第47話:一揆は民衆運動じゃないでしょ?

 

 1570年4月

 摂津国



「キンカン、申せ」


 また信ちゃんの圧縮データ通信。解凍しなくちゃ。この状況からすると、越前の仕置きですね。

 今、織田軍のほぼ全軍を集めて、一向宗の総本山である石山本願寺、つまり大阪城の付近ね。

 ここ攻めています。


 正史では雑賀の鉄砲隊とか出てきちゃって、大苦戦するわけ。

 でもその雑賀鉄砲隊が出てこないように策謀したやつがいて。

 誰とは言いませんが。


 それで今、一向宗は急遽城塞のよう拡張された本願寺に立てこもっています。

 このまま包囲していれば、その内降伏するんじゃないの?

 北伊勢の一向一揆も起きないし。

 そうし向けた影の実力者がいるようで。



「はっ。すでに朝倉は越前の北、加賀の一向宗と和議を結びましてござる」


「その方の策謀で起きていた越前の一揆も終息したか」


「はっ。それが元で和議となったらしく、それがしの策、まだ甘かったようです」


 信ちゃん、本願寺をにらみつけて俺に言う。


「やつらは坊主ではないわ。民の支配者。常世あの世でなく浮世この世を支配して居る為政者よ」


 その政治が上手く行っている場所もある。この摂津河内和泉なんかがそう。がっちり経済圏を作っているんですよね。下手な大名の支配権よりも強固だよ。


「どちらを先にするか?」


「加賀でございましょう」


 加賀の国は90年間一向宗に支配されている国だ。

 そのプライドは高い。

 同じ一向宗でも本願寺の命令を聞かないことが多い。


「なぜじゃ」


 俺は下を向いて、少し間を置いて答えた。


「敵は分断して、各個撃破するがよろしいかと」


「続けよ」


 再び俺は、下を向く。


「朝倉を全力で叩き潰しまする。その後、調略した朝倉の旧家臣に支配を任せ、一旦織田は引きまする。その後旧家臣を仲たがいさせ内乱、一揆をおこさせ、それを好機と見た加賀の一向衆を越前に誘引……」


「それで?」


 俺は、今度はさりげなく右てのひらを顔の前で広げる。


「その後、越前国の民から兵糧調達をさせるように、補給線を断ちまする」


「仲たがいさせるか。一揆衆を。して、それ以外の手は?」


 今度は左手のひらを開いて顔の前へ。


「既に加賀の一向衆には扇動者を仕込みまして。例のリバーシで大負けした者と大勝ちした者と……」


 最近はリバーシ流行らせています。

 転生物のお約束のリバーシ。

 もう一方のお約束、マヨネーズは食中毒が怖くてやってない。


「者と?」


「……者と……」


「どうした?」


「……あ~、あれを致しまする」


 俺はきょろきょろし始める。

 あれをなくしてしまった。

 半兵衛っちが立てた作戦を書いた小さな紙。

 いわゆる「カンペ!」


「ふむ。仲たがいさせるのには、およそいかほどかかる?」


「銭は1000貫文? 時間は半年」


 これは憶えていた~~、ヨカッタ。

 光秀のメモリー少ないの。

 フラッシュメモリー的でもあるんです。

 すぐ消えちゃう。



「では、キンカン。策は任せる。俺が率いて確実に朝倉の息の根を止め、越前を手にするゆえ、支配がしやすいように差配せよ」


 は~、何とかなったよ。

 策を伝える時は、今度は何としても半兵衛っち連れて来れるようにしよう!



 ◇ ◇ ◇ ◇



 1570年4月

 越前。一乗谷



 また燃えています。

 この時代、何でも燃えてしまうんですね。木と竹でできた家屋ですから、よく燃えます。


 別に信ちゃんが特別な訳じゃないです。この朝倉家代々の根城、一乗谷が燃えたのも、信ちゃんが火をつけたんじゃなくて一揆衆が燃やしたんです。


 でも全部、信ちゃんのせいになっちゃうのが不思議。潜入観念はオソロシイ。



「信長様。ほぼ予定は終了しましてござる」


「よくやった。権六、褒美じゃ」


 柴田のおじさまに小粒金一握り。

 それ、俺も欲しいです。

 また金欠で。

 なんで12万石の大名が食費節約せねばならん!

 今朝も稗飯ひえめしだったよ。

 健康でいいけどさ。



「主力はキンカンの策通り、引く。キンカンは長浜より一揆衆の仲たがいを致せ。期間は半年じゃ。できるな」


 収穫後に加賀の連中に越前を荒らしてもらう。

 それまでに越前の主だった国衆に手を回して、戦後の事を事前に整備しておく。


 第二次大戦も1943年のカサブランカの会談で戦後の取り決めしていたもんな。

 勝つ気満々の連中って、その後のことも考えるんだよね。

 始めたときは既に勝てるように準備している。

 相手に手を出させて、それを口実にフルボッコにする。

 何時の時代も同じです。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「放て~い!」


 ばばばば~ん!


「次、放て~~い!」


 ばばばば~ん!!



 敦賀、金ヶ崎から越前中心部へ通じる北国街道。その木の芽峠に鳴り響く鉄砲の轟音。


 こういう山岳地帯は鉄砲の音がこもるんだよね。

 信ちゃんが近畿に行っているすきにとばかりに、敦賀に攻めて来る一向衆、だいたい2万?

 こいつらに十字砲火食らわせている。


 この先鋒が壊乱して敗走したら、それを追って柴田勢が雪崩をうって越前を平定。

 そのまま越前の支配を確固たるものにする。


 ついでに加賀の連中も包囲殲滅するために、海路、今でいうところの金沢市北部にピストン輸送で3000以上の部隊を輸送します。


 金沢落とせば逃げ場はなくなる。

 海路がやばいかもと思って、海が荒れる前の9月に戦争始めました。


 これは織田家だからできる事。

 常備軍だけでも20000近くいるから。

 徴兵すればもっと行けるけど、今回は少数精鋭で。

 士気破砕して、逃走させる。なので木の芽峠まで引き寄せました。


 士気がなければ一揆勢などただの烏合の衆。

 武士の集団には勝てません。



「キンカン。権六の支援をせよ。俺は今度こそ本願寺を落とす」


 信ちゃん、気合が入っていますね。

 孫市が出てこなければ、正史のように鉄砲で手傷追わなくて済むんじゃね?


 光秀は、長浜で城作りながら寧々ちゃんと子作りしていますので、頑張ってください!




「信長様! 申し上げます! 摂津茨木城の荒木村重、離反。周辺の国衆とともに本願寺と結託したとの由。これに三好も加わり、総兵力6万以上!」


「なぜこの時に! あやつか? 義昭。謀ったか?」


 え~っと、これヤヴァい?

 精鋭柴田勢がここにいると、6万の大軍を支えるのは厳しい。

 まだ完全に動員をしていないと思うけど、1月もすればこっちの4万よりもはるかに戦略的優位性を発揮できる。



 信ちゃんの顔が真っ赤になっている。

 こりゃ波乱があるなぁ。

 さすが戦国時代。

 謀反、謀略なんでもあり。


 って、光秀も謀略していたんだから、人の事言えないです。


 どう出る?

 信ちゃん。

 できれば光秀、使わないでね。


 パト〇ッシュ。

 僕、もうつかれちゃったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る