ケースNo.2 及川小次郎

第9話 プロローグ

 あの味が食べたい。

 病床に伏す大富豪が弱々しい声で呟く。

 この人物は日本の山奥に住んでおり、全盛期に作ったコネクションを元に財を築いた人間だった。

 そんな彼が懇願する最後の晩餐。

 それを作れる人間は、日本はおろかこの世界に今は存在していない。


「あるものを用意していただければ、お望みの料理を作れる人間を探してきましょう」


 そんな彼に語りかける聞き覚えがある天の声。

 朦朧とした意識が生み出した幻聴かもしれないその声に、彼は律儀に応えた。

 彼の名は及川竹造。

 かつて、とある神に仕えた後に、資産と人脈を蓄えて、政界のフィクサーとして一時代を築いた男である。

 今は見る影のない彼に話を持ちかけたのは転職の神ブラフマン。

 ブラフマンが動くということは、フェイトの仕事の時間である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る