第30話 目的達成?

「ひぃ……ふぅ……しゅ、しゅごいよ~」


「はぁ……はぁ……変な声出さないで。坂道は通学路で慣れてるでしょ?」


「慣れないよあんな坂道。それにここ、普通に山道だもん」


「だから大変だって言ったじゃん。これでもまだ道になってる方だよ。俺が行けるくらいなんだから」


 学校の裏手にある小さな山。立ち入り禁止ではないけど、あえて立ち入るような目的もない。なんとなく道らしきものはできているけど、あまり使用されてないからか自然に戻りつつある。


 舗装されていないから道はゴツゴツだし石の階段みたいな場所も多い。何か月か前に一度来たきりだけど、あの時と変わらず登っている人も下っている人も居ない。全校生徒の中でもここに来たことがあるのは俺だけなんじゃないかと思うくらいの険しさだ。


「ねえ、本当にこんなところに来てよかったの?」


「え?」


 俺の少し後ろを歩くNPC子ちゃんは返事をするのも大変みたいで息も絶え絶えだ。人が居ない自然に溢れる山道。すでに結構な距離を歩いていて、いつもは見上げている校舎が下に見えている。


「俺が人気ひとけのない場所に連れ込んでさ。何かするかもしれないじゃん」


「もしかして……はぁ……ヤル気になっちゃった?」


 NPC子ちゃんが上目遣いににっこりと笑う。もし本当にヤル気になっていたらあまりにも警戒心がない。俺の性欲を刺激するだけの可愛らしい笑顔だ。


「共犯者として信頼してくれてるんだ」


「まあね。で……ふぅ…………まだなの?」


「もうすぐ。そこなら確実に誰も居ないよ」


 先客が居たとしても少し待てば立ち去るだろう。あの場所ですることと言えば風景を撮影したり息を整えるくらいで、わざわざ勉強するために来るようなところではない。


 それにこの道の険しさが普段から誰も利用しないことを証明している。立ち入り禁止になっていないのが不思議なくらいだ。


「ほら、着いたよ」


「わぁ!」


 道中に作られた三メートル四方くらいの小さなスペース。一人用の丸太ベンチが置いてあるだけで、誰かと一緒に来ることが想定されていない。

 ここから先に歩いて進む人のための休憩所と思しき場所は、ほとんど利用されていないにも関わらずその景色は見事なものだ。


 NPC子ちゃんが今まで露出してきた学校や公園、河川敷や駅など街一帯を一望できる。


「すごい。完全に登山だね」


「だから言ったじゃん。制服でもギリギリ登れるくらいだと思ったけど、女子にはキツいよね。ごめん」


「ううん。背景くんが露出のために教えてくれたんだし、それに最高だよ。安心して全裸になれる」


「って! ま、待って!」


 俺が見ているのに何のためらいもなくブラウスのボタンを外し始めた。ブラをしていたとしても、下着姿自体を普段から見慣れているわけじゃないのであまりにも刺激が強すぎる。


 急いで回れ右をしてNPC子ちゃんの姿が視界に入らないように配慮した。


「見てくれないの?」


「いや、見たいけどさ。さすがに思いきりが良すぎるというか、東雲しののめさんの露出ってそんな感じだっけ?」


「人が居る時の露出とは違うよ。背景くんはこの山に溶け込んで、今この場所には私一人だけ。上も下も全部脱いでも誰にも見られない。でも、外で全裸になってるのはおかしなこと。この背徳感が堪らない」


 艶やなか声で語りながら衣擦れの音も止むことがない。スルスルと落ちていく布の音に脳内フォルダにしまってある今までの露出の思い出が自動的に展開されていく。


「背景くん」


「なに? 誰も来てないよ」


「今、ブラだけなんだ」


「…………ノーパンで過ごしてたから?」


「そう。下着姿を見せてあげようと思ったら、うっかりしてた」


「今日は露出しないんじゃなかったっけ?」


「だって私はNPCだよ? いつもパンツを履かないんだから、約束してても同じように行動するよ」


「ふと思ったんだけどさ、洗濯物にパンツがなくてお母さん怪しまないの?」


「履いてないパンツを洗濯ネットに入れてるんだ。全然汚れてないのに洗濯してもらうのは申し訳ないけど、私の秘密を守るためには仕方ないよね」


「普通にパンツを履けばいいだけだと思うよ」


 NPC子ちゃんの涙ぐましい努力に吹き出しそうになるのを堪えて正論を説いた。今更俺の言葉に耳を貸すとは思えないけど、共犯者として一応アドバイスだけはしておいた。


「ねえ、背景くん」


「ん?」


「ブラを外したよ。あ、靴とソックスはそのまま。さすがにここで裸足になると痛そうだし、足が汚れちゃうから」


「…………」


 全裸に靴とソックス。正確には脚が隠れているけど全裸と言って差し支えない。むしろそれくらいの装備をしている方が逆にエロい。そんなエロい恰好のクラスメイトが背後に居ると考えただけで頭が沸騰しそうになる。


「撮影、してもいいんだよ? 背景くんだけが知ってる私の秘密」


 盗撮ではなく堂々と撮影できるチャンスの到来に唾を飲む。今まで撮った写真は遠くからだったり、咄嗟に撮影して若干ピンボケしていたりと生々しさはあるもののオカズとしての質はやや下がる。


 誰にも邪魔されずに綺麗に写真を撮ることができれば、どんなヌード写真よりも艶めかしい俺だけの最強のオカズになる。カップルのハメ撮りとはまた違う、野外露出という特殊な環境が一層エロさを醸し出す。


 俺はNPC子ちゃんをオカズとして見ると決めた。例え目の前で全裸になっていても、助けを呼んでも誰も来ない山中だとしても、あくまでもオカズにするために写真を撮る。


「たくさん人が歩いてる。下からだと見えないのに、上からだと人の姿が見えるのって不思議だよね」


 さっきまで撮影のこと話していたのに急に話題が変わった。もしかしたらチャンスを逃してしまったのかもしれない。さっきまで悩んでいたのに、こうなると途端に後悔の念が押し寄せる。


「全裸の女子高生がいますよおおおおおお!!!!」


「な、なにを!」


 思わず振り向いてしまった。下界に向かって山彦のように叫ぶNPC子ちゃんの背中とお尻は丸見えで、黒いソックスとの対比でその肌はより一層白が引き立っている。


 腰のくびれや肩甲骨の形、太ももとお尻の付け根の肉付き。同じ人間なのに男女でこんなにも差があるものかと感心する。今までもNPC子ちゃんの肌を見ているけど、ここまでハッキリと全裸状態なのは初めてだ。

 

 後ろから抱きしめれば生乳にも触れられる。それくらい無防備にも関わらず俺の体は動かない。


「あーーー!!! スッキリした。こんな風に裸で叫んでみたかったんだ。下の人には聞こえたかな。また露出狂の噂が出たりして」


「今度こそマズいかもね。女子高生ってワードが聞こえてたら特に」


「だけど証拠はないもん。私の裸を見ているのは背景くんだけ。ねえ、振り向いてもいい?」


「ダ、ダメ。ちょっと待って。よし。今なら」


 再び背を向けNPC子ちゃんの姿が視界に入らないようにする。


「写真も撮ってないでしょ? 本当にいいの?」


「脳にしっかり焼き付けた。それに全裸写真なんて部活用にカメラに残せないよ」


「自分のスマホで撮ればいいのに」


「それでも足が付く。東雲しののめさん、そろそろ捕まるかもだし」


「捕まらないよ。刑務所で露出してもつまらないし」


「そもそも露出できないよ。きちんと反省しなさい」


「反省したら背景くんはオカズを手に入れられないよ?」


「…………反省をして、もっと慎重に露出するように」


「はーい」


 心のこもってない返事をしたかと思えば、NPC子ちゃんはスーッと大きく息を吸った。後ろを向いている俺にも聞こえるくらい、思い切り。


「私はこれからも露出するぞおおおおおおお!!!!」


 俺は頭を抱えた。もっと慎重にと注意したばかりなのに……。二度目の絶叫はさすがに誰か怪しむんじゃないか?


「どう? ドキドキする?」


「イヤな意味でね」


「それなら目的は達成。背景くんも露出でドキドキしてる。仲間だね」


「ドキドキの種類が違うと思うんだけど?」


「違わないよ。私が露出するとドキドキする。背景くんはそういう体になってしまったのです」


 あえて何も言わず、俺は誰かが近付いていないか左右を確認する。どうせ誰も歩いていないので恰好だけだ。

 NPC子ちゃんと一緒に居るとドキドキする。それはオカズを手に入れられる高揚感から来るものだ。


 そんな言い訳をしてもきっと聞き入れてもらえないので、自分の心の中にそっとしまった。


 共犯者の目的が達成されたのならそれでいい。俺も最高のオカズをしかとこの目に焼き付けられた。目的達成だ。

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