第33話:逝田屋での戦闘

 

 <三好の徒武者視点です>



 1568年1月

 西から迫る三好勢がいる河原町付近

 ??



「村長! ここに入っていきました!」


「おい、村長とか言うんじゃねえ。我ら既に三好様に武士として使える身。もう百姓じゃねぇ」


「そ、そうでした。今東殿。敵の足跡が無数に、この旅籠の周りに。その多くが中へ入っています」


「でかした。山崎の」


 俺は京の都へ先に入り、物見をしていた山崎の奴からの報告を聞く。

 こいつは俺達の故郷、下石原村の出身だが、若い頃、丁稚奉公で京の都に出て暮らしていたため地理に詳しい。


「なあ、敏よ。突入するか」


 となりにいる腐れ縁の膝方ひざかたに相談する。皆を馬鹿笑いさせる宴会芸の「トシちゃん25歳踊り」が嘘のように真面目な顔で答えて来る。


「臭うな。罠の臭いだ」


「トシさん。それは匂いじゃないですか? トシさんの好きな女子の匂い」


 弟分の宗史が茶々を入れる。

 俺は拳骨をくれてやる。


「痛いなぁ。今東さんは力が有り余っているから。軟弱な私など壊れてしまいます」

「そろそろ本気を出そう。気組みだ。俺たちの剣には誰も勝てない」


 そうだ。

 手槍など、この京の狭い路地で使えるはずがない。剣だ。剣こそすべて。俺たちの田舎剣法は実戦向けだ。たとえ将軍の家臣だとて粉砕してくれる!


 京の都の治安を回復し、再び三好様の天下にするのだ。



 旅籠の裏木戸から大きな区画があるという。

 ここに潜んでこれから来る本隊に、夜討ち、奇襲をかけるのであろう。その策、見切ったぞ。


「トシさん。また敵が入っていきました」


「何人だ?」


「一人です。でも前立ての付いた兜をかぶっていました」


「敵の武将か?」


 一人で行動するのもおかしい気がするが、陣羽織を着ていたという。間違いなく部将だ。ここの奇襲部隊の指揮官。


「突入する。トシは別動隊を指揮、裏へ回れ。俺と永倉・斉藤は正面から。宗史は逃げて来た敵を斬れ。この戦で俺達の名を轟かせるのだ」


 応!


 よし、気組は十分。

 どんな敵でもかかってこい!



 ◇ ◇ ◇ ◇



「なんでわたくしが戦いに参加しなくてはなりませんの? 軍医は後方支援が常識ですわ!」


 黒古が、ぷんすか不平を言っている。

 だが、お前いないと俺死んじゃうだろ? 「光秀死んじゃったらハリセン相手がいなくなっちゃうよ?」と冗談で言ったら、早速ハリセンの大量生産をしながらついて来てくれた。


 だが。

 なんだよ、その痛そうなハリセン。

 針が千本つけてあるハリセンで叩かれたら、血みどろになっちゃうじゃないか! 

 え? すぐに血止めのツボ刺してあげる? そういう問題ではない! 

 え? 痛覚麻痺させるツボ事前に刺してあげるからやらせて?


 なめんとんのか、お前!?



「これから多分、三好の先遣隊が物見にやって来る。周囲にそれらしき足跡を沢山付けて来たから、ここへ集まってくるだろう。それを俺だけで倒す。逃げた奴は機動部隊の連中で始末する。逃げられはせんぞ! 覚悟しろ!!」


 し~~~ん。

 おい。突っ込んでくれよ。

 なに? 突っ込みどころがない? もっとまじめにボケろって。

 なんかおかしい。


 真面目にやろうとすると怒られる光秀です。



「来たようですわ」


 自分の耳の付近に針を刺して一時的に聴覚を鋭くした黒古が、敵の動きを察知した。


 俺はハンドサインで了解を伝えてから、この旅籠の二階のあかりを灯した。これで遊興に浸っている油断した奴らがいるとか思ってくれないだろうか。


 無理だよね。

 そんな馬鹿がこの戦国時代にいるとも思えん。


 そうこうするうちに、静々と階段を、甲冑を着た武士が上って来る気配。


 馬鹿め。こういう屋内戦闘では身軽さが大事。AGI最強の俺が負けるはずがない。

 負けそうになったら加速。傷負ったら黒古。万全だ。光秀、用意周到なんです。

 だれだ? 臆病なだけだとか言う奴。当たってるけど。



 ざっ!

 襖が開くと共にでかい声が。

 うるさいよ、夜分に。近所迷惑。警察に通報案件。


「宿を改める! 天子様のおわす京の治安を乱す不届きな輩。この壬生組が天誅を食らわす。神妙に直れ。この場で斬り捨てる!」


 顔の四角い奴が大声上げちゃって。

 太刀を振り回してきたけど、左手に持っていた新型のソードブレイカーでそれをへし折った。


「うぉ? 俺の虎徹がああああ!」


 そんなに愛していたの?

 その太刀。

 ごめんね。光秀、刀に詳しくないの。もっぱらナイフとガン、いや近代兵器や戦術フェチなんです。


「今東さん。ここは俺が」


「真八、油断するな」


 コンドウ?

 シンパチ?

 なんか変な名前のアナグラム。


 暗号解読に夢中になっている俺に真八とかいう徒武者が、胴を払って来る。

 俺は気配を察し、自動防戦スキルを発動。パリィ。

 真八とかいう奴の太刀は自分の足にぐっさりと刺さった。

 痛そう。


「こ、こいつ。強い。応援を呼べ!」


「ですが、こいつ一人です。しかも甲冑を着ていない。囮なのでは?」


 当たりです。

 でもね。

 俺一応、将軍護衛部隊の指揮官なんです。言っとくか。

 今、他に行かれてもつまらない。逃げ帰っちゃったら、戦況を本隊に報告されちゃう。


「誰かは知らぬが、ここで全滅してもらう」


「名を、名を名乗れ!」


「青胴鈴の介だ……間違っちゃったじゃないか! そんなセリフは禁止です」


 ついついヲタク反応をしてしまいました。

 しかも昭和世代のアニメネタとか、ハズい。

 では改めて。


「我は公方様の身辺警護を司る大魔神。明智十兵衛光秀。メイドの土産に見知りおけ!」


 やっぱりヲタクなセリフになっちゃう光秀でした。



 俺は敵の脇差を超高速で抜き、それをお腹に刺して返してあげる。0.1秒くらいしか借りてないから金利は払わないからね。

 二階に上がってきていた者は二人しかいなかった。あと二人が下にいる。


 俺は階段の天井を一気に駆け抜け、敵を攻撃。

 一人の額を割って、その隙をついて突きを仕掛けて来た若い侍の足を払う。

 ありゃ~、勝手に血反吐はいちゃったよ。

 結核かな。ゴホゴホ言っているし。

 近寄らないようにしよ。うつるとやだし。



 外へ出ると、無数の敵兵が群がって来た。

 しかしね、君たち。

 光秀に夢中になってる間に、周り囲まれてるの気付いている?

 見事に足跡作戦に引っかかったね。


 足跡は前に向かって歩いているとは限らないんだよ?

 後ろへ歩いても付くんだ。

 よ~く覚えて、次に輪廻転生した時に負けないようにしてね。


 いつ生まれるか知らないけど、今度はちゃんとした斬り込みするんだよ?


 ◇ ◇ ◇ ◇


 この方々がちゃんと1864年に活躍できることをお祈り申し上げます。

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