秀吉の憶えめでたくなろう!

第5話:今さら、やばい事実を認識


「無理だ」


「やっぱ、無理?」


「無理。1丁1年! それだけ時間をかけなきゃライフリングは出来ない!」


 おっさん臭い大男の幼馴染、冬木頼次があぐらをかき、腕を組んでそっぽを向く。 到底、俺と同じ一四歳には見えない。


 そのおっさん少年が、あの冬木スペシャルライフル銃を作るのは『芸術品』を作るのと変わらないと、量産を拒んでいるのだ。


 第一、 ライフリングする設備もない。この凝り性な奴の手作業で難題を可能にしたのだから。



 ここは俺の新居。

 信長の居城、清洲城下の足軽長屋に毛が生えた小さい屋敷。200貫文(年収約4000万円)も禄があれば、もう少しましな屋敷に住むのが普通だ。


 だが!

 銭を節約しなければ、信長の厳命である『鉄砲の量産』に必要な費用を確保できない。こう言うのって大抵持ち出し、つまり自腹なんだよね。最初は。



 ここに居を構えて最初にしたことは、この冬木を呼び寄せる事だ。


「一緒にあ~そ~ぼ~♪」

「い~い~よ~♪」


 という、エニグマ暗号よりも破られにくい極秘の手紙のやり取りで、美濃の国からこちらへ引っ越してもらった。

 また一緒にオタク的な趣味の世界に没頭するのだ。


 だが俺の場合は、あるじ持ちになり、趣味の時間が限られてしまった。クソッ! 生活費、いや材料費を稼がねば。


 短気な信長のことだ。

 可及的速やかに鉄砲の量産をしないと、多分首が飛ぶ。大抵のゲームはそうなっている。


 何とかしないと就職早々、クビになる。いや本当に首が飛ぶんだよな。この時代。



「ライフリング以外の改造は出来るのか? 銃床をつけたりカルカ(火薬詰め込むときの棒)を青銅にしたりとか」


「それは出来る」


「じゃ、それオーダーしていい?」


 このくらいは即座にできるだろう。


「ああ。だいたい半年でできる」


「半年かよ!? 銃床付けるなら、ガリガリ・クリクリ・カチッ。できた~。とかで1日でできるだろ? お前の手際なら」


 冬木の目が言っている。

 それではつまらない、と。

 ……あ~わかったよ。こいつは俺と同じく趣味人だ。

 他は適当。だが趣味には命を掛ける!


「じゃ、じゃあ。設計図描いてくれ! それなら他の鉄砲職人に複製してもらえる」


「い・や・だ」


 くぅううう。


 こいつはこうなるとテコでも動かないからなぁ。そうだ! やはりいつものようにエサで釣ろう! 以前は、酒で釣れた。となると、酒を用意だ!


 俺は城下町の酒屋に駆けていく。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「これはもう飽きた」


 冬木の野郎。

 俺の買ってきた『どぶろく』(濁り酒)を一口飲んで、ぷいっと横を向いてしまった。


 この男、贅沢になったな。

 いや、味をしめたのか。

 俺が頼みごとをするときは、酒なんかをプレゼントするから、慣れてきやがった。


 しかたない。

 もっと高級なやつを。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「おお! これはうまいぞ! みっちゃん。感謝! 毎日、これちょうだい」


 懐の財布を開けて、逆さまにして振り振り、こいつ見せつける。


「設計図を信長さまに提出して御ほうびもらったら、そのすみ酒(清酒)、また買って来るから。好きな皿に絵付けするくらいの速さで書いてくれ」


「あ~。好きな絵は半年かかるけどいい?」


 だめだ。

 やはりこいつは、とことん俺とおんなじ趣味人だった。


「仕事としてやってくれ~~! 納期は3日! 半刻でも遅れれば、クビだぁ!!!!」


 そうしないと俺のリアル首が飛ぶのだが……


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ようやった!」


 目の前に信長のご機嫌顔。

 そういえばゲームのフレーバーテキストで、信長は戦功があった武将にその場で小粒金などを、すぐさま与えていたとか読んだ記憶がある。


 これはもしや、このままご褒美が……


「では下がってよい」


 えっ。

 それだけ?

 ここは小粒金1個でいいんで、欲しいです。

 さすがにそれ口に出すわけにはいかないが。


「? 何か言いたそうじゃな」


 どうしたものか。


「その顔、まだ出来る仕事がありそうじゃな。申せ!」



 ……仕事が増えるが仕方ない。

 首になるのは嫌だ!

 あれを献策するしかない。


「はっ。鉄砲はそれだけでは役に立ちませぬ。一番重要なのは訓練! それに必要なものは、火薬! それを作る材料の硝石は、現在堺や博多から唐国(明国)の高級品を買っております。これがネックとなり、多くの大名は鉄砲を使用しないと見ました。ゆえに、この量産が最重要かと。これをお任せさせてくださいませ」


 さっきの設計図の紙を近習に渡した信長。板の間に膝をついている俺をじろりと見降ろし、顔を近づけて来た。


 そして、あの顔を始めて見せてくれた。


 ニヤリと笑い、甲高い大声で俺を褒めた。


「よう見た! 誰かあれを持ってこい」


 テンプレの『あれ』でわかる近習は凄いな。

 俺には絶対に無理です。


 座敷の中からではなく庭から回り込んできた小男が、信長に高級な酒の入っていそうな徳利を渡した。


 信長自身で褒美ほうびを手渡してくれるなんて、結構な優遇?


「これをやる。益々はげめ。硝石の製造は任せる。必要なものは、この猿に言え。手配する」


 酒を持ってきた小男は、信長に深々と頭を下げ、こう口上した。


「はっ。この木下藤吉郎!

 一命に変えても、火薬の製造を成功させる手助けをさせていただきまする!」



 へっ?


 藤吉郎?

 んじゃ、これ、秀吉じゃん。


 俺はこちらに顔を向けて来た小男の顔を見て。


『ああ。お猿さんだ』


 と、やっぱり思った。

 ニコニコした、いかにも人を楽しくさせる笑顔。


 こいつと仲良くすれば、憧れの働かなくてもいい城持ち大名になれるかも!?っとホワイト職場に思いを馳せるのだった。


 だって信長の織田家ってブラックだから、早く秀吉の時代になってほしいよ。

 あ~あ、誰か早く信長を本能寺で倒してくれないかな。


 あ……

 本能寺?

 誰が謀反?



 明智光秀って、俺じゃん!

 こいつに倒される奴じゃん!!


 これは、仲良くしないとヤバイ説?


 俺がんばる!

 秀吉君をよいしょして、無事に桃山時代でも生きてたいです!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 秀吉君登場。

 光秀は仲良くなれるのか?


 次回は初めての共同作業です?


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