第32話:遊んでばかりいずに仕事しろっ!

 

 1568年1月

 山城国京。本圀寺



「手槍は?」

「最大であります。閣下!」


「長柄は?」

「最大であります。閣下!」


「弩弓は?」

「最大であります。閣下!」


「糧食は?」

「最大であります。閣下!」


「士気は?」

「最大であります。閣下!」


「弾薬は?」

「……」


「最低か……」


 俺は作戦指揮所に半兵衛っちを引き連れて入っていく足を止めて、自作の元帥杖で左手のひらをポンポンした。


 これ。

 一度やってみたかったんだよ~~~


 令和で復刻版の戦争映画特集があって、その中の第二次大戦もの。『史上最高の作戦』という名作。上陸作戦を扱ったやつね。


 このなかで歴戦の元帥が西部方面軍司令官として指揮所に入っていくシーン。

 ルント何とかという元帥に報告する参謀が、元帥の状況質問に対して、全部「最低であります」と答えるシーン。



 現在の明智機動部隊の状況を確認する『演技を』して遊んでいたんだよ。半兵衛っちも「それで殿が喜ぶならば」とか言っちゃって付き合ってくれちゃって、光秀感激!


 でもね。

 その視線が痛い。


 その何とかシュテット元帥も若い参謀に「元帥が来てくれたんだから勝ったも同然!」ていう演技してたんだよね。

 今の半兵衛っちの表情で!!


 これは遊びだ。

 だけどね。

 三好の軍勢が到着する明日1日。これが明智機動部隊の最長の一日になるのは言えてる。ザ、ロンゲストな一日だよ。


 正史では2日間だっけ?信ちゃんが駆けつけてくれるの。

 この2日間を持ちこたえるには1日目で最大インパクトを与えるのが一番効率的。敵をひるませる事。これが出来たら勝ったも同然。


 だがな……

 弾薬がない!


 特に狙撃用のライフル銃の弾がないんだよ。あれ、特注品。各銃で一丁一丁微妙に大きさ違っちゃう。


 それに無理して別の弾を詰めこむこともできない。だって、口径違うし!

 誰だよ。「ライフルの弾丸色々変えて見よ~ぜ。PDCA、PDCA~」とか遊んでいた奴。ちゃんと仕事しろ、責任者出てこい!



 ……俺でした。

 遊んでいました!!

 すみませ~~~ん><




「殿。想定外の事態ですが、殿ならば必ずや何重にも必勝策を練られている筈。それをお聞かせいただけないでしょうか?」


 その目やめて! 半兵衛っち!!

 俺、口から魂抜けて、骸骨になっちゃうよ。


 口を開けて脱力して、思わず天を仰いだ俺の顔に冷たいものが落ちて来た。


 なんだ「雪か……」


「雪! そうですか。やはりその策ですね。流石は殿。前もってこの雪を予見して策を……」


 ひょえぇええ!


 またかよ。

 どうにごまかそう。

 オロオロ。

 そうだ。


「その策に用意するものは? 半兵衛どう見る?」


 これだよ。

 そこから予想して策を見破ってやるぜ!


「はい。まずは寺の畳すべてと、出来る限りの板材。それに障子も使いましょう。あとは桶・釜・鍋などを民家から手配いたしましょう」


 ……全くわかりましぇん。


「雪か」


「はい、雪でございます。この冷え込み。必ずや敵方、風邪を引きますでしょう。そこへ……」


 なんとなくわかった気もするが……


「夜襲もいいな」

「はい! それが上策かと。しかし昼間もあれを使えば可能ですね」


 何だよ!

 その「あれ」って!!


「戸板か」


「そうでございます。地図を用意してください」


 半兵衛っちが伝令兼副官役のへーたいさんに命令する。


「では、このルートでよろしいでしょうか?」


 作戦指揮用に置いた矢盾のテーブル上に地図をおいて、半兵衛っちが説明を開始する。


 ああ。

 やっと「はてなはてな」モードから解消されて、光秀安堵です。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「ご主人様。三好の軍勢、二手に分かれて進軍中です。南から6000。西が4000。南は宇治で停止中。西の軍勢は現在下京です」


 シュピッ! と音がなるほどいい敬礼をしてアゲハが報告する。



「何であたしが物見をしなくちゃなんないわけ? 公方くぼう(将軍)の護衛じゃなかったの?」


 雪風からは、

 ビシッ! と音が鳴るほどツンデレポーズ頂きました。



「十兵衛よ。指示通り戸板と障子を広げて来たぜ」


 夕暮れ時にもきらりと光る歯を見せて笑う利家のに~ちゃん。

 こいつの歯は、どうしてこんなに白いんだ?

 戦国時代の人間っていいもん食ってるの?

 ああ、俺があげた歯ブラシ、大量消費しているのね。お松ちゃんにやれと言われたんでしょ。「お口がくさ~い」って。



「殿さんよ。民家の屋根に水をためて来たぜ。京の奴らはいい奴ばかりでな。俺が頼むと快く引き受けてくれた」


 慶次よ。それは快くではない。決して!

 お前の顔が怖いんだよ!!



「さて。日が暮れますね。皆さま、殿の策通りに動いてください」


 応!


 と威勢のいい掛け声。


 でも俺は働かないよ?

 もう5時だし。

 サブカル時間だよ。

 まあせめてもだから、日が暮れる前にレーションの乾パン割っておかゆ作っといた。まずいけど。


 ささ。食いねえ喰いねえ。かゆ喰いねえ。


「殿。殿は食事はほどほどに。これから走り回るのですから、腹がもたれてはいけませぬ」


 え?

 俺?

 走る?


 何いってるの、半兵衛っち。

 大将は中央にデンッ!と構えるのが仕事よ。


 ドイツ陸軍の嫌われ役、リストラ元帥ゼーク何とかが「仕事のできる怠け者は将軍に」との名言を残してるじゃない。


 怠け者の俺は将軍に適任!

 なので後はよろしく~


「皆さまがた。殿が囮となって敵を引き回しますので、分担ごとに奇襲、後退を繰り返してください。民家の屋根で敵兵に水をかける役は庶民にしていただきましょう。よい娯楽でしょうから」


「応! 京の庶民は娯楽に飢えているからな。よく働いてくれるだろう。みんなも一働きしようぜ。殿の頑張りを無駄にしないようにな!」


 勝手に事を進めるんじゃない!!

 また俺が一番仕事するの?

 もうやめて、おうちへ帰りたい。寧々ちゃ~ん。愛してるよ~~~。また戦さしようね。


 これから本当の夜戦です。

 生きて帰れるだろうか。

 超心配性な光秀です。

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