第65話:毛利の大どんでん返し
1576年6月
備中高松城東方。明智勢本陣
「ご主人様。半兵衛さまと官兵衛さまがお見えになりましたです」
いつもよりも元気のないアゲハのアニメ声。アゲハには似合わない。
俺の感情が影響しているんだろうな。信ちゃんが本能寺の変で急死。これが歴史の強制力というものか。
「殿。半兵衛参りました」
「この黒田官兵衛も献策をしたく」
外部の情報を聞きたくなくて、布団をかぶったままの俺の枕元に二人が腰を下ろした。
言うことは分かっているよ。
「殿。こたびはおめでとうございまする」
「天下が転がり込んでまいりましたな!」
だよね。
その言葉だよね。ここで『秀吉に黒田官兵衛がいうセリフ』。
「信長様。本能寺にて羽柴秀吉の謀反にて弑逆(謀反で殺される事)されましてござる!」との知らせがくれば、やっぱ普通の野心家なら考えるさ。
光秀の軍団は、もちろん毛利勢の総力を挙げての、備中高松城後詰50000を相手にして布陣している。
もうあと1日もすれば高松城は開城すると思う。
え?
水攻め?
やってないよ~、そんな銭のかかる事。
冬木造兵工廠で作られた『臼砲』を城の東側台地に並べて、ばかすかうちました。
焼き玉2日も撃っていたら城の建物、全部燃え上がって。
降伏する間もなく、戦力外に。
あとは門を開けてもらうだけの状況に。
「利家殿は現在、上杉の本拠地である春日山城を包囲中。滝川殿の軍団は信濃の兵もあわせて5万。北条攻めのために北武蔵に攻め込んでおりまする」
「織田家を継がれた信忠さま率いる軍団は、一時的に解散。領地へ帰り再編成をしておりまする。現在、丹羽殿がその軍勢を摂津にて再編成をし始めました。
そこへ来ての羽柴の謀反。これを討てば織田家内にて光秀さまに逆らうものなど出てきませぬ。そして天下は……」
両兵衛さん。
わかるよ?
その説得相手が『秀吉』だったらさ!
でもね。
今説得されているのは俺、光秀じゃん。
ヘタレなヲタクな光秀じゃん。
「天下取りたくない光秀」じゃん!
それを焚きつけてもな~んもなんないっしょ。
だいたい正史と違い信忠が生きている。
俺、信忠君に忠誠誓ってそれで引退するんだ。
天下人になったら、お仕事いっぱいになって遊べない!
「ご主人様。大変なのです。今、信忠さまお討ち死にとの知らせです」
え“!?
なんでだよ??
まだ京都にいないでしょ?
多分、瀬田の大橋か安土あたり。
「秀吉の偽報によって油断した所を、坂本から出陣した羽柴勢によって、四方を囲まれお討ち死にです」
「で、では。丹羽殿は?」
「配下を編成していたさなかの、信長様の死。天下の様子見のために国衆が四散しましたです」
その情報を聞いていた半兵衛っち。
「殿。ことは一刻を争います。すでに明智軍団、四方を囲まれております。少なくともそう見えまする、毛利には。この毛利に手を出させないこと。これが肝要にて。即座に京へ転進するためにも」
「秀吉の背後に、西国勢力がいるのは明白。ことによると朝廷や鞆の義昭も糸を引いているかもしれません。それらが入りまみれ、それぞれの思惑で動いておりまする」
もう光秀には全くわからない!
だいたいがさ。
信ちゃんをなんで秀吉が殺しちゃうのよ。俺が本能寺しなければ信ちゃん、天下取っていたんじゃない?
……見ないようにしてたけど。秀吉と光秀の役どころ、逆転している?
坂本と長浜の領地の時からおかしいと思っていたんだよね。丹波丹後攻めているのは秀吉だしさ。俺は山陽攻めている。
でも明らかに正史の秀吉よりも分が悪くない?
秀吉はどうやら毛利とつるんでいる。特に吉川元春と通じている。なんか因幡国(鳥取県)の鳥取城でうさん臭い、なあなあな戦していたんだよね。
生ぬるい兵糧攻めしてさ。
でも。
「頼みの綱はやはりあれしかないかと」
「そうでございまする。そろそろ始まっている頃合いかと」
そりゃここ10年間かけて仕掛けたけどね、策略を。
「安国寺恵瓊どのがきましたです」
毛利の外交僧が来たよ。
煮ても焼いても食えない鉄面皮。
正史では秀吉の味方をして、最後まで毛利を押さえ込んだ策士でもあるから、ここは何としてでも外交を成功させねばなんない。
ぜ~んぶ、半兵衛官兵衛に投げていい?
光秀、信ちゃんが死んだことで意気消沈して寝込んでいる事にするからさ。
やっぱ無理ですよね。
遂に大将の仕事しなくちゃなんないとこまで来ちゃった感じ?
いまさら秀吉君に降伏しても、打ち首で三条河原にさらされちゃう未来しか思い浮かばないよ。
おとぎ話的な説で、「実は光秀は生き延びていて江戸時代にフィクサーの天海という坊主になっていました!」とかなんないかな。
家康君とは仲良くなっているからワンチャンありかと思うんだけど。
ちょっと脱出の準備しておくかぁ!
◇ ◇ ◇ ◇
「明智光秀殿。拙僧、こたびは毛利輝元の書を持参してまいりました。御受け取りを」
なんか異常に頭の大きな坊さんが、うちの秘書に親書らしきものを渡した。
こいつが安国寺恵瓊だね。
さて何を告げに来たのか?
奉書を広げてみる。
「……輝元殿が光秀殿へ希望するものはただ一つ。
天下をお取りください。そして……」
な、なんちゅ~こと言い出すねん!
「サブカル教を立ち上げていただきたく」
サブカル教!?
なにそれ。聞いてないよ!
そりゃさ。
日本中に文化侵略していたさ。北は松前の蠣崎家から南は琉球まで。
それが毛利の屋台骨を壊した?
「家臣の中にも、こたびの明智殿との戦。猛反対するものが多く。頑迷な重臣の方々もこれを押さえられなくなり申した。一向宗の中にも本願寺から離れて明智殿を慕うものも多く」
吉川さんとか、絶対毛嫌いするよね。
ヲタク文化。
フィギュア。ゲーム。コスプレ大会。萌絵。BL、GL。ふっと猿。メイド喫茶……
我ながらいろいろと流行らせましたよ。
これが最終的に俺の首を繋げた感じ?
でも。
サブカル教ってなんぞ?
俺、宗教大っ嫌いよ?
まさか教祖に祭り上げる気じゃないでしょね?
「よかったですね。殿。これで陰の実力者です」
「いえ。天下人に表も影もないですぞ。これからは公然と天下を狙いましょうぞ!」
もう、官兵衛の口をふさぐ気も起きません。
この神輿から降りる方法を教えてくれたら、天下あげる!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます