第39話 モンスター氾濫 ⑤

 そこにいるのはまぎれもなくぺ・ポコ。

 ……の上半身が乗った蛇の胴体だった。


 理解したくない状況に思わず後ずさる。


『質問にさえ答えられないとはな、つくづく劣等民族だな、クククッ』


 見ると上半身は単に乗っかっているだけではない。

 人間と蛇の結合部分が、いまも溶けるように混じりあっている。


 次元の違う生き物同士が、拒否反応を示さずにいる。

 しかも人間の部分が、蛇のサイズに合わすように段々と大きくなっている。


 まさに怪物、人間らしさがどんどんと失くなっていく。

 あえて言うなら魔人とも言うべきか。


『こ、これは! ……おおおおお、神が語りかけてくる。これが融合? ……そしてこれがダンジョンに隠された秘密なのか。あーあーあーーーーーー、す、すばらしい!』


 周りは人はぺ・ポコが何を言っているのか理解できていない。

 しかし経験した俺にはわかる。

 俺とは違うパターンだが、これは神に語りかけられているのだと。


 すると頭の中に知らせの音がひびき、高揚のないアナウンスが流れた。


【♫また一人、ダンジョンに隠された秘密を見つけし者が現れた。その者が更なる追求者となる事を我は望む。ここに着くのもそう遠くはない】


「えっ……もしかして、あの魔人化がダンジョンの秘密?」と、隊員さん。


 この場にいる全員が神の声を聞き、恐怖に支配された。

 それは目の前にいるぺ・ポコが、その人物だと認識できたからだ。


 つまり魔人への変化は、神が認めた現象。

 罰せられるどころか、神はそれを望んでいると告げられたのだ。


『貴様らも神の声を聞いたのだな。俺の偉業に立ち会えたのだ、光栄に思うがいい。あーはははははー』


 喉はまだ治らないが指を折り、いつでもいける用意をしておく。


 と、ぺ・ポコは目の前の空間に釘づけになった。


『なになにー褒美だと? ……ふはっ、これは傑作だ! 神は俺個人を見てやがる。この褒美はそうとしか考えられないぞ』


 体を反らし喜んでいる。

 俺がそうだったように、ぺ・ポコにも欲望を満たす選択が出されたようだ。


 そしてぺ・ポコは楽しそうに話し出す。


『貴様らにも神からの褒美を教えてやろう。クククッ、まず1つ目は〝いますぐ自国民100万人の虐殺〞だ。ふーむ、これには心惹かれるが、自力でやる方が楽しそうだし却下だな』


 大げさに牙をむき、クククッと笑っている。

 異形の怪物にひびる子供たち。

 ぺ・ポコはその反応を見て楽しんでいやがる。自己顕示欲の強い人間だ。


『それともう一つだが……コレは良いぞ。聞いて驚くな。それは〝世界の王になる資格〞だそうだ。クククッ、神はこの俺様により高みへ登れと言ってきておるぞ。これで分かったか、クソで下等なうじ虫どもよ。王の前にひれ伏すがよい!』


 傲慢な態度に隊員たちが拒否反応を示す。


「だ、誰が化け物なんかに! に、人間を舐めるなよ」

「そうだ、お前はモンスター。大人しく殺されろ」


 これに対してぺ・ポコは意外にもわめくことなく聞いている。

 そして無表情で、そうでないと指を振ってきた。


『自分たちのもろさが理解できないようだな、かわいそうに。しかしこれを見たら考えも変わるだろう。いくぞ、超絶魔法【フレアクインテット】』


 ぺ・ポコの頭上に5つの大きな炎が現れた。

 直径2mはある渦巻く炎の玉が、扇状にならび浮かんでいる。


「な、なんだアレは……!」


 超高温をしめす青黒い炎にみんな絶句している。


『これが何かって? クククッ、これはこういう物だ、ホレッ!』


 手を振ると炎の一つが横へとび、近くのビルにぶつかった。

 炎は一気にビルをつつみ、その熱でコンクリートを溶かしていく。

 熱がここまできて肌がヒリヒリと痛い。


「うわーん、こわいよー、たすけてーうわーん」

「あうあう、こ、こんなのないよー!」


 子供たちの泣き声にほくそ笑むぺ・ポコ。

 尻尾をしならせ、皆をもてあそぶように地面へと叩きつけている。

 屈強な隊員さんでも地響にふるえ、ちからなくヘタリこんだ。


『これで誰が王か分かっただろ愚民ども、いや、家畜のみなさん?』


 あの炎の後の脅し文句としたら、その効果は100点満点だ。


 しかし愚かだ。俺に時間を与えすぎて、声が出せるようになった。

 俺はこちらに意識を集めるため大げさにため息をつき前に出た。


「お前はつくづく救われない奴だな。なれもしない王様に憧れてよ」


『なんだと貴様!』


「お前は罪人だ。自由を奪われ、罪を償い、誰にも認められず死んでいくんだ。王様なんかよりよっぽどお似合いだぜ?」


『取り消せ。俺は全てを手に入れ、思い通りに動かし、世界の頂点になるのだぞ!』


 苛立ちをかくさず、尻尾で周囲を壊していく。王という肩書きを見せつけたいようだ。


 激昂していたぺ・ポコだが、ハタと動きを止めた。

 そして穿うがつような視線をむけてくる。そしてニヤリ。


『援軍でも待っているのだな?』


「んっ?」


『べらべらと喋って時間稼ぎをしているようだが、残念な知らせだ。この近くに味方になる生命反応はないぞ。それとも何か、呼べばソイツは飛んでくるのかな?』


 すっげー腹立つ表情。

 俺をザコとしてか見ていない。


「安心しろ、お前の死神はこの俺だ。他の誰にも殺らせない」


『ギャハハハハハハハハッ、Cランク風情が、神に認められたこの王に逆うとはな。後悔と恐怖とを胸に抱いて死んでいけ』


 いやらしい笑いをしているも目はガンぎまり。この後の殺戮に興奮しているようだ。


「ふっ、約束があるんでね、それは聞けない提案だ」


『そう言わずに付き合えよ。一緒にダンジョン攻略をした仲じゃないか』


 炎を一段と大きくさせてきた。どんな仲ならそれほど残酷になれるんだよ。

 ならば容赦はしなくていい。


「逃げた卑怯者のくせに。カモンVer1、リロード。くらえ大阪名物、口でバーン!」


『うっ、や、ら、れたー。こんな、ところでいくなんて、む、無念!』


 ビビクンッと大きく痙攣けいれんをし、地べたにぶっ倒れる名演技。

 いままでで一番の役者だよ。


 それを見て歓喜をあげる自衛隊員さん。

 だが、ペ・ポコはタイミングを計り跳ね起きる。


『残念でしたー、死んでませんでしたー。ぎゃははははははは!』


 おおいかぶさるような下品にわらい、みんなにプレッシャーをかけている。


 だけど初めから演技だと知っている俺からしたら、おおスベりの痛いボケだ。


 それにペ・ポコは人間だった時の性質が抜けていない。

 周りが見えていない愚かなままだ。


「おいおい、そんな調子にのっていて良いのかよ?」


『貴様はーーさっきから何様だ。王が直々にのってやったのだ感謝しろ!』


「……そうじゃない。聞いているのは魔法の制御の事だ。おろそかになって不安定だぞ?」


『へっ?』


 ペ・ポコは俺の言葉で正気にもどり、真上にある炎を見あげ絶句する。

 荒れ狂う炎がもう目の前だ。


 慌てて魔力をこめようとするが時すでに遅く、5つの超高温の炎がそのままぺ・ポコに落下した。


『ぎぃやーーーーーーー、あづい、熱い、あう、ぎゃぎゃぎゃぎゃぐわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』


 5つの炎が競うかのように、ぺ・ポコを焼いていく。

 だがぺ・ポコに炎耐性があるのか、消し炭にならずに耐えている。


『ぎぃやーーーーーーー!』


 ようやく魔力の遮断に成功し、焼き尽くされる前に炎を消した。

 だが皮膚は焼けただれ、息も絶え絶えで動けない。


『こ、こんな……馬鹿な』


「だから言っただろ、お前に勝ち目はないんだよ。だがせめてもの情けだ、選べ。大人しく捕まって罪を償うか、それとも死かを」


 あえぎながらも静かな目で起き上がってきた。

 そして天をあおぎながらつぶやいた。


『お、王は誰にも降らない。自由で気高い存在だ!』


 死ぬ間際とは思えない跳躍力。牙や爪が鋭く伸びてくる。


「分かった……カモンVer4、リロード。ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル、リロード」


『ぐごごっ、じ、ゆ……う』


「ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル、リロード!」


 人間の部分と蛇の部分、共に残さず粉砕した。

 最後に飛んだ肉片をも撃ち潰す。


「バン!」


 そして二度と復活をしてこない事を、レベルアップの通知音で確信できた。

 と、オマケがついてきた。声色をかえた神からの通知だよ。


【♫魔人ペルゴルゴン討伐完了。報酬としてスキルの別枠進化がおこります】


 おおおおおおお、来ました来た来た、ついに来た。

 不謹慎だと思いつつも興奮してしまう。もしかしてと期待していたからマジ嬉しい。


 すぐに内容を見たいけど、人目があるので後にしよう。


 絶対に騒いでしまうから、軽薄なヤツだと思われてしまう。

 いまでも下半身が勝手に動いているが、俺もそこまでバカじゃないぜ。


 こんな俺とは対照的に、子供や大人もまだ恐怖を引きずっている。

 心のケア先決だ。ここはいっちょハデにやってやるか。

 

「ヘイヘイヘーイ。子供たちよー、もう大丈夫だぞ。悪者はこのバン・マンがやっつけたよ、ニカッ!」


「ほ、ほんとーに?」


 泳ぐ瞳に怯えはあるが、俺を信じようとしてくれている。

 これに応えるため、大げさにおどけてみせる。


「ああ、正義の味方は嘘をつかないぜ、ついで踊ってみちゃうんだぜー!」


 アップテンポのリズムでおどると、子供たちは呆気にとられている。き、きまったぜ。


「すっげー、バンバン、かっこいい」

「う、うん、ほんとだね」


 さわやかな笑顔で手をふるのは、これぞヒーローの運命さだめだよ。

 子供たちに夢と安心を与えてこそ、真の英雄と言えるんだ。


 そうそう、決して自分に酔っていない。これは仕方のないことなんだ。

 隊員さんもノッてきてるし、もうひとつギアをあげるかな。


「シュータさーーーーん!」


「ええええええっ、エミリさん?」


 は、恥ずかしい所を見られた。


 調子にのって悦に入っていた時に聞こえる彼女の声はお尻の○○がキュンとなる。


「あはははー、バンバン変なかおー」


 本当は泣きたいけれど、子供たちもやっと笑ってくれたから、これで良しとしよう。うん、うん、……うえーーーーーん。


 ──────────────────

 番場 秀太

 レベル:43

 HP :575/575

 МP :1955/1955

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:5300〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+250)

 魔 力:400


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver4

     深淵のゴーグル

     往生際の悪いシャツ

 ステータスポイント残り:340


 所持金 0円

 借 金 20,500,000円

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