第13話 通学路で
「三回撮影できたら背景くんの勝ちだよって言われてもな」
本日の部活動は急遽中止となりスマホのカメラを起動した状態でNPC子ちゃんのうしろを付けて歩いている。
学校から駅まで続く大通りは人も多く、なんなら同じ学校の生徒だって駅に向かっている。
スマホを構えながら同じ学校の女子生徒に付きまとう不審な男子生徒。周りから見ればきっとそんな風に映っている。あながち間違えではないのが悩ましいところだ。
スカートをめくり上げるだけでは快感を得られなくなったNPC子ちゃんは誰かに見られたい段階に突入しているらしい。だけど同時に誰かに見られたら人生即終了ということも理解していて、そこで俺に白羽の矢が立ってしまったというわけだ。
『どこかのタイミングで露出するから背景くんはその瞬間を撮影してみて。しっかり写っちゃいけないものが写ってないとダメだからね。一回だけだと奇跡の一枚を撮られたらおしまいだから……三回! 三回撮ったら背景くんの勝ち。もちろん私はすっごい警戒してるからね』
いつもの貼り付けたような笑顔で一方的にルールを押し付けてNPC子ちゃんはそのまま下校していった。
NPC子ちゃんの露出撮影を諦めて部活に勤しみ、その後何もなかったかのように普段通り帰宅するという選択肢だってあったはずなのに、また俺だけが知ってるNPC子ちゃんの姿を見たいというエロへの渇望が勝ってしまった。
しかも今回使うのは自分のスマホだ。データを残すことができるし、クラウドのデータまで確認されるのを見越してパソコンのメールに写真を送っておくだってできる。
いくら記憶の中に鮮明に残っていると言ってもやはり写真には敵わない。物として思い出を残すのが写真の役割なんだから俺は何も間違ってない。
「でもどこでするんだろ。この辺じゃ無理だよな」
河川敷だってかなりギリギリの露出だった。自転車に乗った小学生や早めに帰宅するサラリーマンなど、歩いていればそれなりに人と遭遇する。
日が落ちて周りが暗くなったのを良いことに対岸に向かって大事な部分をさらけ出すという大胆な露出行為は、人通りが多い場所では絶対に不可能だ。
スマホをずっとNPC子ちゃんに向けていると周りから不審に思われるのでゲームでもしているように横持ちにする。
ただ、それだと露出の瞬間に撮影するのは難しい。何か前兆のようなものがあれば撮影体勢に入って決定的瞬間を収めることができるんだけど……。
すたすたと駅へ向かうNPC子ちゃんは決められた動作を繰り返すまさにNPCみたいだ。寄り道をせず真っすぐ帰宅する。露出なんてイレギュラーな行動は絶対にしないNPC。
彼女とすれ違う誰もがそう思うに違いない。それどころか特に何の感情も抱かずに通り過ぎていく人が大半だと思う。神田さんくらい派手でスタイルの良い女子ならチラリといろいろなところを見てしまうけど、NPC子ちゃんにはそこまでの山はない。
どこかで露出する可能性が高いとわかっている俺だからこんなにもNPC子ちゃんに注目している。
「あっ」
順調に駅へ向かうNPC子ちゃんが路地に入った。二つのバーガーが並ぶこの場所はテスト期間になるとよく高校生が立ち寄っている。値段が手軽な店も高級路線の店もどちらも満席になっているのを横目に見てきた。
「さすがにこれくらいじゃ撒けないか~」
小走りで路地に入るとNPC子ちゃんが村人を迎えるように待ち構えていた。
どちらの店舗も路地側には小さな換気用の窓が壁の上側にあるだけでそこからこちらの様子を見ることは難しい。
そうは言っても日中の人通りが多い時間帯にここで全裸になれば絶対に誰かに発見されるだろう。
「俺に見られたいんじゃないの?」
「見られたくはないよ? 恥ずかしいもん。でも、みんな他人のことなんて気にしてないんだよね。おんぷちゃんくらい目立つ子なら別だけどさ」
ものすごく短いスカートからスラリと伸びる綺麗な脚に隠しきれない胸の膨らみ。何より顔面が華やかな神田さんは無意識に視線を奪われる。同じクラスだから授業中に後ろ姿をずっと眺められるのはものすごい幸運だと思う。
「背景くん、そんなに見つめられたら露出なんてできないよ」
そう言ってNPC子ちゃんはくるりと振り返り路地を更に進んだ。反対側の通りは住宅が多く、近隣住民の迷惑にならないようにと学校からもあまり歩かないように指導されている。
裏を返せば同じ学校のやつに会わずに通学できるので俺は結構好きなルートだったりするので、住宅街に露出狂とそれを撮影する変態が現れたなんて噂が立ったらもう歩けなくなってしまう。
さすがにそんなところで露出はしないだろうと高を括ったの同時に、天罰と言わんばかりの突風が通り抜けた。前方を歩くNPC子ちゃんのスカートが思いきりめくれ上がる。
強風に薄目で対抗していた俺の視界に飛び込んできたのは綺麗な肌色のお尻。
今日は体育の授業があるからノーパンじゃないと言っていたはずなのに、彼女のお尻は一切の布を身に付けていなかった。
「え……あっ」
急いでスマホのロックを解除しても時すでに遅し。スカートは再びお尻を守るかのようにヒラヒラと揺れている。
「残念だったね。せっかくのチャンスだったのに」
「さっき今日は違うって」
「さて、どういうことでしょうか? 背景くんの注意力はまだまだだね」
部室を出てからこの路地に入るまで俺はNPC子ちゃんから目を離していないはず……いや、角を曲がった数秒間は姿を捉えられていない。露出に慣れているから脱ぐのも早いってことなのか?
「そんな調子だと三回も撮影できないよ?」
「ちなみにこの勝負ってさ、俺が負けたらどうなるの?」
「ん~~~特に何も考えてない。背景くんが勝ったら、どんな写真でも撮らせてあげる。今度の日曜日は両親が出掛けてるから」
お尻が丸見えになったのを気にも留めない様子でNPC子ちゃんがひょうひょうと歩いていく。
「マジか……」
両親の居ないNPC子ちゃんの家でどんな写真でも撮れる。全裸OKはもちろん、合体しながらの写真も撮っていいってことだ。
男の理性なんてエロの前では無力に等しい。いつもみたいに背景に溶け込んで、気配を悟られないところからNPC子ちゃんの露出姿を三回撮れば俺の高校生活は飛躍的に華々しいものになる。
「帰りにコンビニ寄らないと」
すでに勝った気になった俺は日曜日の妄想で頭がいっぱいになっていた。それこそ背景から浮くくらいの煩悩にまみれて。
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