妹は推しを兄と結ばせたい
妹は推しを兄と結ばせたい その1
アタシは
推しっていうのは、自分の全てを捧げられる存在。言うなれば神。というか実際、福の神なんだけど。
アタシの推しは
これはもう運命の糸で結ばれてると思う。早く結婚して欲しい。そしたら兄ちゃんとカオリお姉さまの子どもが生まれるわけで、間接的にアタシの血が流れてるわけで。もう実質、アタシの子どもみたいなものだよね。その子をアタシが育てるのが夢。
アタシ自身はあんまり子どもを産みたいとか思わない。痛そうだし。アタシは生むんだったらサツキお姉さまの血が流れた子どもがいいし……あれ? 兄ちゃんとサツキお姉さまの子どもが男の子だったらいいんじゃない!?
「おい、サツキ。邪悪な顔でニヤついてないで手伝ってくれよ」
「んだよ兄ちゃん。てか、何を?」
「話聞いてなかったなお前……」
リビングのソファに寝転がっていたアタシは上半身を起こす。兄ちゃんは持っていた段ボールを床に置いた。中には果物やらお米やらが入っている。その上に
「あ! パパとママからの仕送りね」
「そうだ。サツキも今は実家に戻って暮らしてることを伝えてあるから、サツキの分の仕送りも家に送られてるんだよ。サツキも自分の手紙読んでみてくれ。一応、俺のこととかミコのこととか伝えてあるんだけどさ……」
「どしたの?」
口ごもっていたから尋ねたら、兄ちゃんは自分宛ての封筒に入っていた紙を開いて見せる。つらつらと続く文章は要約すると、妄想もほどほどにしなさいと書かれていた。
「ひどくね?」
「やば……でも仕方ないっしょ。兄ちゃんが貧乏神とか言われて普通信じないって」
「でもサツキは信じただろ?」
「だってカオリお姉さまが言ったんだもん」
兄ちゃんが露骨なため息をつく。なんか変なこと言ったっけ?
「まぁ、そうだよなお前の場合は。親父も母さんも、うちの家系が神さまの代わりになるとかいう話知らないわけだし……」
「あれ? そうだっけ?」
「そうだよ。じいちゃんが教えなかったって先代が言ってた」
兄ちゃんは先代だとかさらりと言うけど、アタシには妖怪も神さまも見えないんだけど。最近は兄ちゃんの周りにたくさん人がいるのに全く見えないのはアタシだけ。なんか仲間外れにされてるのムカつく。
「だったら他にも代々引き継いでるお家探せばいいじゃん。その家の人に説得してもらったほうがいいっしょ」
「あー……その手があったか。さすがサツキ、頭いいなぁ!」
「撫でるの止めて」
頭を撫でようとした兄ちゃんの手を叩き落とす。危ない。休日の朝にわざわざ髪セットしたのに、崩されるところだった。
「はぁ、昔は可愛かったのになぁ」
「それ何回言うの兄ちゃん、マジで言ってる? 今の方が可愛いっしょ」
「はいはい、可愛い可愛い」
兄ちゃんは雑に答える。アタシにとっては昔の自分は暗くてうじうじしてるから、マジで黒歴史なんだけど。今のアタシは最高にキマっている。金髪にポニーテール。服装も口調もギャルになったし。
「で、なんて書いてあるんだよ。サツキの封筒のほう」
「ちょい待ち」
そうだった。封筒に入っている紙を開いてみると相変わらず長ったらしく、つらつら書かれている。要約してみると兄ちゃんがおかしくなってないかという内容だった。
ま、だよね。巫女さんが押しかけてきたとか、家に鳥居建ってるとか、終いには貧乏神になったとか言われてもなんのこっちゃだろうし。
「ほい。兄ちゃんの想像通りだった」
「いい! 見せなくていい!」
さすがに兄ちゃんも親から精神的な病気を疑われるのは堪えるらしい。ちょっと可哀想になってきた。
「はぁ……わかった。さっきの件はミコに相談しとくよ。俺の家のこと知ってたくらいだから、他の家も知ってるだろうし」
「そーね、それがいいんじゃない?」
「ああ、それと。サツキはなんか欲しいものないか?」
「どしたの藪から棒に」
「いや、生活費に少し余裕があるからさ。可愛い妹になんか買ってやろうかと……」
アタシはガタリと机に脚をぶつけながら立ち上がった。今、なんて? 生活費に余裕?
「兄ちゃん、何か悪いことしたの?」
「おいコラ。なんてこと言うんだ、お前は」
「だって、お金だよ!? うちにお金が余るなんてありえる!?」
「落ち着け落ち着け……気持ちは分かるけどな。手紙読んだだろ? 親父たちの仕事もいい感じみたいだし、俺だってバイトしてるから余裕ができたんだよ」
「ああ、例のミコちゃんの神社でやってるとかいうやつね」
ちょっと信じられないんだけど本当みたい。手紙も読み飛ばしてた部分をよく見ると仕事が順調だとか、昇進だとか書いてある。
「だからさ、サツキは何か欲しいものとかないか? やりたいことでもいいぞ?」
「えー、貯めるとか」
「いいんだよ。最悪の場合、
げんしょうさん……ああ、ミコちゃんのおじいちゃんか。どうしよう。何かすると決めたときの兄ちゃんは諦めが悪いから、貯めるって言うのもだし。
あ、いいこと思いついた。
「……兄ちゃーん! アタシ映画に行きたいなー?」
「へぇ、いいんじゃないか。俺もこの間行ってきたよ」
「やっぱなし」
「え? なんで?」
兄ちゃんが首を傾げる。そうだった忘れてた……危ない、被るところだった。
「じゃ、じゃあ動物園は!? 兄ちゃん行ってないよね!」
「俺はしばらく行ってないけど、サツキ……一人で動物園は寂しいぞ?」
「違うっつーの! 兄ちゃんも行くの!」
「え? 俺もか? どういう風の吹き回しだよ。別にいいけど」
「じゃあ明日開けといてよ!」
「明日!?」
「よろー!」
強引に兄ちゃんに約束を取り付ける。どうせ暇してるし。リビングを出て、自分の部屋に場所を移した。
つい口元が緩む。せっかくだもん、この機会を逃す手はないよね。スマホを開いてカオリお姉さまに電話をかける。
「もしもし! カオリお姉さまですか?」
「うん私だよ。どうしたのサツキちゃん?」
「あのー、明日のお買い物の約束なんですけどー」
「あ、予定が合わなくなっちゃった? 時間ずらそうか? 一日空いてるからずらせるよ」
「一日空いてるんですね! 明日、買い物じゃなくて、ちょっと遊びに行きたいんです。いいですか?」
「いいよ、どこに行くの?」
「へへへ。それは秘密で……ちょっと歩くので動きやすくてー、可愛い服で来てくださいね!」
二、三会話を交わして電話を切る。アタシはほくそ笑んだ。これで二人の距離は縮まる、アタシは照れてるカオリお姉さまを近くで見れる。ウィンウィンの関係。
「えへ……うぇへ。へへへへへ」
だらしない笑い声を漏らしながら、アタシは来たる明日へ期待を胸に膨らませる。窓の外は曇っているけれど、明日は晴れるよね。
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