大都市ゴッタ・ガエース

第3話 街頭テレビ!?

 空想郷とやらのベッドで目覚め、突然現れた爺さんに不思議な話を聞かされた後、俺は数日間その建物で休んでいた。


 はじめは困惑するばかりだったが、少しずつ話を聞くといろんなことが分かってきた。

 まず、俺がいるこの建物は病院だった。爺さんは医者で、女の人は助手だ。

 爺さんは実は人間ではなく、ノームという種族。炭のような色の肌も、子供みたいに小さな体格も、大きくて高い鼻も、みんなノームの特徴だった。


 空想郷には人間がいちばん多く住むが、エルフ、ノーム、獣人、オークなどの種族もいる。稀にとても珍しい種族が異世界からやってくることもあるらしく、転生魔術師たちはそれも期待しているようだ。

 だが今回やってきた俺は、記憶も特殊能力もなかったし、種族もありふれた人間だったから、魔術師たちは失望したんだろう。勝手に失望されてもいい・・迷惑だけど。


 3、4日すると体の痛みがだいぶ治ってきたので、退院した。

「マァ、お前さんが何も持たずにここに来たのは不運なのか幸運なのか、わからんがな。ひとまず町の斡旋あっせん所に顔を出して面倒を見てもらうといい。」

 爺さんはそう言うと、小さな重い革袋を俺に手渡した。中にはコインが詰まっていた。

「ウン、これは当面のかねだ。それから宿屋にはお前さんのことを伝えてあるから、ひとまず一週間はタダで泊めてくれる。『五本樫ファイヴ・オークス』という宿屋だ。そこから先は、自分で食い扶持を稼ぐんだな。マァ、何か困ったらまた来なさい。」


 とりあえずお金をくれたし、けっこう手厚いことだ。たびたび転生者が来るからそういうことも慣れてるんだろう。

 俺は爺さんと助手に挨拶して病院を後にした。正午を少し過ぎていて、天気は穏やか。風が気持ちいい。


 爺さんに教わった通りに街路を進み、町の中心部に向かった。道は、とても広い円形の広場につながっていた。広場は人でいっぱいだ。たくさんの露店も出ている。広場の中心には、古い勇者たちと神の像が立っていた。


 すごいにぎわいだ。これこそが大都市ゴッタ・ガエースなのだ。

 医者の爺さんによればゴッタ・ガエースは大きな街道に隣接していて、いくつもの都市やダンジョンへのアクセスが良いらしい。

 そのためたくさんの人や物がゴッタ・ガエースに集まり、繁栄しているのだ。ダンジョンから出た戦利品を買い取る商人や、武具や探検グッズの販売業者、仲間を求めるダンジョン潜りたちもここにやってくる。

 初心者のための訓練場や、神々の神殿、各種の組合ギルドなども揃っている。


 広場を歩いたり、話したり、思い思いに過ごす群衆を観察すると、たしかに多彩な種族の住民がいるようだ。医者の爺さんと同じノームの一団もいるし、角が生えている種族もいる。全身に毛の生えた獣人と、ごつい鬼みたいな人が談笑している。


 斡旋所はどこかとキョロキョロ見回していると、向こうからワッと歓声が聞こえた。そっちに目をやると、広場の一角がものすごい人だかりになっていて皆が騒いでいる。

 気になって騒がしい群衆の方に近寄った。すると広場を見下ろす建物の壁に、巨大な長方形の「画面」が据え付けられていて、「映像」が映っているのが見えた。ああ、こういうやつ、知ってるぞ。町中にある画面...。うっすらと遠い記憶が揺さぶられる。


「さぁーーッ!今だ!我らがヤグルマギク!渾身の…ヘルフレイム!!!決まったァァーーッ!!!」

 巨大画面の左右にある小さな塔のようなものから、熱気に満ちた声が聞こえる。それに応えるように群衆もワアワアと歓声を上げた。


 巨大画面には、肌が白く銀髪で白いローブを着た女の人が、大きな杖の先から激しい炎を放っている様子が映し出されている。

 つづいて巨人みたいな怪物が炎をぶつけられて倒れる様子。金色の鎧を着けた白髪の男が、白ローブの女に駆け寄る。

 また映像が切り替わり、大きな黒い虫が洞窟の奥から─ここは暗い洞窟らしい─わらわら出てきた。今度は頭に猫みたいな耳がついている獣人の男が虫の群れに飛びかかり、すさまじい勢いでパンチをぶちこんだ。虫が次々に破裂していく。


「フォレックの拳はまさに神の拳!誰も止められなーーーいッ!!!」

 巨大画面から声が響くと、また群衆が熱狂する。


 群衆から少し離れたところで、何か飲みながら眺めている男に俺は聞いてみた。

「これって、何ですか?」

「ん?何って何が?」

「いやぁ、実は俺、ここに来たばっかりで何もわかんないんですよ。転生ってやつで。」

「おお、お前が転生者かー。新しいやつが来たって話は聞いてたぜ。よろしくな、俺はブレット。上級町人だ。」

「上級町人?もしかして貴族の方とかですか?」

「いやいや、ただの町人だよ。でも上級だから、新入りに町のこととか世界のことを説明するのが上手いんだ。手慣れたお節介焼きってとこだな。」

 ブレットはそう言って、笑った。


「で、お前は来たばっかりでこれが何だかわからないんだよな?これは、街頭テレビだ。」

「街頭テレビ?」


 俺は、ちょっと聞き覚えがあるような気がした。

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