第17話 立ってた

「ふぅ……」


 全てを出しきったあとにベッドに横たわると今すぐにでも眠りに落ちそうなくらい気だるい。そのはずなのにほんの少しだけ残った悶々とした感情は時間の経過と共に大きくなっていき、次のエネルギーを充填し始める。


 ほぼ週に一度しか会話をしないクラスメイト。しかも今日に限ってはその時間もすごく短くて、恋愛感情を抱かないと心に決めていてもドキドキせずにはいられない。


 スマホの画像をスクロールすると、とてもじゃないけど普通とは言えないものばかりだ。ブラウスを半分脱ぎかけた姿やお尻が丸出しになっている写真なんて日常でそう撮影するものじゃない。

 

 たまにアイドルのそういう写真が流出するのは、そういうプレイに興じた結果、痴情がもつれて復讐のために週刊誌に売られるらしい。


「これも一種のプレイ……か?」


 ただ俺達は付き合ってない。友達と呼べるほどの仲かと問われると疑問がある。連絡先を知っているだけで友達なら俺はクラスメイト全員と友達だし、あの神田さんとも友達なんだから光栄なことだ。


 毎日会って話すだけが友達じゃないというのはわかるけど、だからと言って何の交流もなく同じ教室で過ごしているだけで友達というわけでもない。


 二枚の露出写真からもう一枚遡ると、キス待ちみたいなNPC子ちゃんの写真が表示された。

 本人曰くこれも露出しているらしいけど、何度見てもそれらしいものは見当たらない。もしこの日のうちに秘密を解明できていれば勝負は俺の勝ちだった。


「って言っても、それを伝える方法はなかったな」


 撮影しやすいようにサービスしてくれたらしいけど、最初の一枚が露出なのか何なのかわからないせいでどっちにしても俺は負けていたと思う。

 俺に有利な勝負と見せかけてしっかり自分の勝ちルートを確保していたのだとしたらとんでもなく有能なNPCだ。


「ただ立ってるだけだよな」


 変わったポーズを取っているわけでも、これから服を脱ぐような素振りを見せているわけでもない。しかもこの時点で露出は完了しているらしい。


 好きでもない男子の前で目をつむる。オオカミみたいな性格の男なら激しいキスで口を塞いで有無を言わさず交わっていたかもしれない。

 これはこれで他人に見られたら誤解されそうな写真ではある。


「ノーパン、ノーブラか」


 一見するときちんと制服を着ているけど、その下は何も身に付けていない。何も知らなければ校則を守る優等生なのに、事情を知っていればとんでもない変態女子高生に早変わりだ。

 これが日課になっているんだから、NPCはNPCでもかなり特殊な動きをしていると思う。


「ん……? ノーブラ?」


 公園でブラウスを脱いだ時は遠目だったしママ友達の目もあったのであまり気にしていなかったけど、電車で同じようにブラウスを脱いだ時には確かにブラ紐はなかった。


 透明のやつだとしてもあの至近距離ならさすがに付けているかわかる。最初にNPC子ちゃんが胸をチラ見せした時には確実に水色のブラをしていたし、教室で緊急避難した時には制服と一緒に小ぶりのブラを抱えた。


 パンツは履かなくてもブラはしている。例え小さかったとしても多少は揺れるんだろう。男の俺にはわからない苦悩があるから女子はブラをする。だけどあの日のNPC子ちゃんはそれをしていなかった。


 ただ直立で大人しく写真を撮られているNPC子ちゃんの胸元が急に気になり出した。この布の向こうには生乳がある。その情報だけで妙に扇情的な気分になった。


「そういえば変なヒント言ってたよな。立ってるだけって……」


 画面を拡大して胸元に近寄る。わずかな膨らみの先にぽつんと布が浮き上がっている部分があるような……。


「いや、まさか。でも……」


 状況を考えれば俺の予想はたぶん当たっている。これを露出と呼んでいいのか意見は分かれるだろうけど、本来なら隠されるべき先端部分が自己主張してうっすらと浮き上がっているのは十分に露出だ。


 あの時、目をつむって頬がほんのりと桜色になったのは何か妄想をしてたんだ。そして先端がブラウスに擦れるくらい固くなったから露出ができたと俺に言った。


 ガラスに反射して一瞬だけ見えたピンク色の突起と、ブラウスから浮き上がる突起を頭の中で融合させる。徐々にNPC子ちゃんのおっぱいがリアリティを帯びてきて、全てを出しきったはずのエネルギーが早くもチャージされた。


「今更言っても遅い……っていうか、言えない」


 乳首が立ってたんでしょ? なんて突然メッセージを送ったらただの変態野郎だ。そもそもNPC子ちゃんが露出狂の変態だからその辺は気にしないだろけど、俺はその一線を軽々と越えられない。


「ずっとこの状態で歩いてたんだ」


 先週の記憶を必死に掘り起こしてみるものの思い出すのは白い肩やスカートからチラリと見えた生尻ばかり。神田さんくらい大きい山なら自然と目が行くのに、残念ながらNPC子ちゃんだと他の露出部位に意識が向いてしまう。


 電車の中であれだけ距離が近かったんだから、もっと胸元に注目していればぷくっと立った乳首を拝めたかもしれない。


「ああ、くそっ!」


 太ももやお尻ももちろんエロい。だけどおっぱいが一番だ。小さくたっていい。俺の高校生活でここまでおっぱいに近付けるなんて夢にも思ってなかった。


「また露出してくれないかな……」


 スマホに映ったNPC子ちゃんのアイコンに向かってつぶやいた。本人を前にしたら絶対に言えない言葉も、アイコンになら言える。


「またオカズをくれ」


 最低な発言だと自己嫌悪しながらも、自分はちゃんと恋愛感情を抱いていないことを確認できて胸を撫で下ろした。

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