天下を光っつ光っつにしてやんよw

第64話:敵は本能寺にあり!(信長視点)

 

 <信長視点です>


 1576年6月

 京都。本能寺


 目の前のテーブルに広げたキンカンの奴が作った日本地図。

 忍びが2年に渡って日ノ本中を測量して回って作ったという精密なものだ。


 そこには織田の版図が青く塗られている。


 北は能登と越中、飛騨。

 東は先ほどまで信忠が兵5万を率いて滅ぼした旧武田領。甲斐信濃、それと西上野。

 畿内は全て平定。

 四国は三好が最後のあがきを見せている。


 問題は中国。

 毛利二百万石が徹底交戦の構えだ。

 これを潰す。

 降伏はさせぬ。

 その領地には銀山を始め重要な銭の元がある。これは他人には任せられぬ。


 現在、山陽をキンカンが攻めている。その増援として猿を、そしてその後に俺自ら大部隊を率いて圧倒して葬り去る。



 あやつの騎馬鉄砲隊は、謙信を討ち取る際に多大なる損害を出した。


 現在は、その残余の強兵を元に、北国を東進する犬(前田利家)の軍勢を編成した。今頃は春日山を囲んでいる頃であろう。


 残る精兵も各軍団に配属、キンカンの軍制の伝達・教導をさせている。

 これで毛利を倒せば、実質的に織田に歯向かえるものはいなくなる。


 GDPといったか?

 国内総生産で言えば日ノ本の3/4を織田が握る。勝てる奴はおるまい。


 これからは平定後の事を考えねばならぬ。

 キンカンに今後の意見を聞いた。まさかこのようなことを人に聞くようになるとは俺も変わったものよ。


「まずは10年内政を。その後、中央集権国家を作ることが吉。ですが大名の反発は必死。そのエネルギーを削ぐために領地替えをしてその地を富めるものにさせる事。そして……」


「なんじゃ」


「外征は決していけませぬ。もったいな……費用ばかりがかさみ、損が多く。交易に支障が出た際に敵と交戦するための海軍を編成いたしましょう。国を富ませる者が正義でござる」


 前から考えておったように、すらすらと答えおった。


 南蛮の宣教師の悪逆なる事も言うておった。

 決して心を許してはならぬ。布教をしてからそこを占領するのがあ奴らの目的だと。



 それらのことを元に今、俺なりの計画をまとめている。


 まずは組織。

 俺はもう隠居じゃ。織田家は信忠に任せる。俺はその後見人として日の本を支配する。信忠の補佐は五郎左(丹羽長秀)が良いであろう。これからは内政の時代。あ奴ならうまくやろう。


 キンカンは……手放せぬな。

 俺の補佐をさせる。

 何かあった際には俺の名代として出張ってもらう。

「隠居させてもらいたい」とほざいていたが、擦り切れるまで使ってやるわ。それが俺の信頼の証よ。



「上様。羽柴殿の軍勢が到着されます。上様にお会いしたいとの事。至急お話したいことがあると」


 猿は丹後丹波を領有・内政をさせていたが、今回の毛利との決戦を避けて講和などとぬかしおった。その調略に自分をと。


 なにか最近の猿はおかしい。

 キンカンに忍びを使って探らせようとしたが「秀吉殿に限ってそのようなことは。某よりも遥かに信頼がおけまする」と言いおった。


 確かに、草履とりから軍団長まで取り立てた恩を忘れるような人非人とも思えぬ。

 しかし。



「通せ」


 近習の森兄弟に警戒を厳にせよとも命じた。

 到着早々、何を急いで面会する必要があるのか。



「信長様。臣秀吉。諫言に参りました」


 何を申す?

 俺に意見をする気か?


「この日ノ本。これ以上、邪悪なる文化をはびこらせ、伝統を破壊して秩序を乱す事、帝はお許しになりませぬ」


「猿。貴様の主人は誰か?

 帝か? この俺か?」


「信長様が主人にて。しかしその信長様は帝が臣でございましょう」


 おのれ! こざかしい。

 俺の行く道をさえぎる気か?

 帝は祭り上げておけばよい。権威ではあっても権力はない。それが一番であるとキンカンも言っておったし、俺もそう思う。


 それに邪悪なる文化とはなんじゃ?


「神仏をこれ以上侮辱なさいますな。もう十分懲らしめましてござる。これからは平和な宗教を……」


「だまれぃ!」


 俺はしたり顔に蹴りをくれた。

 猿は唇を切り、血を流しつつもすぐに元の位置に座った。


「では、まだ戦乱の世をお続けなさると? あの光秀の作り出した異様なる文化を、この日ノ本に広めると?」


 こやつ。

 光秀に嫉妬しているのか?

 うすうす感じておったが、遂に本性を現しおったか。出世欲の塊が直接他の家臣を蹴落としに来た。


「誰かある。こ奴を身ぐるみ剥がして外へ追い出せ!」


 返事がない。

 その代わりに一人の男が入ってきた。


「誰もおりませぬ。生きておりますのは我ら3人のみ」


「なにやつ!?」


「これは失礼仕った」


 僧形の男であった。

 その者が菅笠を取る。

 しわに覆われた顔が口を開く。


「それがし。本物の明智十兵衛光秀にて。お見知りおきを。

 ですが、憶えておく必要はない。すぐに本物の第六天魔王の元に送り無限の苦しみを頂いてもらおう」


 俺はテーブルの上に置いてあった拳銃を手に取った。キンカンが護身用に持っておけと献上してきたやつだ。

 それを糞坊主に向けたが、その前に俺の腕が斬り落とされた。


「信長様。尾張の頃、世話になり申した。しかしその後は将軍、帝。最近は毛利殿の世話になっており申す。

 その仕事をこれからして参る。

 さらばじゃ」


 丸腰であった猿が、俺の右腕ごと拳銃を拾い上げ俺のこめかみに当てた。


 最後に見たものは、愚劣な欲望にゆがんだ猿面であった。



 キンカン。

 こいつを討ち取れ……




「羽柴秀吉。第六天魔王の首、討ち取った! 京中に触れを出せ。高札を掲げよ。

 日ノ本は救われた。邪悪なる信長を討ち取った。

 これよりその腹心、明智光秀を討ち取る。

 これが主上(帝=天皇)の命ぞ!」


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