第9話 野外活動2

「まさか捕まった?」


 真っ先に浮かんだのはNPC子ちゃん逮捕説だった。橋の下でノーパンの女子高生が下半身を晒している。警察官に見つかったら間違いなく事情聴取される案件だ。

 だけどあの周辺に警察官らしき人物もパトカーも見当たらない。仮に逃げたとしたら多少は騒ぎになっているはずだから、ここに来るまでの間に俺だって気付くはずだ。


「ひとまず逮捕はないか」


 警察の厄介になれば無実の罪を着せられるかもしれない。NPC子ちゃんの身よりもまず自分を案じるあたりに友達が居ない原因を思い知った。

 

 辺りを見渡しても彼女の姿はない。俺が見落としているだけかもしれないので一旦土手を降りてみる。

 向こう岸と同じように犬の散歩くらいならできるだろうけど石が多くてジョギングには向かない。


 休日ならバーベキューや釣りをする人を見かけるが、平日の夕方ともなればわざわざ降りる人は少ない。


「さむっ!」


 ほんの少し川に近付いただけなのに流れる風が一気に冷たくなる。少しずつ姿を隠していく太陽からの温もりも減っていき何をしてるんだろうという気持ちになってきた。


 さっきまで一緒に居た場所の向かい側に立ってみるもNPC子ちゃんの姿は見当たらない。さらなる死角に入って安全地帯で露出している可能性に賭けてみたが当ては外れてしまった。


「えぇ……放置プレイ?」


 一応夕陽の写真は撮ったのでこのまま荷物を取りに部室に戻ってもまったく問題はない。NPC子ちゃんだって高校生なんだから一人で帰れるはずだ。そもそも連絡先を知らないので姿が見えなくなったらどうすることもできない。


「……もう少し探すか」


 もし何かの事件に巻き込まれていたら……俺が行ったところで助けにはならないけど通報するくらいはできる。もちろん事情聴取されれば野外露出の件もバレてしまうけど社会の闇に飲まれるよりはマシだと思う。


 女子高生の露出狂というのも十分社会の闇な気がするけどそこは一旦置いておこう。女の子が普段隠している部分を外でさらけ出しているだけ。

 そういうのを見たくない人や、子供に見せたくないという考えは理解できるし、法がそう定めているんだから悪いことに違いない。


 でも、エロを求める男子高校生的にはむしろご褒美。社会貢献してると言っても過言ではない。

 

「お世話にはなってるしな」


 本人には絶対に聞かれたくない言葉をあえて口に出すことで決意を固めた。絶対にNPC子ちゃんを見つける。

 もしかしたらどこかに移動してこっそり露出しているのかもしれない。どんなに周りに気を配っていても、背景に溶け込むような存在感の薄さを侮ってもらっては困る。


 今頃、俺に見つかるかもしれないスリルを楽しんでるんだろう?

 事件になんて巻き込まれていない。これは俺とNPC子ちゃんのかくれんぼみたいなものだ。


 そんな風に考えると少しだけ心が軽くなった。


「ほんと、事件だけは勘弁してほしい。恐いから」


 結局のところ自分の身が一番心配なだけ。NPC子ちゃんに共犯者と言われても共犯になりきれていない。おこぼれ的なエロを供給してもらえればラッキーくらいにしか考えてないことに気付いた。


「勝手に行動するなんて全然NPCじゃない」


 誰に話しかけられても同じ返事をする。いくつかパターンがあったとしてもそれを繰り返し、移動しても決められた範囲内を動くだけ。だからどんな状況に陥っても声を掛ければ村名やどんな村なのかを知ることができる便利な存在。


 意思を持って勝手に行動したりなんかしない。魔王軍に襲撃されてもなぜかそこで生活を続けて不幸を嘆きプレイヤーの魔王に対するヘイトを高める。

 こちらの予想を超えるような行動は絶対にしない。それがNPCなのに、NPC子ちゃんは勝手に付けたあだ名とは全然違って自由に振る舞う。


 NPC子ちゃんというあだ名をピッタリと本人も認めてくれたのに酷い仕打ちだ。NPCはNPCらしく決められた動きをしてほしい。


 自分の保身が九割、彼女を心配する気持ちが一割くらいだったのが、保身がちょっと減ってあだ名通りに行動しないNPC子ちゃんへの不満の気持ちが生まれた。クラスメイトの身を案じる気持ちが減らなかっただけでも自分を褒めてやりたい。


「とりあえず写真でも撮るか」


 まさかタクシーに乗って遠くの地に行ったわけじゃないはず。事件に巻き込まれているのなら俺にはどうもできないのだから、まだこの辺りに居ると信じて探すのが唯一のできることだ。


 カメラを構えることで意外な視点を得られるかもしれない。視野は狭まる代わりに、普段なら通り過ぎてしまう風景に注目できる。


 ひとまず川のせせらぎにカメラを向けてシャッターを切った。

 水に反射する光は一秒よりも短い時間で表情を変えて、どの一瞬を切り取っても違う美しさがある。


 その一瞬の積み重ねの中で写真に収めることができるのは一握りだけ。俺があの日見たNPC子ちゃんの下半身みたいに、まず一目見た瞬間の衝撃が後から振り返ってみても一番大きかったりする。


「露出の瞬間、撮りたいな」


 もちろん拡散するつもりはない。自分だけが楽しむために印刷したあとはちゃんとデータも消す。だけどもし、何かのきっかけで印刷したものが流出したら俺は盗撮犯の烙印を押されてしまう。


 撮りたいけど撮れない。禁止されていると余計にやりたくなるのはなぜなんだろう。そんなことを考えた時、NPC子ちゃんが露出をしたがる気持ちがほんの少しだけ理解できた気がした。


 

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