第43話 お兄ちゃん 彼女連れてくるってさ ④

「ふざけるなーーーーーー!」


「おおお、まだ元気じゃねえか、ニヒッ」


「ぐええええええええ!」


 憧れた宝蔵院が親父殿だと信じたくなくて、無意識に殴りかかっていた。

 それも簡単に跳ね返されて、壁に激突する寸前でエミリさんに受け止められる。


 親父殿の非道に対して、エミリさんの優しさが余計に心に響きます。


「ううううっ、なんでこんなヤツがあの宝蔵院ハンターなんだよ。俺の、俺の純情を返しやがれえ。借金も倍で返せよぅ」


「シュータさん、そんなに泣かないで」


 背中を撫でられる。そのしっとりとした感触だけが今の俺を癒してくれる。


「んんん、待てよ。Sランクって本物か?」


 Bランクの俺でさえ、らくらく借金を返せているんだ。

 Sランクの稼ぎならそれを優に超えるはずだ。

 何か事実とチグハグな感じがするぞ。


「わ、分かった。名誉職のSなんだ」


 きっとそうだ。ダンジョン世紀初頭からの古株で、世間にある程度貢献していただけ。


 協会も珍しい錬金術師をつなぎ止めるため、形だけでもと高ランクにしたのだろう。


 だから実力はないから稼げない。

 まわりの人もSランクのネームバリューにだまされて、ついお金を貸してしまう。

 本人は遊んでばかりだから返せない。


 つまりSランクに尾ひれがついて、実物とはかけ離れたスーパーミラクルハンター像になったんだ。


 タネが分かればなんてことはない。親父殿はただの張りぼてハンターだったんだ。

 納得ができ少しスッキリすることが出来た。


 エミリさんも自信を取り戻した俺を見て、安心してくれている。

 ギュッと握ってくれている手から、それがじんわりと伝わってくるよ。


「んんん、なんだお前ら付き合ってんのか?」


 親父殿の無神経なこのセリフ。デリカシーの欠片もない。


 俺がどれだけ気をつかい、エミリさんとの距離をつめてきたか。


 ギルマスとメンバーという枠を守りつつ、エミリさんの人生になんとか食い込もうとしてきた努力を、親父殿はたった数秒でぶち壊しやがった。


 今日だけでも何回殺してやろうかと思ったことか。今まさに、あめが下知したしる殺気かな。


「あわわわっ、ち、違いますよ、宝蔵院ハンター。急にいきなりなんですか、藪から棒で突然すぎですよ!」


 うっ、エミリさんにこうも全力で否定されるとへこむ。

 期待した分、腹にズドンとこたえるよ。


「だよなー、こんな泣き虫でヒョロイ男なんて神花には不釣り合いだもんな、ガハハハハハハハハハッ!」


「そ、そんな事ないです!」


「「へっ?」」


「シュータさんは頼りがいがありますし、思慮深く優しくて、それでいてカッコ……あわわわっ、なんでもありません」


 親父殿に振り上げていた拳がゆるむ。


 いま、カッコいいって言おうとした?

 も、もしや本当に春が来たのかも。

 エミリさんが真っ赤になっているんだよ。


 でもこれはどっちなんだ?


『きゃー遂に言ってしまったわ、ポッ』の恥じらいの赤面か。


 それとも『うーわ、マジ最悪ネクラマン。ほら誤解してるのがキショイ。こっち見られただけでじんましんが出てくっわ。なんでこんな目に会わないといけないの、無性に腹が立ってくるわ!』の怒りなのか。


 俺の恋愛スキルで鑑定してみても、経験値不足でレジストされる。

 俺のレベルが低すぎて、てんで話にならないよ。


「そっか、ウチの馬鹿が迷惑かけているって事だな。……うむ、これは迷惑料だ。とってくれ」


 何やらカバンをゴソゴソと探していたかと思ったら、神社のお守りをエミリさんに投げて渡した。


 首をかしげるエミリさんに、確かめろとうながしている。


「えっ、これは! シュータさん見て!」


 ───────────────────

乱費らんぴがお守り』


 死亡確定の攻撃を受けたあと、相手が嫌がるタイミングで生き返る事が可能。効果は一度きり。


 ※本格的な死を迎えるが、復活後に機能障害が出ないよう魔力による補助がある。


 ───────────────────


 うわっ、説明文だけでも性格の悪いアイテムだ。

 だけど親父殿にしては、気の効いたプレゼントだな。

 俺の持っているシャツとは、毛色の違う復活アイテム。


 この効果には結衣が不満の声をあげる。


「いいなー、私も欲しいー」


「ああん、あと2つしかねえんだよ。我慢しな」


 それでも執拗に喰い下がり、ヒルのようにくっついている。

 俺はあの手で何度もたかられている。親父殿もじきに陥落するかもな。

 ならついでを狙って俺もたかってみるか。


「すげえ、これならエミリさんにピッタリだ。こんな良いもの俺にもくれよ(エミリさんとのお揃いにしたいぜ)」


「えっ、シュータさんは持っていないの?」


「あっ、お恥ずかしい。親父殿はビンボーですから、何か人にあげるって稀で」


「だったらこれはシュータさんが使って」


「えええ!」


 変な気を使わせてしまった。

 いくらなんでも人が貰ったアイテムを、欲しいからといって受け取れない。

 親父殿も俺なんかには勿体ないと止めている。


「でも私が貰ったものです。言葉が悪いですが、それをどうしようと良いですよね?」


「むむむむ、しかしだな神花。それは久しぶりの会心作だ」


「だったら尚更なおさらSランクの私より、シュータさんの方がまだまだ危険になる事もあります。その時に後悔したくないんです」


「エ、エミリさん」


 これは断れない。だけど俺も同じくらいエミリさんには無事でいて欲しい。

 嬉しさとジレンマでもだえてしまう。


 親父殿も参ったなと頭をボリボリとかいている。

 エミリさんの純粋な心にされているんだな。


「あー、解った、解った。ホレ、シュータお前にもやるよ。受けとれ」


「えっ、いいのか?」


「あんな目で訴えられたら負けるぜ。それと結衣、お前もだ」


「えっ、マジ? やったー、でもこれはこの前の約束分じゃないからね」


「わーってるよ、しっかりした娘だぜ」


 これは奇跡だよ。

 あの親父殿がおれるだなんて、前代未聞の大珍事だよ。

 それになんだか機嫌が良いし、いつもの親父殿じゃないみたいだ。


「何があったんだよ?」


「がははは、行き詰まっていた錬金術が成功したんだ。色々と精算できたからな」


「へえ~、世界トップの(オマケ)錬金術師なんだから簡単な事だろ。そんな騒ぐほどのことなのかよ?」


「かーっ、これだから物を知らないヤツは困るぜ。いいか、高度な錬金術での成功率は0.0001%もないんだぞ。しかも材料だって豊富にあるわけじゃない。成功率10%を超えるこのオイラだって苦戦してんだよ」


 そこまでとは思わなかった。興味のない分野だったので、気にもとめていなかったからな。


「だがな、やっと成功して出来たのがそのお守りだ。依頼主に100億円で買い取らせてな。もう1つ売ってやろうかと思ったが、お前らで有効に使え」


「ひゃ、100億円? ははっ、安っぽい冗談は笑えないぜ」


 振り向くと結衣が首を振っている。

 まさかと母さんを見るも否定してくれない。


「お父さんのって失敗は多いけど、当たった時のリターンがすごいのよ」


 金額を聞いた途端、なんだかお守りの重みが増した気がする。

 親父殿のバカ笑いもなんだか豪快に思えてきた。


「がははは、そんな大したことじゃねえよ」


「ほんとうなんだ……す、すげえ。じゃあ、肩代わりした借金が返ってくるんだ。ははっ、お、親父殿ありがとう」


「んん、そんなの残ってねえぞ?」


 また変な事を言い出した。

 ごまかして独り占めするつもりだな。

 贅沢な暮らしをしたいとは言わないが、結衣の学費など必要だ。

 親としての務めは果たして貰うぜ。


「さすがに100億すべて使ったとは言わせねぇぞ」


「ねえものはねえ、材料費の支払いやなんやらで、ホレ残ったのはそれだけだ」


 投げてよこした財布には、千円札と小銭だけ。それと領収書の束である。


「がはははは、すっきりこっきりだな。まあ、区切りがついたし、当分は家でのんびりするぜ」


 上げて下げてのこの落差。俺の心をズタボロだよ。


──────────────────

 番場 秀太

 レベル:43

 HP :575/575

 МP :1955/1955

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:5300〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+250)

 魔 力:400


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver4

     深淵のゴーグル

     往生際の悪いシャツ

     乱費のお守り(New!)

 ステータスポイント残り:340


 所持金 500円

 借 金 20,500,000円

 ───────────────────

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る