第28話 別の噂(事実ではない)
一時間目の授業が終わって本日最初の休み時間。チャイムが鳴るなり神田さんの元に集まっていた人達が俺とNPC子ちゃんの元に集まる。
さっき神田さんから暖かく見守るようにと注意された女子達はNPC子ちゃんの、後で話をしたいと言った明石くんを始めてとした男子達は俺の席を囲んでいた。
「
この一時間の間に俺とNPC子ちゃんに関する噂にはなぜかヤッたという尾ひれが付いていた。
「えっと。誰からそんなこと聞いたの?」
「さっきクラスのグループに回ってきたけど」
慌ててスマホを確認するも俺が入っているグループには何のメッセージも届いていない。知らない間に俺以外のメンバーが退会してるのかと疑ったけど、ちゃんと自分を除いたクラス全員の人数がメンバーとして加入していることになっている。
「あ、ごめん。別のクラスグループだったわ」
わかっていたけどちょっとショックだ。神田さんに誘われて入ってクラスグループは全員が加入している建前のもので、本当に活用している別グループが存在している。
通知を切っているとは言え、いくらなんでもあまりに稼働していないクラスグループには疑問を抱いてはいた。まさかこんな形で予想していた仮設が実証されてしまうなんて。仮説は仮設のまま何も知らずに卒業したかった。
「てかマジなん? まさか背景くんが真っ先に童貞卒業とはな~」
「え? え?」
「俺ら全員童貞なんよ。初体験とか緊張で立たなさそう。ってのは内緒な」
「背景くんエグいて。これからはテクニック教えてよ」
「地味なやつほどベッドでは激しい的な? これから兄さんって呼ぶわ」
「ウケる。兄さんって」
俺を置いてけぼりにして明石くん達は盛り上がっている。お互いの家に行っているのは事実だからそこから話が飛躍したんだろうけど、証拠もないのによくここまで盛り上がれるものだ。ソースを確認しないとフェイクニュースに騙されるぞ?
「えっと、噂はあくまでも噂で。そもそも俺達は付き合ってないから」
「セフレってこと? ガチ?」
「相手が
「お前さっきから同じこと言ってんじゃん。陰キャにイメチェンすれば?」
「…………アリだな」
「溢れ出るチャラさは抑えきれないだろ。チャラいヤリチンみたいな見た目で童貞って、逆にかわいそ」
「哀れむな!」
「えーっと……とにかく俺達は付き合ってもないし、ヤッてもいないから。みんなが期待するような話はできないよ」
NPC子ちゃんの裸は見たことがあるので女の子の身体についてはわりとリアルな話ができるかもしれない。だけど実際に触ったり、体を重ねた経験はないのでそこから先は想像の域を出ない。
経験済みだと思っていた明石くん達も童貞らしいので話を盛ってもすぐにバレないだろうけど、クラスメイトでありながら初対面に近い人達に作り話を披露してうまくいく自信がない。
「つーかさ、ゴムってどこで買うの? コンビニ? ドラッグストア?」
「店員に止められたりしねえの?」
「どうなんだろう。買ったことないからわからないな」
「「「生ああああ!!!」」」
声がハモってNPC子ちゃんを囲む女子達の視線がこちらに向く。今の話題で生と言えば当然あれを想像する。いろんな人が声を上げているせいで内容は聞き取れないけど、生発言がきっかけで女子の方もボルテージが上昇しているみたいだ。
ちらりと見えたNPC子ちゃんは普段の笑顔をキープしている。いつもなら隙を突いて露出している時間なのに、今日はとてもじゃないけど露出なんてできない。
俺との約束があるから我慢しているとしても、明日以降は彼女を封じるものがなにもない。
「まいったな……」
「お? その反応はやっぱりヤってるってこと?」
「ふううううう!!!」
「先っちょだけ。先っちょだけでいいから教えて」
「なんだよ先っちょだけって」
「興奮しすぎてさらにバカになってるやん」
ポツリとつぶやいても誰も気にも留めなかったのに、今はちょっとした一言で盛り上がってしまう。神田さんっていつもこんな気分を味わっているのかな。だとしたら俺は人気者になりたくない。
うかつに本音を吐露することもできないなんて息が詰まりそうだ。
キーンコーンカーンコーン
「あ、チャイム鳴ったよ」
「安心しろ背景くん。まだ休み時間はたくさんある」
「明日も学校あるしな。そしてオレらの友情は永遠だ」
「いきなり距離詰めるやん。エグ」
「なんたって兄さんだからな。一皮剥けた大人の男は違うっすよ!」
もはやどういうキャラなのかわからないまま各々席へと戻っていく。これほどまでに始業を知らせるチャイムに救われたと思ったことはない。
授業が始まらなければ終わらないとは言え、眠かったりヤル気が出ない日だってある。それでも先生の話を聞き逃さないように、板書の写し漏れがないように集中するのは結構な苦痛だ。
俺も誰かにノートを任せて一時間だけでも居眠りしたい。もちろん先生は選ぶけど、せっかく日当たりが良いんだからそういう思い出を作りたいんだ。
ブブッ!
スマホが震えた。NPC子ちゃんからの返信はとても簡潔で、それなのにものすごく嬉しい。こんな事態になっても嫌われてはいなかった。俺達の共犯関係はまだ続いている。
NPC子ちゃんが露出に依存しているように、俺はNPC子ちゃんに依存してしまっているようだ。ゲームの背景を彩りにはNPCの存在は欠かせない。
また背景の一部に戻れるまで、俺はNPC子ちゃんを心の拠り所にすると決めた。
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