第3話 掃除

 さて、今回暗殺するのは市民の大切な血税を湯水のごとく無駄遣いする政治家になります。権力も悪用して身内の犯罪をもみ消すようなヤツですから、お亡くなりにするにはちょうどいいですね。今日は肉を切っていきたいので刀を用意します。扱うのに慣れが必要ですが、使えるようになると大抵のものは切れるようになりますから大変便利です。さっそく獲物の住みかに潜入しましょう。今日は自宅の屋敷にいるはずです。家族も暴言を吐いたり、立場の弱い人間に暴力を振るうようが人間性を疑うようなモラルがないクソなので一緒に殺っちゃいます。はい、こうして足腰を鍛えていれば簡単に誰にもバレずに目標の家の屋根に乗ることができます。生意気にも警備を雇っていますが、死角である屋根にいれば問題ありません。やたら大きなバルコニーに降りて、窓ガラスを持ってきた刀で目にも留まらぬ早さで四角いガラスを作るように切ります。この時、なるべく窓の鍵の近くにしましょう。そうしたら、切った部分をおもいっきり刀の柄で打ちます。部屋は全て分厚いカーペットが敷いてあるので、割れる心配はないです。空いた四角い穴から手を伸ばして鍵を開けて侵入しましょう。侵入経路は同じように屋根に穴を空けて屋根裏から入るのもいいですが、今回はあまり大きな音を立てたくなかったのでこっちのやり方にしました。やりたいことや家の中の家具の配置、状況によって使い分けましょう。無事に侵入成功したらあとは気配を探って人がいる部屋に入りましょう。事前に家族構成は把握して関係ない人は殺さないように注意ですね。一番近くの部屋にドラ息子がいるようです。さっそく入ってみましょう。ドアを開くのは最小限に極力小さな隙間から入ります。意外な事に音も無く入れば人間は気づかないものです。おや、どうやらお休みみたいですね。しかも三人の裸の女性と一緒です。こちらは家族のリストにないので無視します。衣擦れの音に気をつけて速やかに首を切断。居合切りで骨までスパッといけました。気持ちがいいですね。さあ次に行きましょう。今度は奥さんの部屋のようです。こちらも寝ています。息子と違って一人ですが、部屋のいたるところ宝石が飾ってあって大変趣味よろしいようです。こんな部屋で永眠できるのなら本望でしょう。最後に本人を探しますが見つかりません。家族も使用人も全員見つけたのですがおかしいですね。こういう場合は一階を集中しながら歩き回ってみましょう。地下に気配を感じました。やはり設計図にも描かれていない秘密の地下室があるみたいです。設計図を見て不自然な空間がないか確認しましょう。無ければ設計図と実際の間取りを見比べて不自然なところや、少し違うところを探します。ありました。設計図にはありませんが、三階の書斎と隣の部屋の間が不自然に離れています。二階も一階も同じように部屋と部屋が離れています。書斎が入り口で、地下に下りていく階段があるのでしょう。本棚を動かすと思った通り階段がありました。かなり下りていきますね。地上三階分と地下一階分下りてもまだあります。もう一階分下りると、隙間から明かりが漏れる鉄の扉がありました。耳をすませると女性の悲痛なくぐもった声と鞭打ちの音が聞こえます。血の香りします。どうやら拷問が趣味のようですね。

 「ふう。この前は左腕だったから、今日は右腕を切り取っちゃうぞ! 明日は右脚で次は左脚で、最後はお目目をくり抜いちゃうぞ!」

 これはいただけませんね。今日は切る役は一人だけなのです。もう面倒なので鉄の扉をバラバラに切って突入します。鉄の破片が重力で崩れ落ちる前に突進で部屋に入り込み、その後は一回の踏み込みで政治家の男をダルマ状態にします。女性を拘束している器具も切って解放してあげます。治療魔法に多少の心得があるので女性にかけてあげます。本来は患部にのみ魔法をかけますが、これだけ全身に傷があると一か所ずつやるのは手間なので体全体にかけておきます。すると、なんてことでしょう。血も滴るボロボロの女性が一気にお肌はゆで卵のようにツルツルになり、適当に刈られたり燃やされた髪もつやのある黒の長髪になりました。左腕も止血のための包帯を押しのけてぐんぐんと伸び、完全に元通りになりました。そこには拷問されていた見るも無残な女性はいなくなっていて、代わりに絶世の美女がいました。伸びた前髪が邪魔ではっきりと見えませんが、隙間から覗かれる顔のパーツは大変整っています。裸で拘束されていたので、とても妖艶です。このままだといけない気持ちになってしまうので、ダルマの処理に頭を切り替えます。拷問してから始末したいですが、人の前でやるのは気が引けます。しょうがないので、暴れる男の襟を掴んで上に運ぶことにしました。うるさいので、タオルをかませて後ろで結んでおきます。手足があったところを止血して、解放してあげます。一生懸命に逃げますが、足がないためとても遅いです。芋虫のようで愉快ですね。刀で切りつけながらゆっくり追いましょう。獲物を弱らせて狩るハンティングのように一気に仕留めません。必死に助けを呼びますが、家族はすでに始末しました。念のため、殺さなかった使用人たちには一日は絶対に起きない薬を飲ませておいたので安心ですね。あ、階段を転げ落ちていきました。腕がないので、転んでも手をつくことができないのでまともにぶつかってしまうのでとても痛そうです。しばらく様子を見ることにしました。それからも頑張って這って転がって移動していきました。階段を全て下りるころには全身打撲で顔にも青あざがいっぱいです。手足がないのにこんなにも頑張る姿はとても感動的で、こんな物語があれば感動を禁じえません。感涙です。ハンカチはぐしょぐしょになって使いものにならなくなってしまいます。玄関を目指しているようです。外に出れば警備の人がいるので助けてもらえます。玄関までもう少しです。もう少し頑張れば助かることができます。こんな体になってしまったけど生き残ることはできます。生きていれば勝ちです。あと少し、あと少し。すりガラスから月の光が入り込む玄関が見えました。尺取虫のように額を床にすりつけて、前は見えないけれど、うめき声が漏れても、一心不乱に進みます。頭が何かにぶつかりました。ついに玄関にたどり着くことができたんだ! 希望を持って顔を上げると、そこに立っていたのは男の手足を切り落としたレジーでした。頭にぶつかったのはレジーの足だったのです。男の顔は一瞬で絶望に染まりました。レジーの顔はマスクでわかりませんが恍惚としていました。刀を片手で下から上に振り上げれば、男の頭は顎から頭のてっぺんまでパッカリ半分になりました。以上で暗殺は終了です。お疲れさまでした。

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