第21話 噂(事実)

 NPC子ちゃんの露出は俺以外にはバレていない。仮にバレていたとしても警察や学校の耳には入っておらず、俺と同じように脳内フォルダでオカズにしている。

 そんな風に考えていたのは楽観的だったと担任の一言で思い知らされてしまった。


「えー、最近この辺りで露出狂が出ているとの連絡が入った」


 この時点で反応したのは女子だ。


「キモーい」

「絶対小さいって」

「サイズわかんのかよ」

「それってつまり」

「違う! そういう意味じゃなくて」


 初めは露出狂への嫌悪感だったのがアレのサイズの話へと変わり、そこから経験済みかどうかという話題へとすり替わっていた。

 男子達はそのやり取りをすまし顔で聞き耳を立てている。俺も教室の背景に溶け込みながらしっかりと耳をすませていた。


「相手は不審者なんだ。あまり茶化さないように。ちなみにその露出狂は女性とのことだ」


 女性という情報が出て心臓がドクンと音を立てた。動揺が周りに伝わらないか不安になったが杞憂に終わる。今度は男子達が大騒ぎだ。


「マジ!? 痴女じゃん」

「ただで裸見せてくれるとか最高」

「会いたいまである」

「でも美人とは限らないだろ?」

「いや、わざわざ見せるくらいだから自信あるって」

「清楚系の人がストレスを発散するためにってことか!」


 などと勝手に露出狂のイメージを膨らませ始めた。


「ごほん。男子も騒ぐな。あくまでも警察にそういう通報があったと学校に連絡が来ただけで、具体的な犯人像はわかっていない。くれぐれも変な気を起こさないように。特に男子な」


「「「はーーーい」」」


 気の抜けた返事をする男子達をよそに、自分はちゃんと今まで通り背景に溶け込めているか不安になった。

 顔色はどうだ? 変に青くなったりしていないか? みんなは俺の方なんて気にしていないけど教壇からは教室の全体を見渡せる。なんなら窓側の一番後ろなんて最も視界に入る位置だ。

 できるだけ平静を装うことを務めるが、それがかえって焦りを生む。


 廊下の方に視線を向けてもNPC子ちゃんの姿は他の生徒に隠れて見えない。今の話で動揺するなら彼女の方だ。

 まあ、もし顔色が悪くなっても不審者情報に恐怖を覚えたということで言い訳がきく。


 その露出狂はNPC子ちゃんなんだから不審者と遭遇することは絶対にないんだけど、当人だからこそ逮捕の二文字が脳裏をよぎるはずだ。

 今までは通報されていないからスリルを楽しんでいるなんて余裕の笑みを浮かべていられたけど、それはもう終わり。


 先生の話だと具体的な犯人像は浮かび上がっていないみたいだから、今日から露出をやめれば時効まで逃げ切ることができる。

 さすがにここまで追い詰められてオカズを求めるほど俺もエロに脳を支配されてない。自分だけのオカズは入手できなくなるけど、それに代わるものはネット上にいくらでも転がっている。


 ここらが引き時。NPC子ちゃんがより過激で危険な露出にハマって、俺もその沼にハマっていたら引き換えなかったかもしれない。

 早い段階で先生から注意喚起が出たのは長い目で見れば人生にとってプラスだ。


「ちなみに不審者の目撃情報はちょうどみんなの下校時刻だ。もし遭遇したらすぐに逃げるように。あまり人が居ない場所にも立ち入るんじゃないぞ」


 人が居ない場所と言えば河原が思い当たる。あそこでの露出が目撃されたのだろうか。だとしたらかなり時間が経っている。それにNPC子ちゃんの露出した瞬間を誰かが見ていたとしたら、その人物は俺の視界にも入るはず。


 日が落ちて薄暗かったから条件はお互いに同じ。相手が暗視スコープを付けて一方的にこちらの姿を捉えているのら別だけど、外でそんな物を装備している方が不審者だ。


 だとしたら公園か電車の件が通報されたと考えるのが自然だけど、当日に全く騒ぎにならなかったからやはり今更感が否めない。


 俺が知らないところで露出してた?


 あり得る話だ。料理部での活動中をしていると言っていたし、NPCみたいに決められた行動をしているとも言っていた。俺の存在と露出は無関係で、NPC子ちゃんは自由に肌を晒している。


 すぐにでもNPC子ちゃんと話がしたい。彼女を気遣っているのか、自分の保身のためなのかわからない。とにかく状況を確認して今後の方針を決めたかった。

 もちろんその方針は露出を止めるというものだ。彼女がどう抵抗しても絶対に止めさせなければならない。


 ブブッ!


 基本的に誰からも連絡が来ないスマホが珍しく震えた。クラスのグループは一応内容には目を通しているけど俺個人に宛てられたメッセージは来ないので通知を切っている。このタイミングで連絡してくる人物は一人しか居ない。


 むしろそう信じたい。警察から親に連絡が入って、その件で親からメッセージが来ていたら俺の人生は詰みだ。

 スマホの画像は今からでも消せるけどパソコンはもう手出しができない。NPC子もろとも地獄に落ちる。


 机の奥にしまったスマホをゆっくりと引っ張り出して通知画面を表示させると、この人であってほしいとケーキのアイコンが映っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る