第3話 今晩の夕飯は
夕方六時半の一月の空は既に夜の様相を呈していた。空には赤、青、黄色、緑など、七色の鮮やかな星々が漆黒のキャンバスに惜しげもなく散りばめられている。
「今日は星がよく見える」
「空気が澄んでいますし、お月様も主張を控えめにしていますからね」
見上げながら、橙とミアの二人はぽつりと言った。もうもうと立ち上る白い息は、雲一つない夜空にちょっとしたアクセントを加えているよう。
等間隔に伸びる暖色系の街灯と鼠色の石畳。途切れる様子を見せない通行人の往来。全長二キロに渡るこの道の両脇には、隙間なく様々な店舗が立ち並んでいる。紅々町商店街進行組合はこの商店街の最果て。六丁目の行き止まりに事務所を構えていた。
「ねえミア、今晩は鍋にしよう。鍋」
事務所を出た橙の様子は意外と普通で、あっけらかんとしながらミアに夕飯の希望を申し立てていた。
「ええ、またですか。私たち昨日も食べたじゃないですか」
「具材が変わればそれはもう違う料理なの。そうだなぁ、昨日が味噌煮込みだったから、今日は薄く水炊きでいこう、うんそうしよう」
「また屁理屈を言って……」
鍋には目がない橙だった。
「……はあ、わかりました。そしたら八百屋さんに行って、お肉は槙田さんちのところで買いましょう。それと――あれ、お酒はあったかな……」
そう言うミアもまた、大概であった。
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