第12話 殿下の誕生日プレゼントを買いに行きます!
◇◇◇
百貨店は年中無休のため、シフト制でそれぞれ週に二日バラバラに休日を貰っているという仕組みだ。
今日も平日休みで、私はウィロウさんと共に馬車に乗って王都へ出かける。
もちろん護衛もついていたけれど、馬車から降りて買い物をする間は見えないところで見張ってくれているらしい。
些細な配慮が嬉しかった。
「うーん……何がいいかなぁ」
雑貨店や洋服店に入りながら、ノア殿下に似合いそうなものを探す。
ノア殿下って綺麗な金髪をしているから……それに映えそうなジュエリーを買うのはどうだろうか。
「ウィロウさん、この辺で宝飾店はある?」
「王侯貴族御用達の宝飾店でしたら、こちらの細い路地を歩いて左側にございます」
ウィロウさんが案内してくれて、私はその高級宝飾店に入った。
他の護衛には言っていないけれど、ウィロウさんには今日の外出はノア殿下の誕生日プレゼント用と伝えてある。
ウィロウさんに伝えたら、「まあまあ! 素敵なプレゼントを買いましょうね」ととびきり喜んでいた。
宝飾店は広く、様々な宝石が埋めこまれたジュエリーが陳列している。
こないだお給料を貰ったばかりだから……私のお財布で買えるのは手前に陳列しているジュエリーだろう。
迷っていると、男性の店員がこちらにやってきた。
「お客様。間違っていたら申し訳ございませんが、ノア・ベルクルーズ殿下の婚約者様でございますか?」
「え、ええ。どうしてご存知で?」
「こちらにお買い求めになるお客様から、よくお話を聞くんですよ。ノア殿下の婚約者様は、ミルクティーベージュの巻き髪に桃色の瞳で、とても美人だと」
な、なるほど、ここは王侯貴族御用達の有名宝飾店なわけだから、こないだのお披露目パーティーで来ていた人たちも利用するんだわ。
しかも美人だなんて褒められてしまって、私は少し照れてしまった。
「あ、ありがとうございます」
「何かお探しのものがございますか?」
「今度、ノア殿下のお誕生日なのでプレゼントを差し上げたいんです。自分のお金で買いたいので、こちらからこちらの棚のものまでが予算的に合うんですが……」
「なるほどなるほど。ノア殿下はお綺麗なプラチナブロンドの髪ですから、ゴールドのアクセサリーもシルバーのアクセサリーも映えますよ。例えば……このピアスや、イヤーカフとか」
「わあ! すごく綺麗!」
店員が勧めてくれたアクセサリーは、シルバーに輝く丸いピアスと、ゴールドの豪華なイヤーカフだった。
どちらもピカピカに輝いていて、ノア殿下に似合いそうだ。
「ピアスのほうは、北の海の貝から獲れるジュールと呼ばれる宝石で、イヤーカフは南西地方にあるパターリャ鉱山から取れる希少な宝石、リマルンが埋めこまれています。リマルンは赤色の宝石ですが、柔らかく輝きますのでとても上品ですよ」
店員が手袋をしてケースからイヤーカフとピアスを取り出してくれる。
どちらも美しいけれど……殿下はよくピアスをしているから、イヤーカフのほうが喜んでくれそうだ。
「じゃあ……リマルンのイヤーカフでお願いします」
「かしこまりました。では、お会計致しますのでこちらへお進みください」
店員が案内してくれる。
さすが王侯貴族御用達の店なだけあって、店員も姿勢が良く丁寧で、てきぱきと動いていた。
私も学ばなければと、店員をバレない程度に観察する。
「良い買い物はできましたか?」
会計を終え、外で待っていたウィロウさんが、イヤーカフが入った小さな袋を抱えた私に向かって、にこにこと訊いてきた。
「ええ。ノア殿下、喜んでくれるといいのだけど……」
「クロエ様からのプレゼントなら、どんなものでもノア殿下はお喜びになりますよ」
どういう意味だろう。
よくわからなかったけれど、私たちは馬車を留めている場所へ歩き出した。
王都はやはり貴族が多く、着飾った人々が多い。
品のあるロングワンピースを着た人や、腰まで髪がある人、高いヒールでコツコツと歩く人……。
いろんな人を見るたび、あ、この人こういうメイクが合いそうだな、この人うちのブランドのコスメを使ったら華やかになりそうだな、なんて思う。
私もすっかり仕事に染まっていて、でもそれが前世のときより嫌じゃなかった。
「……クロエさん?」
「あ、メルアさん」
歩いていたらちょうどメルアさんが通り過ぎるところだった。
メルアさんも休日だったらしく、たくさん買い物したのかいくつもの袋を抱えている。
ウィロウさんも会釈し、メルアさんも「初めまして! クロエ様の同僚のメルアと申します」と挨拶していた。
「ちょうど良かった。お聞きしたいことがあったんですよ」
「聞きたいこと?」
「はい。実は、最近うちのコスメが万引きされてるっぽいんですよ。何か知りませんか?」
メルアさんが声を潜めて話す。
万引き……? そんなの初耳だ。
もしかして、こないだのって……。
「私が出勤してたとき、店頭からパウダーが一つなくなってたんです。他の部員さんが会計してくれたのかと思ってたんですけど……あれも、もしかして」
「ええ、万引きだと思います。私たちの店だけじゃなく、他の店も被害に遭っているんですよ。香水店とか」
万引きだなんて……王都のど真ん中の百貨店でも、そんなことをする人がいるんだ。
万引きされると売り上げにも関わってくる。早々に犯人を見つけなければ大変なことになるだろう。
「店長とも話し合って、近々万引き防止の貼り紙を出す予定です。クロエさんも出勤の最中、周りを注意して見てみてください」
「わかりました」
メルアさんの言うとおり、私も気をつけて店内を見張ろう。
メルアさんは一通り話すと、「また仕事先でお会いしましょうね」と手を振って行ってしまった。
買い物も済んだことだし、貴族専用の馬車に乗りこむ。
「ねえ、ノア殿下が好きな料理とかってわかる?」
「ノア殿下がお好きな料理ですか?」
ウィロウさんは「うーん……」と唸ってしばらく考えこんだ。
やっぱり、誕生日当日にはノア殿下に料理を作ってあげたい。
ノア殿下は私のことをどうも思ってないし、興味だってないのだろうと思うけれど、でも彼が生まれた日なのだからしっかりお祝いしたかった。
「ノア殿下は確か、料理だとミネストローネがお好きで、甘いものだとクッキーをよく召し上がっておられますよ」
「ミネストローネとクッキーね。じゃあ……誕生日の日に厨房を貸してもらえることはできる?」
「クロエ様のご命令であれば、料理長も頷くと思いますよ」
ウィロウさんがにこりと笑う。
よし、誕生日の日はミネストローネとクッキーを作ろう!
拳を握ってガッツポーズを作り、気合いを入れて帰宅した。
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