第18話 仲間意識
ガラガラガラガラ
そろそろ他の部員が誰か来てもよさそうなものだけど、俺以外に写真部のドアを開けるのはNPC子ちゃんしかいない。
よその部活に来たという遠慮は一切なく、もはや写真部員なんじゃないかと思うくらいに迷うなくドアを開けた。
「俺が露出写真をバラ撒くって言ったらどうする?」
いつも部室に入ってくるなり藪から棒に話題を振るNPC子ちゃんに小さな反抗をしてみた。NPCが同じ行動をするのは当然だし、こんなあだ名を付けたのは自分だけど一人の人間だ。
こういうイレギュラーを起こしてこっちのペースに巻き込むのも悪くない。
「たくさんの人に見られて興奮する」
「あ、うん。まあ、しないんだけどね」
写真の出所が俺だとわかれば当然撮影者だと疑われる。もちろん流出させた人物と撮影者が違う例だってあるんだろうけど、残念ながらNPC子ちゃんの露出写真を撮影して拡散できるのは俺に限られる。
「珍しいね。背景くんから話題を振るなんて」
「いつも東雲さんのペースだからちょっと反抗してみた」
「NPC相手に反抗するなんて悲しくならない?」
「いつも同じ行動をするNPCがバグったらおもしろい挙動をするかもしれないだろ? そんな気持ちになったんだ」
「私はそう簡単にバグらないよ。まさかあの子が!? みたいなギャップを感じてもらえるのも興奮するし」
「最終的にバレるのが目的なの?」
「ううん。バレたら人生終わるから絶対バレたくない。でも、バレた時のことを考えると普通に生きてたら味わえないドキドキでおかしくなっちゃうの」
言いながらNPC子ちゃんの頬はうっすらと熱を帯びていた。神田さんと幼馴染で今も一緒に登校するくらいの仲なら陽キャ軍団の中に加わって青春を謳歌できるのに、あえてそこから離れて地味な高校生活を送っている。
騒がしいのが苦手というのは共感できるけど、そこから露出趣味に走るのはどうにも腑に落ちていない。
「俺も盗撮犯だと疑われたくないから写真を流出させたりしないよ。だから」
「うん。私が捕まっても背景くんのことは黙ってる。背景くんはどうだろ。写真が残ってるから言い逃れできないかな」
「俺が強引に脱がせたことにしておくよ。たぶんみんな驚くんじゃないかな」
「そうだね。事実とは異なるから」
大人しそうな顔をして鬼畜なことをするとか思われるんだろうな。NPC子ちゃんについても同様で、自分から肌を晒すなんて信じられないと思う。だから俺に強要されたことにした方が話がスムーズに進むし、納得感もある。
「私を止めるつもりはないんだ? 露出はやめようって」
「やめろと言われてもやめないでしょ? それに、生の女の子の肌を見られて、撮影でもできるって正直嬉しい」
「本当に素直だよね背景くん。それでいて私は襲われる心配がないし、こんなに都合の良い……じゃなかった、素敵な人と同じクラスになれて嬉しいよ」
「都合の良い男で結構だよ。こっちだってお世話になってるし」
「お世話って……想像が膨らむ言い方」
「あんまり想像しないで」
女子にもこういう言い方で通じるんだな。この反応が一般的なのかNPC子ちゃんが特別なのか判断する材料が俺にはない。女っ気のない人生から露出狂の変態とつるむ人生に変わったせいで正常な感覚がいよいよわからなくなっていた。
NPC子ちゃんの熱量に当てられた。あの日、偶然露出を目撃しなければ絶対にこんな発想は生まれなかった。
ネット上に溢れる見知らぬ誰かの裸より、同じ教室で過ごすクラスメイトの肌の方が性癖に与える影響は大きい。
この一言は破滅への第一歩だ。ろくなことにならない。それでもこの火はどんどん大きくなり、そう簡単には消せない炎へと変わる。
「東雲さんって俺が見てないところでも露出してるんだよね?」
「うん。料理部の活動してる時もノーパンだし、コンロの下でスカートをめくったりしてるよ。NPCだから決められた行動をしないとね」
笑顔が恐い。このあだ名を気に入ってくれていると思っていたのは俺だけで、やっぱりNPC子ちゃんはイヤなのかな。そりゃそうか。誰だってNPCよりちゃんと名前が付いてるキャラの方がいい。
「…………露出ってそんなに気持ち良いの?」
自分から積極的にしたいとは言っていない。あくまでもNPC子ちゃんの感想を聞いているだけだ。だけど心のどこかで俺はNPC子ちゃんからの甘い言葉を待っている。
それを察してくれたのか、彼女は理想通りの返事をしてくれた。表情には出さないように頭の中で冷静なれと自分に命令を下す。
「うん? もしかして興味湧いてきた?」
ここで首を横に振ればギリギリのところで破滅の道を回避できたのに、迷うこなく頷いてしまった。露出をしたいNPC子ちゃんとオカズが欲しい俺。お互いの目的を果たすだけの関係から変な仲間意識を生んでしまった。
一緒に露出をすれば少しでも気持ちが近付くかもしれない。友達とか恋人になるのではなく、これからも欲望を満たすための仲間になるために必要なことだと自分に言い聞かせる。
俺は、露出狂じゃない。
ある程度成長してからは誰にも見せていない大事な部分を外で晒すという行為を想像しただけで、なぜか体は火照っていた。
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