第34話:物資徴発?仏師調達?けさ調達?

 

 1568年1月

 京山科。本圀寺南方3km

 真言宗勧修寺



「おやめください! 罰が当たりますぞ!」


「何を申すか。我ら、単に僧兵をお貸ししたいと申しただけ。それを断ったからには代わりのものを頂こう。これもこの山科の治安を維持するためじゃ」



 爽快だなぁ。

 寺とか宗教施設をいじめるのは。

 今、この寺を狙撃指揮地点として徴発しているとこ。

 ついでにちょっとばっか挑発も。


 罰当たり?

 いや、もう罰当たってるし。

 何もしないのに全財産持っていかれた人がここにいます。

 その貸してある財産を戻してもらおうかと。


 え?

 宗教が違うって?

 光秀、分かんなぁい。どの宗教も同じに見えちゃって。

 基本は、洗脳。マインドコントロール。

 多分、そのテクニックの優れている所が巨大宗教勢力になっていくんだろうなぁ。



「物資も出せないのなら、お前が真言唱えて役行者や弘法大師のように、法力でこれから来る将軍を殺そうとする三好を追い払ってくれ」


「ご無体な~」



 ここは本圀寺の南、山科の真言宗勧修寺。

 なんか火事で焼けたまま、ボロい建物があるだけの寺だ。


 公共の役に立っていない施設は、再開発しなくちゃね。あとで取り壊して巨大商業施設でも作るか? 信ちゃんか秀吉に献策して、ここも再開発ね。



「お待ちください! この奥には大事な仏像が!」


 作務衣を着た数人の職人らしき男が土下座して、奥の院への道をふさぐ。

 まあそっちは使うつもりはないけど、木材とかバリケードに使えるものは持って行こうかと。


「その方らは?」


「ここでお世話になっております仏師にございます。どうか仏像だけは壊さずに。この身に変えても。伏してお願いいたしまする」


 仏師って仏像作る人達だっけ?

 仏像……人形。フィギュアの親戚?


 俺はそう認識するが早いか、目にも止まらぬ速さで仏師たちの前にスライディング。その手を取り、額をくっつける程、顔を合わせて言った。


「同志! 是非その技術。教えてください! この戦いが終わったら是非岐阜へ!」


 スパコーン!


 後ろからとげとげしたハリセンが。


「なにやってんのよ。もう敵は目の前でしょ? 朝日が昇れば攻めて来るわよ!? 趣味は後ですのよ」


 後ろを見ると、黒古がプンスコしている。

 こいつもこの最前線に連れて来た。

「メディ~ック!」と叫ぶのは、ヲタクが戦場で戦うのなら避けては通れない重要シチュだからな。



「……で、お前の手にしているものはなんだ?」


「え? これは、あれです」


「どう見ても、『あれ』だよな」


 坊さんが肩から掛ける衣装の『袈裟けさ』。

 物資徴発だからとはいえ、それは戦には使わんでしょ?


「返していただきたい。それは拙僧の大事な袈裟にございます。たった一つの私物」


 結構、見栄えの良い『美僧』……

 そういう事ね。


 こいつ、腐ってやがる!!


「返してやれ」

「嫌ですわ」


「返せ」

「い~やっ!」


「……腐」

「どきっ」


「腐っ、腐っ、腐っ!」

「やめて~~。秘密にしていたのに~~」


 渋々、美僧に袈裟を返す黒古。

 ヲタはもっと自分に自信を持て。人間、開き直りが重要だ!




「大隊長! 総員配置につきました」


 いや~。中隊なんだけどね。

 気分で大隊長と名乗っている。鬼の大隊長、かっけ~。


「懐石は?」


「全員に2つ持たせました」


 懐石料理じゃないぞ。

 こう、寒いと引き金落とす指が、かじかんで大変なことに。

 なので、あっためた石を布に来るんで懐に入れている。

 戦国時代の常識だよね。


「寺から東、山麓までの距離800m。その内、400mは川原で通行不能。残る400mに伏兵を配置完了です」


 明智機動部隊は南の山科方面に全兵力を振り向けている。

 昨夜の奇襲で西の4000は疑心暗鬼となり進軍が止まっているから大丈夫と見た。

 ついでに風邪ひきさんも大分出たしね。


 これ、俺の判断じゃない。半兵衛っちの判断だから。きっと間違えではない。天才軍師がいると楽です、はい。


「慶次の小隊は?」


「街道上に待機しています」


 今度は慶次が囮です。

 もう俺、囮はやだ。

 今度こそ、どっしりと構えているんだ!


「山科は民家がまばら。ですが、あばら家があちらこちらに残っていますので、そこに雪を使い偽装をしております」


 あの戸板とか畳は、昨夜から地面に敷いて置いた。みるみるうちに雪が積もったので、朝までに積もった雪を移動させ、建物を偽装。

 偽装トーチカ的な何かを作り上げました。


「それで敵の誘引は?」


「はい。土地の娘を使いました」


「伝令のいまわの際の伝言か」


「殿のアイデアで、腕に傷を。銭を奮発したら喜んでおりました」


 ええええ?

 それ、「血をつければ本物みたいでいいね」的につぶやいただけなのに!


「流石は我が殿。必ずや敵は誘引されて参りましょう」


「応よ。十兵衛は非情になる時は非情だ。そうでなければ敵を恐れさせることは出来ぬ。この寺も焼いてしまうつもりだろ?」


 やめてよ?

 無駄な殺生はしたくないの。

 光秀、元はと言えば血を見ただけで気持ち悪くなる『口先き男』だよ?


 信長じゃないんだからさ。

 皆に恐れられる必要ないし、光秀引きこもり計画には邪魔なだけ。

 皆にいい顔して、平和に暮らさせてもらうだけでいいの。

 宗教嫌いだけど、文化遺産は焼きたくない。そういう人に目をつけられる事は嫌いです。


 第一、すでに半分焼けてるじゃない。この寺。

 実害なければ放っておきましょ。

 恨み買うのは御免でござる。


「さあ、十兵衛。いや殿。将軍家の近衛、帝の衛士となって天下に名を馳せましょうぞ! この戦、その先途とならん。殿はそこでどっしりとお構え下さい。我らが敵を粉砕してまいる!」


 利家に~ちゃん。

 光秀、ヒキニートしていいですか?

 君が加賀で100万石貰ったら、雇ってください。足軽長屋の片隅でサブカル生活するだけで満足なんです。俺。


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