妹は推しを兄と結ばせたい その4
「見て見て、栖孤ちゃん! おサルさん!」
「……まめ。アレ本当に猿か? 妖怪じゃなくて? アタシの知り合いそっくりだぞ」
「おサルさんだよ。シシオザルって言うんだって!」
手早く入園の手続きを済ませて動物園へと入ると、最初に出迎えたのは猿ゾーンだった。猿だけで十数種類はいる。改めて見るとこんなに種類が分かれることに驚く。
一番はしゃいでいるのはやっぱりまめちゃんだったけど、その次にはしゃいでいたのは栖孤さんだった。ちょっと意外かも。二人は一緒に回るみたい。コレはチャンスだ。後はアタシがミコちゃんを引き離せば、カオリお姉さまと兄ちゃんを二人きりにできる。
「はしゃいでますねー、まめさんと栖孤さん。私たちも負けてられませんね! サダヒコさま、猿山に投げる用の猿のご飯売ってるので買いましょうよ!」
流石ミコちゃん、手が早い。ミコちゃんはアタシが兄ちゃんとカオリお姉さまを結ばせようとしてるのを知ってる。アタシが動くより前に動いた。アタシの視線に気づいてか、ミコちゃんは勝ち誇ったように笑う。
「嫌だよ、俺の昼飯代なくなる」
うん。兄ちゃんも流石だった。
そんな理由で餌やり用の断る人初めて見たよ……カオリお姉さまも苦笑いしてるし。でもコレは使える。
「兄ちゃんからもらったお小遣いあるから、アタシとやろうよミコちゃん」
「な……!?」
「おー、行ってこいよ。俺は金玉青い猿見てくるから。いるかわかんないけど」
「もう。一緒に見て回ればいいのに。サダヒコはわたしがついていくから、ミコさんとサツキさんは行ってきていいよ」
ミコちゃんは開いた口が塞がらないようだった。
計算通り。兄ちゃんは協調性がないから一人行動しようとすると思った。それをカオリお姉さまが付きそう流れに至るまでアタシの手のひらの上。今度はアタシがどや顔をする。
ミコちゃんはてくてくと離れていく兄ちゃんとカオリお姉さまの背に手を伸ばしかけて止めた。
「……やってくれますね、サツキさん」
「兄ちゃんの扱いじゃまだまだっしょ、ミコちゃん」
「でもいいんですか? サツキさんは委員長さんとサダヒコさまのイチャイチャが見たかったんじゃないですか?」
アタシがたじろぐと、ミコさんは口の端をつり上げる。
しまった、鎌かけだ! うっかり反応しちゃった。
「どうです? サツキさん。ここはひとつ、あの二人の後を追いませんか?」
「だ、駄目に決まってんじゃん! 猿山に餌投げんの!」
「えー? それでお腹が膨れるのはおサルさんだけですけど、お二人を見ていればサツキさんの欲求は満たされるんじゃないですか?」
それは確かに。うう、ミコちゃんは兄ちゃんよりもアタシの扱いの方がわかってる。
考えてみればミコちゃんは家に押しかけて来たわけだから、周りから取り込むほうが得意なのかもしれない。外堀を埋めていくタイプ。すでに胃袋は掴まれてるわけだしミコちゃんはかなり強敵なんだよね。
兄ちゃんはガンガン来るタイプはそんなに好きじゃないだろうけど、ミコちゃん美人だしなー。
明確なカオリお姉さまのライバルだもん。ここで折れるわけには――。
「……私が協力すれば安全な位置からお二人の会話が筒抜けですよ?」
「乗った!」
ごめん兄ちゃん、カオリお姉さま。でも二人の邪魔するわけじゃないし。見るだけ。見るだけだから。先っちょだけだから!
アタシたちはそそくさと兄ちゃんたちの言った方向へと進むと、二人はあっさりと見つかった。本当に金玉の青い猿を眺めている。あんなのいるんだ。無駄に綺麗な色してるし。
「……これ以上近づいたらバレるよね。ミコちゃん、どうやって盗み聞きすんの?」
「ふふん。コレです!」
自信満々のミコちゃんが取り出したのは人型に切った十字状の紙。ミコちゃんが手を離すと、なんとふわふわと浮いている。
アタシは思わず、素っ頓狂な声を上げた。
「え、ちょ……何それ!?」
「しっ! 静かに。コレはですね、陰陽師が式神を使役するときに使う依り代です。この紙にサダヒコさまの髪を巻くと……はい!」
「――すごいな。本当に金玉青いぞ。無駄に綺麗だし」
「うわ、すご! 兄ちゃんの声が聞こえる」
こんなことできるんだ。びっくり。巫女さんってすごい。
どうして兄ちゃんの髪の毛持ってるのとか、どうでもよくなっちゃう。
「それだけじゃないですよ、サツキさん」
「――あはは。あんまりまじまじ見ていいのか、ちょっと判断に困るかな」
「カオリお姉さまの声まで!? ミコちゃん、コレいくら!?」
「お、落ち着いて! 静かに! この紙だけあっても意味ないんですよ。私が力を注ぎ続けないと持続しませんし……それにこれは間違った使い方なんです。ラジオの周波数合わせてるみたいなもので」
「なーんだ、残念」
「要するにサダヒコさまの分身作って共鳴させてるわけですからね。素人がやっていいことじゃないですよ」
「……ミコちゃん。やばいことやってる?」
「ふふ。秘密です」
ひと指を唇の前で立てるミコちゃんにアタシは顔を引きつらせる。ミコちゃんって実は結構ヤバい人なのかもしれない。知ってたけど。止めた方がいいかな? でも兄ちゃんとカオリお姉さまの会話は聞きたいし……うん。聞かなかったことにしよう。アタシは何も聞かなかった。
照りつける日差しに額を拭う。冷や汗じゃないと思う……たぶん。
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