第12話 おんぷちゃん
ガラガラガラガラ
勢いよく開けられた扉の方に視線を向けるといつもの取り繕った笑顔がそこにあった。
「あ、いたいた」
「……何か?」
他の写真部員よりかもこの部室に顔を出してるんじゃないかと思うくらいNPC子ちゃんが三度目の来訪を果たした。
慣れた手付きで部室のドアに鍵を掛けると声のボリュームを気にせず話を続けた。
「背景くん、最近私のこと見てないでしょ? 残念だな~。今日は机の下で股を開いたのに」
「…………ごくり」
思わず唾を飲んだけど俺の席の位置からだと股を開かれたところで見える景色はそんなに変わらない。
神田さんの周りに集まっている男子がNPC子ちゃんに注目したら俺もまだ見たことがない彼女の本当に大事な部分を知ることになる。
付き合っているわけじゃないし、友達とすら呼べない関係だけどそれを想像しただけで寝取られたような気持になった。
「一週間ぶりくらいかな。背景くんとお話するの」
「だと思う」
「つれないな~。今日は料理部が休みだから背景くんに放課後の露出を見られるチャンスを与えてあげようと言うのに」
「料理部?
「そうだよ。おんぷちゃんにも評判が良いんだから」
おんぷちゃん……教室で何度も聞いている名前なのにNPC子ちゃんの口からその名前が出ると今一つピンと来なかった。
「神田さんと仲良いの?」
「幼馴染なんだ。教室では人気者過ぎて話せないけど一緒に登校してるし、帰りもたまに。部活で作った料理を差し入れすることもあるんだよ」
NPC子ちゃんは料理部に所属していてあの神田さんとは幼馴染というどちらも意外な情報を一気に与えられて頭は混乱状態になっていた。
露出と料理は全然結びつかないけど、それはまああまり関係ないんだろう。露出狂だって料理くらいするさ。
それよりも神田さんと幼馴染で一緒に登校しているという事実だ。同じクラスなのにそんな姿を一度も見たことがない。
いつも教室に入ってくる神田さんはギャルっぽい女子や体目当ての男子軍団と一緒にわいわい騒がしい。そこにNPC子ちゃんが入る余地は一切ない。
「一緒に登校するのに休み時間は全然話さないんだ?」
「騒がしいのは苦手なの。おんぷちゃんとが一対一でお話する方が楽しいし」
「まさか神田さんが彼氏を作らない理由って……」
裏でNPC子ちゃんと付き合ってるとか? 人は見かけによらないというか、あれだけたくさんの男子に告白されていまだに彼氏ゼロなのはそういう事情があるとしか思えない。
「勘違いしてるみたいだけど違うよ。おんぷちゃんと恋バナするとちゃんと男子の名前が挙がるから」
「へぇ……」
露出狂が恋バナをしているというのもまた意外な事実だった。それも神田さんと対等なんだからその驚きは計り知れない。それを表情から悟られないように心を無にするように努めるものの、やっぱりざわつきは収まらない。
「私だって気になる男子くらい居るんだよ? ちなみに背景くんじゃないから勘違いしないように」
「……しないよ。接点がなさすぎる」
「そう、かなあ? 私の秘密を知ってるのは背景くんだけだし、あんな姿を見られたのも背景くんだけなんだけど。背景くんは私のことを意識してくれないんだ?」
椅子に座る僕を見上げるようにNPC子ちゃんはしゃがみこんだ。教室で全裸になったあの時と同じ体勢はどうしてもあの日の記憶を蘇らせる。今はきちんと制服を着ているけど、それを脳内で脱がすのは容易い。
鍵が掛かった部室で露出狂のクラスメイトと二人きり。でも彼女には他に気になる男子が居て……。
「なんて、ウソウソ。あ、全部じゃないか。気になる男子が居るっていうのがウソで、背景くんが気になる男子じゃないっていうのは本当。男子とデートするより露出する方がドキドキするもん」
「そのドキドキはなんか違くない?」
「露出を超えるドキドキを私にさせてくれる男子が居ないだけだよ」
おもむろに立ち上がったNPC子ちゃんはスカートの裾を摘まんだ。
「体育がある日はノーパンじゃないんだ。ラインとかシミでバレるかもしれないから」
「そうなんだ」
男子が校庭を使う時は女子は体育館という具合に基本的に体育の授業は別々になる。雨が降った時はどちらも屋内だけど、それでもメインの体育館と卓球場という具合にやはり別々に授業を行う。だから女子の体育着姿を拝む機会は体育祭シーズンくらいのものだ。
運動部に所属していれば日常的に視界に入るんだろうけど、カメラを持って女子が運動している姿を見つめていたら完全に盗撮犯だ。撮影のために校外に出る時もできるだけ素早く、かつ女子の気配を感じないルートを通るようにして疑いを掛けられないようにしている。
それゆえに俺はしかと脳内に女子の体育着姿を焼き付けている。ハーフパンツから浮かび上がるヒップラインや、ジャージを着て隠そうとする胸の膨らみはどんなに頭を叩かれても忘れるはずがない。
だから簡単に想像できてしまう。もしNPC子ちゃんが下着を身に付けてずにハーフパンツを履いたらどんな風になってしまうのかを。
「ねえ、今度の体育でノーパンになってあげようか? スカートの下に直接ハーパン履けばいいだけだし」
「…………別に。好きにすれば?」
「そんなこと言って。私のノーパン体育を想像したくせに」
「したけど、実行しろとは言ってない。
「背景くんって妙に正直だよね。下心を隠さないっていうか。それなのに私を脅迫したり襲ったりしないから。変なの」
スカートの裾を掴んだままNPC子ちゃんはへらへらと笑っている。今の発言で俺に火が点いたら襲われるかもしれないのにそんな可能性は微塵も考えていなさそうな油断しきった表情だ。
俺にそんな度胸も行動力もないとわかっているのだとしたら、それは大正解なので花丸をあげたい。
「おんぷちゃんはすごいよね。背景くんと違ってヤル気満々の男子を上手にあしらってるんだから。もしあの男子達に露出狂ってバレたら絶対ヤラれちゃう」
「そんな相手と毎日言葉を交わしてるんだから
「だってNPCですから。誰に対しても同じようにおんぷちゃんが居るか居ないか答えるよ」
「もしかしてだけどさ、神田さんじゃなくて
「正確には私経由でおんぷちゃんとの仲を深めたいのかな。幼馴染と仲良くなれば、親友のおんぷちゃんの好感度も上がる的な?」
「神田さんは何も言わないの?
「いつもごめんねって。
今のところはちゃんと
つまり、そんな日で絶対に来ない。俺は背景になって彼女の露出する瞬間を観察するだけなんだから。
「ちなみに神田さんは露出のことは?」
「もちろん知らないよ。いつも一緒に登校してる幼馴染がノーパンだなんて知ったらおんぷちゃん泡を吹いて倒れちゃうよ」
「そう? そんなに驚くかな」
「おんぷちゃんの中で私は大人しくて引っ張ってあげないとダメな幼馴染だからね。そのイメージはもちろん合ってるよ? だから私は露出に目覚めたんだけどさ」
「神田さんが?」
「いつも目立ってみんなの注目の的のおんぷちゃん。その陰に隠れる幼馴染の私。こっそりスカートをめくってもきっと誰も気付かない」
摘まんでいたスカートをゆっくりとたくし上げると少しずつ太ももが露わになる。話が頭に入ってこない。それでもNPC子ちゃんは構わず言葉を続けた。
「おんぷちゃんは制服のスカートを短くして、いつもこれくらい太ももが出てる。私にしてみれば大冒険だった。常に出してるのは違う。普段隠れてる場所をバレないように出すのがすごくドキドキして、それからどんどんエスカレートしていった」
ギリギリで大事な部分を隠す程度にまでスカートはめくられている。何か落とした物を拾うふりをして姿勢を低くすればガードの薄くなったスカートの中を簡単に見れそうだ。
「もうこれくらいじゃ全然ドキドキしなくなっちゃった。だからお願い。外で露出する私の姿を撮影して」
そんなつもりは一切なかったのに、手に持っていたカメラケースを床に落としてしまった。
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