表舞台とSランク

第40話 お兄ちゃん、彼女連れてくるってさ ①

 エミリさんがぐんぐんと近づいてきている。

 他には誰もいなく、一人で息を切らし全速力だ。


「シュータさん、怪我はない?」


「は、はいーー。お壁ちゃんはどうしたんです?」


「病院を他のハンターと任せてあるわ。それよりもさっきの神の声は、もしかしてここが原因なの?」


 エミリさんの推察力には驚かされた。

 何も情報がないのに察するなんて、Sランクの経験だろうか。


 俺はうなずき、ここで起こったことを全て話した。

 その間に自衛隊員さんには、皆と合流するための準備をお願いした。



「ま、魔人化が隠されていたダンジョンの秘密ですって?」


「ええ、残念ですが、決して人類にとって良いことばかりではないようです」


「そ、そんな」


 こんなにも動揺するエミリさんを初めて見た。

 一瞬考えこみ、皆のほうを見て肩をおとす。


「口止めは……もう遅いようね」


 見ると、自衛隊員さんが本部へ興奮しながら報告をしている。

 エミリさんは頭を抱えたが、他人の口に戸はたてれないわねと諦めたようだ。


「でもこの前のといい、やはり神に意思って難しいわね。あの微妙な違いが鍵よね?」


「あっ、ごめんなさい。前のは聞いてないんですよ」


 そう答えると、何故かエミリさんは眉をひそめて首をかしげた。


「シュータさん、神の声は全人類に聞こえるているはずよ。それを聞いていないって、どういうことなの?」


 しまった、俺はバカだ。

 忘れたって言えばいいのに、言葉選びをまちがえた。


 寝ていても刻み込まれる神の声。

 自らイレギュラーな存在だと宣言しているのと同じだろ。


 感のいいエミリさんの事だ、きっと俺がダンジョンの秘密にたどり着いたと確信しているはずだ。


「神花ハンター、番場ハンター出発しましょー!」


「お、おう、すぐ行くよ」


 準備の出来た自衛隊にんさんに声をかけられ、会話が中断された。


 だけど俺への疑問は残したままだ。


 エミリさんは優しい。

 にっこりと笑い、それ以上聞いてこない。


 でもさ、このままにして良いはずはないよなあ。


「エミリさん!」


「は、はい?」


「すみません。おれ、隠し事をしていました。いま疑問に思われている事を話しますので、明日ウチに来てもらえますか?」


「えっ! えっと、は、はい」


「あ、ありがとうございます。……では明日お待ちしてます」


 これでいい。秘密にしようとしていたけど、エミリさんには話すべきだった。

 きっと母さんや結衣も賛成してくれるさ。




 だけど、すぐに自分の失態に気づいてしまった。


「や、やばい。俺やっちまったよ」


 人に聞かれない場所をと考えて自宅を選んだけど、これってやっぱマズイよな。


 生まれて初めて女の人を自宅に招待したことになる。

 しかも今日は休日だから結衣も家にいる。

 母さんにも出かけろと言ったのに、ニヤニヤしながら断ってきた。


 2人はあいさつをする気で満々だ。


 となると、親にあいさつって意味深いみしんになるんじゃあないのか? あわわわわわわっ! 


「2人ともいい? エミリさんは俺が所属するギルドのトップ。ぜーったいに失礼のないようにしてくれよ!」


「あらあらー、そんな人が将来のお嫁さんなのね?」

「イヒヒヒヒッ。ねえママ、これは吟味しがいがあるよね。とことん追及しちゃおうよ」

「あらあらー、結衣ちゃん楽しそうねえ?」

「ママこそほっぺがゆるゆるだよ。イヒヒヒヒ」


 ダメだこりゃ。何か手をうたないと。


 ──ピンポーン──


「ぎゃーー、もう来た!」


 焦る俺。

 ニヤける母さん。

 走り出す結衣。

 俺は行かせるものかと足を引っ掛ける。


「ぐべっ!」


 バトンタッチでジャンプする母さん。

 鍋が吹きこぼれていると告げる俺。

 母さんはUターンの置き土産に、鼻毛が出ているとささやいてくる。


 笑う結衣にお前もだと逆襲し、間一髪で玄関を制する事ができた。


「い、いま開けますね、ゴクリッ」


 ドアを開けると私服姿のエミリさん。


 黄色インナーに白のレースのカーデガン。

 まるでお花畑から、エミリが顔をだしているような美しさ。

 かわいすぎのまぶしすぎで、マジで目がつぶれそう。


 その感動にしばし言葉を忘れてしまう。


 が、この油断が不味かった。邪魔する悪魔がやってきた。


「わー、きれいなひとー! もうお兄ちゃん、やるじゃないのー」

「あらあらー、いい子ねえ。これで母さんも安心だわ」


「ちょ、ちょっとー2人とも何を言ってるの。さっきも説明しただろ!」


「ちっちっちー、お兄ちゃんネタはあがっているのよ。トボケたって無駄なのよ」


「だから違うって! あっ」


 エミリさんが固まっている。笑顔と驚きの中間の表情で。


 お、終わった。


 こんな家族を見せられて、しかも彼女さん扱いでのお出迎え。

 内心呆れているだろな。いや、それならまだいいよ。


 イキッて家族に自慢したごみ虫だと思われて、道端のゲロのように無視されるんだ。

 ヘタしたら『ギルド辞めてくれるかな?』なんて事もあり得るよ。


 最悪の展開だよぅ。うまくいっていたハンター生活がたった数秒で崩れ去ったんだ。

 いや、上手くだなんて幻想だったかも。

 元々笑われスキルの底辺だ、妄想の中で生きていたに違いない。


 あああ、闇の俺が起きてきた。


「うふっ、うふふふふ。にぎやかなご家族ね」


 何故か奇跡がおきて、エミリさんが笑っている。

 どう返していいか迷っていると、結衣が横からかっさらっていった。


「えへっ、気に入ってもらえて良かったです。さあ中にどうぞ、兄は気がきかないのでぇ」


 靴をまだ揃えていないのに、腕を引っ張られよろめくエミリさん。

 母さんにも背中をおされ抵抗なんかできていない。


 あれよあれよとリビングに連れていかれ、俺はひとり残された。


「俺が呼んだのに……なんでだよ」


 覗くと俺がいないのに、事がどんどん進んでいるよ。

 お土産を受け取って、結衣なんか大興奮しているぞ。


「わー、これって京都で有名なお店のくず餅だあ。すっごいなあ、こっちでは出店してない物ですよね?」


「ええ、今朝ひとっ走りしてきたの」


「あらあらー、これはご丁寧に」


「エミリさんってお菓子だけじゃなくて、服のセンスもかわいいですよね。これってどこのなんですかあ?」


「ううん、これは手編みなのよ」


「えーーー、すっごー。なんでも出来るって完璧じゃん」


「そんな事ないわよー」


 やっぱり置いてけぼりの俺。

 こんなはずじゃなかったのに、何処でミスをしたんだろ、グスン。


 ──────────────────

 番場 秀太

 レベル:43

 HP :575/575

 МP :1955/1955

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:5300〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+250)

 魔 力:400


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver4

     深淵のゴーグル

     往生際の悪いシャツ

 ステータスポイント残り:40


 所持金 500円

 借 金 20,500,000円

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