第3話:最強のお守り?


 さきほどの合戦場のすぐ脇のあぜ道。時間はちょっと前。

 明智光秀

(サビ残の嫌いな奴)



「前田利家って、槍の名手だろ? 正史で義元討ち取った毛利新介も、義元うち洩らしそうだし。手助け必要? 世話の焼ける連中だねぇ」


 さきほどの狙撃場所に戻った俺は、アゲハと一緒に弁当を食っていた。腹ペコです。戦闘前に食べちゃうと腹やられた時、助かんないのよ。


 もちろん俺が作った弁当だよ。

 アゲハは毒見役しかできない。

 毒を食っても平気でいそうだけど……



 しかし握り飯は塩に限るな~。

 他は邪道だよ。


 アゲハも隣で両手で大事そうに持ったおにぎりにかぶりつき、「うまうまです」と言って食べている。


 2人で並んで腰かけて見る戦場。

 こっちへ矢弾が飛んでこなければ映画のワンシーン。

 見ごたえがある。


 これでポテチがあれば、文句はないんだが。

 いや、おにぎりには味噌汁も捨てがたい。

 しかし、ドラマ鑑賞時には、やはりピザか……


 俺が天下分け目の戦いの作戦を決めるような大事で難解な思考をしていると、のほほんとしたアゲハの声。


「ご主人様~。このままでは義元は逃げちゃいますねです」


 それもまずいな。

 もう仕事は済んだのだけどなぁ。

 手も洗って甲冑も脱いで、気軽な戦さ見学者だったんだが、そうも言っていられないか。


 就職活動はまだ終わっていない。

 自己PRの材料は多い方がいいし。

 ただ利家の分は取っておかないとコネが使えない。



 俺は指についていた米粒を名残惜しむように全部舐め終えてから、4丁の鉄砲の内、ライフリングがしてある1丁を取り出し、構えた。


 幼馴染のヘンタイ的凝り性の技術者、冬木頼次がたった1丁だけ作った芸術品だ。

 ライフル彫るのに1年かけやがった。

 人間、好きなことは何時間でもやってられるよな。


 因みに俺は、ガンプラや自作フィギュアに占領された部屋の片隅でひっそりと暮らしていた。ああ、天国だったんだよ。本当に。


 サブカルはいい。

 それがないと息が出来ない程、サブカルをいとおしく思っている自分を誇りに思う今日この頃。



 ずが~~ん!


 弾は義元の乗馬に命中。

 さすがに50間(100m)を超えると、ライフリングをしていても命中精度はあまり望めない。丸弾だもんな。


 安全策を取り、お馬さんに犠牲になってもらった。


「さすがは私のご主人様なのです。見事な狙撃! 前田様が無事、首級を上げたです♪」


 よし。

 就職へ向けてのエントリー表は完成した。

 これで残るは面接試験。


 ……面接官。やっぱり、あの魔王信長だよな。

 数々の圧迫面接を潜り抜けてきた俺も、ラスボスに挑む勇者の気分だ。


 勇者には旅の友が必要。

 利家君。宜しく頼む!

 手伝ったんだから、今度は逆にお手伝いしてね。


「ご主人様。これ、お守りです。10日かけて作りました~。宜しかったら身につけていってくださいませです♪」


 アゲハの差し出す掌の上に、意味不明の物体が。よく寺の門に張られている御札のような紙。それが複雑怪奇な形に折られている。


「こ、これはなにかな?」


「はい! ご主人様は神社やお寺が大嫌いと聞き、アゲハ自作の御札を用意しましたです。にぱ~♪」


 太陽のような笑顔と共に、差し出す両手。


「この、もじゃもじゃした紋様は?」


「アゲハの笑顔です。うふっ」


 マスキングを失敗したスプリッター塗装のような、滲んだ墨痕が迷彩柄になっている。


 何も言うまい。

 だがその気持ち、顔に出てしまったようだ。


「だ、ダメです? やっぱりわたくしはお役に立てないダメ忍び……」


 白目の顔にザザッと縦線で雨のような効果線。

 宇宙の終わりのような表情。


「よ、よくできているな。アゲハ。これなら第六天魔王の圧迫面接にも耐えられそうだ」


 途端にアゲハの背景にヒマワリが咲く。


 よく考えてみればこいつに何度命を助けられたことやら。

 最強のお守りじゃないか。


 アゲハの頭をポンポンしてやり、こちらへ向かって来る利家に手を振った。



 ◇ ◇ ◇ ◇



 鳴海城

 大手門

(これから首実検に行きます)




「おまえ。どういう身体してんだよ? 飛んでくる矢を全て斬り落とし、深田をものともしないで突撃するとか。尋常じゃねぇ」


 もう2刻以上たっているのに、利家はまだしきりに感心している。後ろに付き従うアゲハが胸をそらして自慢げにしているのがわかる。


「いや、ちょっと1年間ほど、上野国(群馬県)の上泉伊勢守信綱の道場でもんでもらったんだよ」


「剣聖か! だが1年であれほどになるはずがないだろっ!」


 俺を連れて来た坊主姿の変な奴に、遺伝子レベルで変えられているようで体が自由自在に動くんだよ。ヒトの遺伝子、勝手にさわるなよ。一応これのお陰で、何度も命拾いしたけどね。


「だがな。新陰流の奥義は身につけられなかった。さすがにまろばしは真似できないなぁ」


 まろばしが本当にあったのにはびっくりしたが、周囲の敵を瞬く間に素手で全員スッ転がすとか、神かよ。


 さすが剣聖。

 いや、もう剣聖じゃないよな。

 剣神剣心だよ。

 そろそろ『流浪るろう』するんだよな、正史では。


 ゲームの中だけの技でないことは、新発見だったので嬉しかった。時間があったら、また行って教えてもらおうかな。


「その信綱殿、槍はやらんのか? 教えてもらいたい!」


「やっているね。だがその内、奈良の興福寺で多分宝蔵院流が出来るから、そっちの方が近くていいな」


 よくわからない顔をしていたが利家は満足したようでなにより。大分俺の口先三寸に慣れてきたようなので順応性は一流ですね。


「あの鉄砲は、普通じゃないな。腕前も凄いが、種子島とは別ものか?」


 これは対信長戦の極秘兵器だから。

 これないと圧迫面接で踏みつぶされて、「末筆ながら、貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます」と、お祈り手紙メールを渡されるのは目に見えている。


「まあ見ていなって。ところで又左よ。義元の首実験の時、一緒にいていいんだよな?」


「もちろんじゃねぇか。お前がいなければ、この首取れなかったぜ」


 右手に吊るした血まみれの頭陀袋を持ちあげて、晴れ晴れとした良い笑顔を向けてくる。


 うん。

 こいつはいい奴だ。

 ずっと仲良くしておこう。


 こいつは秀吉の生涯の大親友だったはず。


 こいつとつるんでいれば、豊臣秀吉も友達になれるのか?

 秀吉もいい奴ならいいんだが。

 秀吉とも仲良くなって、楽して大大名に!


 これで俺の野望に一歩近づくか?


『光秀の野望』


 あとでボードゲームつくろう!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 果たして魔王信長に採用されるのか?

 いったいどんな採用条件なのか?




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「アゲハ、お守り上げるです。つけて(フォロー)くれたらあげるです。にぱ~♪」

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