叡山焼き討ちから始まる火消し生活
第46話:比叡山で陰謀
1569年9月
西近江。宇佐山城
信ちゃんが弟の信治君を始め、森可成、青地茂綱さんの遺体の前で片膝をついている。信ちゃん、身内に甘いんだよね。意外と情にもろいとこもある。
「信長様。この光秀、一生の不覚! 後詰の任を果たせませなんだ。ここは腹掻っ捌いて!」
先に謝っちゃおっと。
事実、作戦目的は達成できず、失敗だよ。
いくら朝倉25000人を越前に追っ払った功績があっても褒めてもらえやしない。そのくらいは、俺にでも分かる。
「……よい。キンカンはよくやった。だが許せん。比叡山の腐れ坊主ども! 猿、あ奴らは押さえていたのであろう! なぜ動いた!」
ふっと猿の一件で、持ち上げておいたはずなんだけどね。
比叡山が僧兵を裏山から送り込んできたのは何故?
「はっ! 強欲の比叡山の破戒僧どもが、際限なく支援を要求してまいり、様々な手を使い懐柔いたしましたが、朝倉勢が来たことにより強硬派が手勢を出したらしく」
早い話が比叡山も分裂しているのね。令和の分断社会よりももっとひどいと。統制取れない状況。
「矢銭50000貫文。それに出陣した僧兵の首全て。付け加え天台座主、覚恕殿の還俗」
周囲の武将達がざわつく。
そりゃそうだよね。
覚恕という人、今の天皇の弟よ。それを追い出せと。
まあ、50000貫文は妥当?
無理な金額じゃない。
こいつらブラック金融だからね。年利100%超える融資を押し付けて来る奴ら。その規模メガバンクなみ。
一応ね。
こいつらに横領された土地とか「返してあげてね」と秀吉君を通じて、信ちゃん穏便にお願いしていたんだよ。
でもそれに対して「なら慰謝料出せ」とかなんとかごねていたわけ。その後ろ盾だったのが朝倉だったという構図です。
だから宇佐山に強硬派が支援に行った。
「織田の田舎もんが何ぼのもんじゃい!」
と。
で、今のキレにキレまくった状態の信ちゃんが出現しました。
「猿、責務を果たせ。比叡山を押さえられねば……黙らせよ」
秀吉よ、光秀役を頑張ってね。
でも、きっと黙らないんでしょうね、比叡山。正史ではガン無視だったから。
宗教いじめは光秀がやるから、和議の方をよろしくね。
◇ ◇ ◇ ◇
11月
比叡山東方
煙いです。
西風に乗って燃えている比叡山から、すんごい煙が下りてきます。
あの後、2カ月使って秀吉君と配下の外交僧みたいなやつが、比叡山を説得していたけど、全く耳を貸さなかったあの連中。
信ちゃんって、短気と思われているけど、結構手続き踏んできちんと政策や外交するんだよね。
それをさ、昔の勢力、権威をかさに着ている連中が無視して、それに頭にきて1000倍返し位しちゃうので残虐な大名と思われてる。
信ちゃんに比べれば、奴隷売買とかしていた比叡山や武田信玄の方が俺からすれば陰々滅滅な連中。滅びて当然だよね。
信ちゃん、協力するから改革しちゃって!
でも俺、裏方でいいから。
と、思っていたんです。
最初は朝倉の押さえ、琵琶湖の封鎖を命令されていたんだけど、朝倉で一揆を扇動させた優秀な軍略家がいて。
堅田の一向宗を、利益と封鎖という硬軟取り混ぜた巧みな調略で味方につけた超優秀な軍略家がいて。
いつの間にか信ちゃんのオーダーを全てクリアしてしまった、明智部隊。
ほとんどの戦力を比叡山包囲に駆り出されました。
正史では確か総指揮は光秀だったはず。
でも今度は「お仕置きだべ~」的に、汚れ仕事を秀吉君に任せている信ちゃん。秀吉君は盛大に反対していたけど。比叡山焼くのを。
なんかおかしいな。
これって信ちゃん的には勲功になるんじゃないかな?
それだったら「俺にやらせてちょんまげ」と遠回しに言ってみたんだけどね。俺、宗教いじめるの好きだから。
だけど
「たまには他の奴に勲功を譲れ」
と。
まあそうだよね。
最近、柴勝っちゃん(柴田勝家)とか、能面五郎左(丹羽長秀)とか、その他の人達、目立った勲功あげてないし。
やっと光秀、楽できるんだけど、できればこの仕事だけはしたかった!
「殿、女子供がこちらへ逃げて参ります」
「殿さんよ。これを殺せってか?」
「仕方ないよな、十兵衛よ。腹くくろうぜ」
……因業宗教は嫌い。
贅沢三昧な宗教家大嫌い。
教義を振りかざして信徒を操る連中は、超嫌い。
そんな連中は燃やしていいと思っている。なで斬りでいいとも思う。
でも……俺ってやっぱり生っちょろい令和君だね。
目の前で
「お助けを~」
「ご慈悲を!」
「おか~ちゃん!」
とか言っている一般庶民を殺戮する命令出せないよ。
「半兵衛」
「お気持ちはわかります。ですがここは命令を実行……」
「逃がせ」
「十兵衛、それはまずい。信長様の不興を買うだけではすまんぞ!」
「わかっている。だが俺には出来ん。刀槍鉄砲を向けて来る連中なら、たとえ100倍の敵でも撃滅するまでやる気はある。だがな。あのような女子供を無差別に殺戮すれば、俺の理想が遠のく」
そうだよ。
変に不評を立てられちゃったら、平穏な6畳1間が外から崩されちゃうじゃないか。
外から殴られたり蹴られたりすれば、その衝撃で中のフィギュアが倒れて壊れちゃう。
ああそうだ。
それまでに鉄筋コンクリート開発しておこう。
「殿……そこまで、先を見越しての命令無視だったとは、この半兵衛。益々、殿のお役に立たねばと……」
「十兵衛よ、貴様はなんという大望を持つ奴だなぁ。百姓町人、老若男女すべてが安心して暮らせる世を作る」
「そのための天下統一か! 殿さん、俺はやってやるぜ。傾奇いてはおれぬ。天下統一まで傾奇きはお預けじゃ!」
お、おい。
天下取ったりしたら、俺、隠居できない?
「「「我ら、殿の子々孫々までお支え申し、天下を平穏にしてまいります!」」」
寧々ちゃん、俺たちの子供もヤヴァい感じになって来たよ。
俺達家族のために秘密基地作って、こいつらから逃げ出す準備しようね。
「「「まずは信長様の目をかいくぐる策を練らねば!」」」
おい!
勝手に陰謀し始めるなよ!
適当に手を抜くだけだよ?
今回の事を帳消しにするくらい活躍するだけでいいんです。
それ以上するな~~~~!!
「「「では、秀吉殿に罪を擦り付け……」」」
秀吉、こいつらの陰謀をするりと躱してください。
天下取ったら、俺を強制的に隠居させてください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます