第44話 錬金術 ①

 親父殿が帰ってきた。

 嵐のようのドタバタだったけど、唯一の救いは借金が増えなかったことだ。

 会うたびに額が大きくなるし、次に会うのが怖かったんだ。


 それに当分は家で大人しくしてくれるそうで、借金をする暇もないだろう。それだけでも安心だ。


「まっ、どこかで賢者の石でも出たら別だけどな。それまで真由美さんの手料理を楽しむぜ」


 親父殿のこのセリフに、俺らの顔がひきつる。

 賢者の石が手元にあるのを知っているかのような発言だ。


 だけど限界突破で消えてしまうアイテムだ。

 俺の頭の中でふと、親父殿に渡してしまおうかと浮かんできた。


 だけどこれに察知した結衣が猛反対。


「お兄ちゃん、賢者の石を使うなら、他の材料だって同じくらい高価な物が必要なのよ。もし渡したら億の借金を作ってくるわよ」


「ヒイイイイイイイ!」


 そこまで考えが及ばなかった自分に反省だ。

 事前に相談してよかったよ。


「どうした秀太、もしかして賢者の石でも見つけたか?」


「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ、絶対そんなの持ってません」


「だろうな。でももし見つけたらオイラにくれ。代わりになんでも願い事を聞いてやるからよ、がははははは」


 バレていない、セーーーーーーーーーフ。


 愛想笑いで誤魔化せれたぜ。

 賢者の石は俺らだけの秘密にし、母さんと楽しい日常を送ってもらおう。


 そして俺もやることがある。しかもそれは2つに増えた。

 ひとつはスタンピードで止まっていた錬金術コーナーを探す探索だ。


 そしてもう一つは新しい装備を手に入れる事。

 その理由は、新たに別枠進化したスキルのせいなんだ。


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『ガイアの覚醒弾』


 全能力を倍増させる強化弾

 効果時間:5分

 リキャストタイム:2時間


 ※重ねがけ可能で2倍、4倍、8倍と増えていくが、作用時間をすぎると全能力が重ねた分だけ低下する。1/2、1/4、1/8とリキャストタイム中持続する。

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 すげえ微妙。いや逆に使いどころの難しい。

 スキル使用後に敵が全くいない状態にできるなら、どんな強敵も怖くない。


 だけどタイミングを間違えたなら、ボス戦の後でゴブリンに殺られるって事もあり得る。


 むちゃくちゃピーキーな進化だぜ。


 だからこの負の部分をカバーできる装備を手に入れたい。

 というか手に入らなければ、このスキルはお蔵入り決定だ。


 それからは数日間、魔石を貯めつつ2つを探す攻略を開始させた。


 運がいいのか悪いのか、魔石だけはどんどんたまり進化させる準備は整っていった。




 B級ダンジョンボス部屋の大広間。


 俺は扉に向かい、柏手かしわでを打って頭を深々と下げた。


「えー、異界の神さまぁ、俺の要望に応えてくれて本当にほんとうに、あざーーっす。これであなたとはズブズブの関係だと分かりましたので、思う存分活用させてもらいます」


 もう一度きちんと礼をする。


 そしてガラスの扉を開き、四畳のスペースに入る。

 ディスプレイをチカチカと光らせて、あの機械が出迎えてくれた。


「ただいまーん、会いたかったよ」


 心なしか機械も嬉しそうに点滅しているよ。


「よしよし、じゃあ早速いくか。貯めに貯めた魔石の全部つかっていくぜ!」


 結衣との約束で、あらかじめ決めていた幸運の指輪から進化をさせる。


「必要数はB級魔石が200個か。ベルトとはやっぱ要求が違うな」


 報告するためのメモを取り、成功率100%を確認してYesのボタンをタップした。


 前回と同じ長い時間を待たされて、やっと指輪が出てきてくれた。


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『幸運の指輪・Ver4』


 いい感じでツイている指輪。

 ほら、幸せはもう目の前です。


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     ⇩  ⇩  ⇩

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『幸運の指輪・Ver5』


 ツイているのが当たり前の指輪。

 悪い事? なんですかソレ。


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 うんうん、確実に進化しているね。

 さらにもう一度投入すると、要求物に変化があった。


「ふぅ、準・賢者の石が1個か。クックックッ、やけに挑発的じゃないか。いいだろう受けて立つぜ、とうっ!」


 実はこの何日間で準・賢者の石を3個も手に入れている。

 幸運の指輪の効果だとしても、ちょっとつきすぎている異常事態だった。


 だがそこは素直に喜んで、今回の装備進化に備えたんだよ。


 その甲斐があって、この指輪を進化させられる。

 そして出来上がった指輪は、いい感じに仕上がっていた。


     ⇩  ⇩  ⇩

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『幸運の指輪・Ver6』


 傍目はためからもツイているのが丸わかりの指輪。

 全てはあなたの為にある。


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 おおおおおお、いいよ、良い。

 そんな感じでくるんだな。幸運の指輪の名に恥じていないよ。

 これは次が楽しみなってきた。


「よーし、もういっちょー……えっ?」


 ペカペカとディスプレイには、


〝必要素材:賢者の石 1個〞


 の文字が点灯していた。


 呆然としていると点滅の速度が速くなり、早く入れろと煽りだす。


「イヤイヤ、それはない。何十億もするんだぞ。君もこの道のプロならお金の価値分かるだろ? なっ、悪い事は言わない、変更してくれよ!」


【……】


 無言で返してきやがる。


 こんなの考えるまでもないよ。

 投資に対してリターンが少なすぎる。

 すぐさまNOを連打していると、画面の文字が変わった。


【本当によろしいですか? このチャンスは二度と訪れないと思われます。それでもよければお返ししますよ?】


「な、なにこの問いは。そんな重大な場面なの?」


 それになんで俺は脅されているんだよ。

 いつもの癒着まがいの関係は何処にいったんだ。

 そう戸惑っていると、画面が変わりさらに煽ってくる。


【ここでやらないと2度と2度とチャンスはありません。そんな馬鹿なことするのですか。悪いことは言いません、Yesを押しなさい。そうすれば今後のあなたの人生はバラ色です。運の絶対支配者になるのです】


 YESのアイコンが大きくなり、NOのアイコンが移動しまくる。

 YESを押させる気満々、この機械は俺の絶対支配者になる気だよ。


 心なしか若干怒っているようにも思えるし、なんだか怖くなってきた。


【さあ、さあ、さあ。YESとNO、どちらを選ぶのですか、ハッキリとさせなさい!】


「ヒーーーッ、Yesです。YES、YES、YESしかありませんーー」


【……無理をしなくていいのですよ。嫌ならNOをタップして、くそったれな人生を歩むがいい】


「ほ、本心です。心の底から進化させたいんです。やらせてください、お願いします」


【……そう?】


「はいーーーーーーーーーー!」


【ならば賢者の石を投入しなさい】


 機械に言われるがまま怒らせないよう丁寧に入れて、愛想笑いをしながら手続きを済ませた。


 そして指輪が戻ってきた。


     ⇩  ⇩  ⇩

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『幸運の指輪・Ver7』


 完全たる幸運の指輪。


 あなたの幸福のため、あらゆる手段を尽くします。幸運の女神ですら、この指輪に嫉妬していますね。


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 なんじゃこりゃ、コメント凄すぎるよ。


 改めて指輪をしげしげと見る。

 何の変哲もない指輪だ、どこにこんなパワーを秘めているんだろう。


 振ったり光にかざしてみたりと、色々やってみるが答えは見つからない。


「あっ!」


 つい手すべらせてしまい、指輪が開口部へ。

 やばい、もう一度賢者の石を求められても持っていない。


 それでさっきのやり取りをするのはきつすぎるよ。

 泣いて謝っても許してくれなさそうな口調だし、必殺の土下座も効かないかも。


 だけど目に入ってきたのはエラーの文字。

 これ以上進化しないらしい。


「よ、良かったよーーーーー」


 涙ぐみながら力が抜けその場にへたり込む。

 そんな気の抜けた状態を見越してか、いつもの神様からの通知音が鳴り響いた。


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 番場 秀太

 レベル:45

 HP :575/575

 МP :2955/2955

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:5300〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+250)

 魔 力:400


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver7(New)

     深淵のゴーグル

     往生際の悪いシャツ

     乱費のお守り

 ステータスポイント残り:500


 所持金 500円

 借 金 18,500,000円(▲2,000,000円)

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