕が長い。肌は白っぽい短い毛に覆われている。耳はエルフより大きく、もっと動物っぽい感じだ。
彼は緊張しているのか、不安げにチラチラと俺を見ている。
俺は病院でもらった粗い布のチュニックと革帯、サンダルを身に着けていたから、そのままで動きやすかった。木剣を構え、相手を見据える。
俺は剣闘の技術はなかったが──もしくは元の世界であったかもしれないが、とりあえずやってみるしかない。
「はじめ!」隊長の号令で打ち合いをはじめた。
結果は…まったく振るわなかった。俺は相手に3回剣を当てられ、試験は終わった。
試験は素質を見るためのようで、勝敗と合否は関係が無いらしかった。隊長は5人の合格者を選び、剣士の資格を与えた。俺が戦った他種族の男も合格だ。
俺はダメだった。
「落胆することはない。君はもっと訓練をする必要があるが。望むなら教えてやろう。」ミラー隊長はそう言って俺を帰した。
だが訓練をしている時間はない。とにかくすぐに何かクラスに就いて、あるいは町で仕事を見つけなければ。お金がすべて無くなってしまったのだから。
転生早々この仕打ちとは…。俺は頭が痛くなったが、くさってる余裕もない。
何か他のクラスはないか、また斡旋所で聞いてみることにしよう。
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