妹は推しを兄と結ばせたい その2

「な、ん……だと……!?」


 アタシは戦慄した。ありえざる事態に驚愕した。兄ちゃんとカオリお姉さまにドッキリデートを仕組もうとしたのに、どうしてこうなった。


「あれ? どうして委員……カオリとまめまでいるんだ?」

「サダヒコこそ。どうしているの? ミコさんまで。わたしはサツキちゃんと遊ぶ約束してたから、まめちゃんも誘ったんだけど」

「えへへへー! 勢揃いだね、みい子ちゃん!」

「そうですね、まめさん。学校の外で四人揃うのは久しぶりな感じがします」


 集合場所の公園に兄ちゃんとカオリお姉さまの他に、巫女のみい子ちゃんことミコちゃんとまめちゃんがいた。おかしい。アタシが誘ったのは兄ちゃんとカオリお姉さまだけなのに。

 聞き耳を立ててみると兄ちゃんはミコちゃんを誘って、カオリお姉さまはまめちゃんを誘ったみたい。


 兄ちゃんとカオリお姉さまが鉢合わせてあたふたするところを陰から見ようと思って、集合場所だけ伝えて置いたのが仇になった。こんな初歩的なミスをするなんて。どうしようと頭を抱えていると背後から声を掛けられた。


「おいおい嬢ちゃん大丈夫か……って、サツキじゃねーか」


 振り返るとそこには化け狐の栖孤すこさんがいる。アタシは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「栖孤姉!? なんで栖孤姉までここに!?」

「だーから姉じゃないっての。というか、他にもって誰かいるのかー?」

「い、いないよ!?」


 とっさに嘘をついてしまった。迂闊。混乱して余計なことを言った。ただでさえ男女比率おかしなことになってるのに。


「あれ? そこにいるのって、サツキと栖孤か? おーい!」


 ……兄ちゃんは四等分に割かれたいのかな?

 大手を振って兄ちゃんが呼びかけている。結局、栖孤姉までこの集団に加わってしまった。


「よぉ、サダヒコ。なんの集まりだ?」

「ああ、俺はサツキが動物園行きたいって言うからさ、ミコも誘って集合場所に来たわけだが……なんかみんないるんだよな。栖孤も来るか?」

「動物園、言われてみれば行ったことなかったなー。いいぞ、ついてってやるよ」

「あ、動物園行くんだ」

「え? カオリは知らなかったのか?」

「知らないよ。サダヒコが来ることも知らなかったんだから」

「あー……サツキ、ちょーっとこっち来い」


 兄ちゃんに首根っこ掴まれて、皆から少しだけ離れた場所まで来た。どうやらバレたみたいだ。兄ちゃんの癖に察しがいい。


「お前なぁ。変なこと企んでるんじゃねぇよ」

「変なことじゃないし! アタシの将来設計だし! でもちょっと浮かれてたっぽい。やらかしたぁ……兄ちゃんはともかく、なんでカオリお姉さまはまめちゃん連れてきたんだろ?」

「確かにカオリらしくはないな。何て言って誘ったんだよ?」

「ちょっと運動するっていうのと、可愛い服で来てくださいって」

「……襲われると思ったんじゃないか?」

「はぁ!? カオリお姉さまが襲われるって!? 誰に!?」


 一体どこのどいつに!? そんなの許せない。一体どこの誰が!

 兄ちゃんが白い目でアタシを見る。


「いや、サツキになんだけど……まぁ、言ってもわかんないよな。うん。取りあえず皆で動物園に行くってことでいいな?」

「ん。それでおっけー」


 アタシはこくりとうなづいた。本当は兄ちゃんとカオリお姉さまをイチャイチャさせたかったけど、この状況から二人きりにするのは難しそう。一人だったらトイレとか理由つけて連れ出せるけど、三人連れ出すのは無理だし。


 もうイチャイチャとかはいったん忘れて、皆でわいわい楽しもう。


「ごめん、みんな待たせた」

「ぜんぜん待ってませんよ、サダヒコさま。どうします? このまますぐに動物園まで行きますか?」

「そうだな。ミコが言うように直行で動物園行こう。そんなに広くないけど、明日学校だから余力を残して回りたいし。みんなはお金とか大丈夫そうか?」

「サダヒコこそ大丈夫なの……って、そうなの? わかった」

「え? カオリお姉さま?」


 質問したかと思えば一人で納得するカオリお姉さまに、アタシは思わず声を掛けてしまった。どうしたのかな。今日は暑いし、熱中症とか?


「あ、ごめんサツキちゃん。前に共感覚を試したときの癖が抜けなくて、つい」

「きょうかんかく?」


 聞き慣れない単語にアタシは首を傾げる。口に出してみても、いまいち意味がわからない。そこに兄ちゃんが割って入った。


「あー……それはアレだ。俺とカオリが貧乏神と福の神だって話はしただろ? 二人で一人の神さまでな、共鳴というか何というか。互いの感覚がわかるんだよ。カオリには俺の思考までわかる」

「え、なんですかソレ? サダヒコさま? 私、聞いてませんよ?」

「あれ? サダヒコ、ミコさんに言ってなかったの?」

「言って……なかったっけ?」

「初耳ですよ!」

「えー!サダヒコの考えてることわかるの? すごい! 超能力とか!?」

「そんな特別なもんじゃねーよ。こいつらの場合は双子の共感覚みたいなもんだろーよ。それ以前に神だぞ、こいつら」


 はしゃぐまめちゃんに栖孤姉が解説する。その解説を聞いてなお、アタシの頭は沸騰していた。


 え? 何? つまり、それって……。


「つまりそれってエッチってこと!?」

「黙ってろヘンタイ!!」


 兄ちゃんの怒声が響く。だって、それはエッチじゃん。


 思っていたよりも関係の深まっていた兄ちゃんとカオリお姉さまに、アタシは興奮していた。もしかしてアタシの夢、叶っちゃうのでは?


 うきうきな心持ちで、アタシたちは動物園へと向かった。

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