第45話 錬金術 ②

 またもや予期せぬタイミングでの通知音。

 気が抜けていた分だけ、腰が抜けるほど驚いた。


【♫賢者の石による精製を成功におさめし者よ、よくぞその境地にたどり着いた。ダンジョンに散りばめた2つ目の秘密を見つけたならば、道は半分。更に手を振り足を前に出せ】


 神は賞賛だけでなく、とんでもない情報まで教えてくれた。

 神の元に行くにはあと2つの秘密を見つければいい。

 知って行動するか、闇雲にやるかでは雲泥の差がある。


【望む褒美を選ぶがよい】


 以前と同じ感情のこもらない声だけど、その言葉には讃える意思が込められている。

 だけど俺はこの茶番に吹きだした。


「自分で誘導しておいてよく言うよ」


 親父殿の言う通りなら、高度な錬金術の成功率は0.0001%と途方もない道のり。

 だが実際には俺がやった訳ではなく、機械まかせ。


 しかも100%の成功率だ。失敗するほうがおかしいぞ。


 はい、あなたとはズブズブの関係ですからね、俺の事がかわいくて仕方ないんでしょうね。

 えこひいきってヤツで、まあ悪い気はしないよ。


 ただちょっと卑怯な裏技みたいでなんだか気が引けるけど、褒美があるから辞退するのは勿体ない。


 二度目になる褒美。眼前のボードをニヤケながら見る。

 前回は大金か夢かの2択だった。


 さて今回はどんなものか楽しみで、前回以上のをと期待してしまう。


【褒美のどちらかを選びなさい】


 ①現金一千億円

 ②親父殿がそこそこ家にいてくれる


「はあ~? ふざけんな、これがおれの望む事だと!」


 今回の褒美は超大金と、前回とは逆のアンハッピーライフの二択になった。


 ②なんて論外だから、①をどう扱うかを考える選択だ。


 超莫大な現金。いっけん夢のような話だけど、レベル限界突破で無一文になる俺が手に入れてもしょうがない。


 賢者の石や装備品を手に入れるにしても限度があるし、なによりその供給がないだろう。


 つまり今の生活を続けていては、その価値はゼロに等しい。


「じゃあ、ハンター辞めるのか?」


 エミリさんとの唯一の繋がりを自ら絶つなんて、それこそ馬鹿げた選択だよな。


 なにせエミリさんは忙しい人だ。

 先週も世界ハンターフォーラムでオンライン演説をやっていたし、週に2~3度は何かしらの会議や会合に出ている。


 そのうえで、ダンジョン攻略もこなしているんだ。

 前の俺とは全く別次元の存在だ。


 そんなエミリさんとの繋がりを絶ってしまえば、二度と交わる事はない。

 遠目で見ることも叶わないかもしれない。


「そうだ、エミリさんが楽できるよう何か助けになるものに使ってみるか」


 俺だと給料を前払いで人を雇うとかぐらいしか思いつかないが、結衣に聞けば何か良い案が出るはずさ。


 それでも余るだろうけど、消えるなら消えるでいい。

 親父殿にっていうのよりは、よっぽどマシな選択だよ。


 それとどちらかを選ぶまで、目の前の画面は消えそうにないし、消去法として①を選ぶことにした。


「帰ったらエミリさんにも話そうっと。また秘密を見つけたって言ったら驚くだろうな」


 ①を選ぶため手を伸ばしたけど、急に足元が滑ってしまい、その場でコケてしまった。


「あいたたたっ、ツイていないな。ははっ」


 見ている人はいないのに照れ笑い。

 それも変だなと思い直し、再び選ぶため立ち上がった。


『ふむ、②を選ぶのか。……そなたの意思は受け取った。特異な者よ、そなたの選択は実に楽しい。早くここへ来い、待っておるぞ』


 選んでもいないのに神からの語りかけがあった。幻聴ではないかと唖然となる。


 まさかと手元を見ると、右手が②に触れていた。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょい待って! 神様いまのはナシだよ、ナシ。……おーい、聞いてる? おーーーーーーーーーーーーい!」


 必死に叫ぶが返答はない。

 と先ほどの選択が有効とされた証なのか、俺の体が光に包まれる。


 心とは裏腹にすーっと爽やかな風に包まれた。

 そして何故か小さな花火が目の前で〝おめでとう〞の文字を打ち上がっていた。


「いやーーーーーーーーーーーーーー!」




 硬い床の上で目を覚ます。寝室ではない事に驚き、辺りの状況を観察する。


「俺は何を……。そうか、ここは錬金術コーナーか」


 時計を見ると、記憶にある時間よりも2時間経過していた。

 理由はわからないが、俺はここで気絶をしていたらしい。


 倒れる前のことは……うっ。ズキズキと痛む頭をおさえ立ち上がる。


 頭を整理していたら、ここで起きた事を薄っすらと思いだしてきた。


 たしか賢者の石をつかって錬金術に成功した。それが神の隠した試練だったよな。


 それを俺が見つけたって……そうか、錬金術の途中だったよ、うん。


 するとディスプレイに装備をいれて下さいの表示が出ていた。


 指輪の進化を完成させて、次はベルトに取りかかる所だったんだ。


 待ちに待ったガンベルトの進化だ。

 まごついていた自分を責め、準・賢者の石を入れて錬金術を開始させる。


 出来上がるまでしばし黙想。

 終了の合図を期に、片目だけを開けて確認してみる。


 ───────────────────

『早撃ちのガンベルト・Ver2』


 敏捷+250、MP自然回復を1分間につきMP5を追加回復。

 ───────────────────

     ⇩  ⇩  ⇩

 ───────────────────

『早撃ちのガンベルト・Ver3』


 敏捷+1800、MP自然回復を1分間につきMP50を追加回復。

 ───────────────────


「はあ?」


 1800って、ナニコレ。


 いま俺のステータスの合計値を軽く超えてくるんですけど。

 ヤバい事をしちゃったかもしれないが、男心をくすぐる性能だ。


 新しいオモチャはすぐ試したい。狭い場所だけど、少しだけ動いてみた。


 風の音を置き去りにした素早い動き。

 俺の目には周りの様子は見えているが、相手にしたらえげつない速さだろう。


 細かい制御や急停止、思いのままに動かせる。

 自分の能力に酔いしれて、いつまでも動き続けた。


 こうなると、もうタガが外れるぜ。


 幸いにもポイントは残っている。どんどん魔力を上げてやろう。


 悩んだ挙げ句、ステ振りはこうした。


 ──────────────────

 番場 秀太

 レベル:45

 HP :575/575

 МP :3955/3955

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:10100〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+3900)

 魔 力:800


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver3(New!)

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver7

     深淵のゴーグル

     往生際の悪いシャツ

     乱費のお守り

 ステータスポイント残り:150


 所持金 500円

 借 金 18,500,000円

 ───────────────────


 自分でやった事だけど呆れてしまった。


 将来を見越してのステ振りをして、攻撃威力もついに10000を超えてきた。

 だけど自分で言うのもなんだが、俺ってマジ格好いい。


 ビュンビュンと動いて、高火力で撃ちまくる。

 どこかのアニメのファン○ルみたいだな。……あっ、撃ち落とされないよう気を付けよう。


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