第6話 好きなメイクと、似合うメイク


 レジ点検をし、パフやブラシの掃除をしているころ、この店をうろうろしている女性が見えた。

 ボブのピンク髪の女性で、十代後半か二十代前半くらいだろう。


「お客様、何かお探しですか?」

「えっと……今日学園の同窓会なので、自分に似合う感じのメイクがしたくて」

「似合う感じのメイク……なるほど。学園の同窓会、いいですね! 楽しそうです」


 私も高校の友達とかと集まって飲んだりしてたなあ。

 この世界でも同窓会があるとは。

 私が笑顔で言うと、ピンク髪の女性は苦い顔をして俯いてしまった。


「その……結構サバサバしてる友人から、そのメイク似合ってないよって言われてしまって。今日は、その人も含めた学園のみんなとの同窓会なんです。だから、馬鹿にされないように似合うメイクがしたくて……」


 いるわー、そういう自称サバサバ系女子。

 サバサバしてるんじゃなくて、単に無神経なだけなのよね。


 私は怒りの気持ちをぐっと堪え、女性の顔色や髪色を観察した。

 髪色は透け感のあるシアーピンク。

 肌は青白く、透明感がある。


 上品で知的な印象を醸し出すこの女性は……日本でいうブルベ夏のようなパーソナルカラーだろう。


「承知いたしました。ぜひお客様に似合うメイクを致しますね! こちらの椅子に座っていただけますか?」

「は、はい。よろしくお願いします」


 メイクはベースメイクと眉のみしか施していないらしく、アイメイクからしてもいいか聞くと、「お願いします!」と気合が入った声を出してくれた。


「せっかくの同窓会ですので、華やかな印象にしましょう。こちらのピンクブラウンのアイシャドウはいかがですか?」

「わ! 可愛い!」

「絶妙なカラーで、少し青みがかっているんです。お客様の肌色にぴったりだと思います。アイホールに乗せていきますね」


 私が提案したアイシャドウは、これでアイメイクが完成できる四色のパレットだ。


 左上が一番明るいパールピンクのシャドウで、右上がくすみピンク、左下がピンクブラウンのラメが入ったシャドウ、右下がラメが入っていないマットな濃いピンクブラウンとなっている。


 価格は銀貨二枚と安いけれど粉質に十分こだわり、塗りやすさと発色の強さにもこだわった商品だ。


 まず、明るいパールピンクのシャドウをベースとしてアイホール全体に塗っていく。

 さらにくすみピンクを黒目から目尻にかけて。

 濃いピンクブラウンを目尻に締め色として乗せ、縦割りグラデーションの完成だ。


 ラメがピンクブラウンのものしか入っていないため、青みピンクのグリッターライナーで黒目の下と黒目の上にラメを足していく。


「アイライナーもバーガンディー色のものでこなれ感を出していきますね」


 バーガンディーのリキッドアイライナーを目尻に引き、テラコッタピンクのペンシルライナーを切開ラインにくの字に引く。

 これで、目力が足される。


 マスカラはピンク味のあるグレージュのものを。

 下地を塗ってから重ねることで、同窓会で長居していても崩れることはないだろう。


「ハイライトは、ラメの多いものに致しますか?」

「はい! バチバチに塗ってください」


 顔にメリハリをつけるハイライトは、かなりキラキラと光るラメタイプのものを選ぶ。


 アイメイクが濃いため、チークは薄づきの青みピンク系で仕上げる。


 リップは食事をして落ちないようにティントを塗って、パールが入ったグロスを重ねる。

 メイクの完成だ。


「完成致しました。いかがでしょうか?」

「すごい……自分じゃないみたい。本当に、自分にぴったり合うメイクでびっくりしました」

「お客様は髪色がとても綺麗なシアーピンクですから、ピンク系やラベンダー系のメイクがお似合いですよ! でも……」

「……?」


 私はずっと言おうか迷っていたことを、意を決して口に出す。


「自分の好きなメイクをして、いいんですよ。似合ってないとか、似合うとかじゃないんです。誰に何を言われたって、自分のしたいメイクをするのが一番ですよ」

「……っ! はい、ありがとうございます……!」


 女性が少しだけ瞳を潤ませて微笑む。

 似合ってようが似合わなかろうが好きなメイクをしていいのだ。

 文句を言う人には言わせておけばいい。

 好きなメイクをしているときの自分は、きっと最高に可愛いのだから。

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