第4話 サード・ガーディアン

「テレビってのは幻水晶テレクリスタルを利用した映像通信のことだ。ここのどでかい四角い板は幻水晶で出来てて、魔法を使って遠くの出来事をここに映してるんだ。もちろん音も魔法で拾ってる。」

 上級町人ブレットは身ぶりをまじえて説明した。


「じゃあ、この映像はどこかで起こってることですか?」

「そうそう。これはライブ配信だからな。」

「この人たちは…?」

 角や尻尾がついた黒い肌の少女が二振りの短刀をあやつり怪物を八つ裂きにする映像を指さしながら、俺は尋ねた。


「ああ、彼らはサード・ガーディアン。今いちばん強いダンジョン潜りのパーティだよ。たくさんのダンジョン潜りたちが活躍してるが、彼らほど人気のパーティはいない。配信視聴数もダントツだ。サード・ガーディアンのグッズとか幻肖像画ブロマイドとか調味粉フリカケもめちゃくちゃ売れてる。」

「そうなんですか…。スターみたいなもんですかね。」

「スター中のスターだな!なんたってダンジョン潜りは空想郷でいちばんの娯楽だからな。みんなが配信を楽しみにしてるよ。」


「おッ!ダンジョンのぬしだぜ!」ブレットはそう言って、街頭テレビを指さした。

 全身ウロコに覆われた巨大なモグラみたいな怪物が画面いっぱいに映った。広場の観衆がどよめく。人もどんどん増えてきた。どうやら配信のクライマックスらしい。


 サード・ガーディアンの四人は果敢に立ち向かい、激しいバトルがはじまった。

 金色の鎧の男が進み出て、怪物の振るう鋭い爪を金色の盾で器用に弾く。その攻防を縫って角のある少女が怪物に急接近し、ウロコの隙間を的確に短刀で突く、突く、突く!

 怪物は激昂し、長い尾を振るった。尾の先端についたトゲトゲの塊が、白ローブの魔術師に襲いかかった。だが彼女が吹き飛ぶより先に、猫耳の男が割って入り、重々しい手甲を着けた拳で強烈なパンチを繰り出した。衝撃音が響き、怪物の尾が弾き飛ばされる!

 怪物がひるみ、動きが鈍る。魔術師はその隙を見逃さなかった。彼女が杖をかかげて呪文を唱えると、猛烈な吹雪がほとばしり出て怪物に降り注いだ。怪物が凍りついた。

 猫耳の男はすでに怪物の面前で構えを取っており、気合の叫びと共に顔面に拳を叩きこんだ。怪物は大きな悲鳴を上げ、よろめくと、ついに巨体を横倒しにして動かなくなった。


「やったーーー!!やりおったーーーッ!!!サード・ガーディアンが無限洞窟49フロアを突破!!かつてない!かつてない偉業だーーーッ!!もう誰もサード・ガーディアンを止められない!!!」

 実況も大興奮で、広場は大変な騒ぎになった。


 ライブ配信が終わり、群衆が解散しはじめると、ブレットが俺を指さした。

「ところでお前、どうするんだ?」

「どうする…って?」

「どっかから転生して来たんだろ?ダンジョン潜りに挑むのか、それとも別の仕事を見つけて暮らすか。これからを決めなきゃな。」


 ダンジョン潜りなんてとんでもない、と俺は思った。さっきのライブ配信はものすごかった。だからこそだ。あんな恐ろしい怪物と戦うなんて、とてもそんな芸当はできない。

「いやー、どう考えても俺には無理ですよ。あんなすごい戦い...。」


「あいつらは特別!」ブレットは俺の肩を叩いて笑った。「サード・ガーディアンは無双のチャンピオンだ。誰も彼らみたいにはなれないさ。そうじゃなくても、怪物を避けながらダンジョンを探索して宝を持ち帰るだけでもそれなりの稼ぎになるんだ。それにダンジョン攻略アドバイスとか、魔物の生態紹介とか、カップルでのダンジョン潜りとかを配信してかねを稼いでるやつらもいっぱいいる。」

「みんなたくましいですね。」

「だから心配しなくてもいい。誰でもはじめは初心者だ。サード・ガーディアンだってそうだった。」

「そうですか。とりあえず斡旋あっせん所に行こうと思います。それから考えます。」

「そうだな、あそこに行けばお前に合う『クラス』を紹介してくれるぞ。俺が案内してやろう。これも上級町人の仕事だ。」


 こうして俺はブレットに連れられて、斡旋所にたどり着いた。

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