第37話 モンスター氾濫 ③

「それにしても、避難の出来ていない住民が多いですね」


 救った市民に別れを告げた後、俺は少し嘆息する。


「そうね、警報塔が壊されているから仕方ないわ」


 途中何人もの住民と遭遇し、逃げるべき方向だけを教え先を急いだ。

 彼らは後発隊にまかせて、俺らはボスを狙うのみ。それが絶対的な使命だ。


 最初こそ市街地戦に不安はあったが、逆に道路上にしか敵はいないのでやりやすい。


 基本的に遠くへと拡散していくので、こちらへと一直線に向かってくる。

 ダンジョン内みたいに、途中で湧いてこないのも有難いぜ。


「あら、向こうの流れが変よ?」


 大きな敵の群れが2つの方向へ向かっている。


 すかさずお壁ちゃんが地図を確認していると、何か急に慌てはじめた。


「あの方角には市民病院があるであります。それと反対の右には幼稚園が! これはピンチであります、はいー!」


「マ、マジかよ!」


 ゾワリと悪寒がはしる。

 ダンジョンまであと少しなのに、目の前に助けを求める人がいる。


 でも、根本のボス討伐を遅らせれば被害はもっと広がる。

 葛藤かっとうでお壁ちゃんもゲロを吐きそうだ。


だがこの辺りには血の匂いは漂っていない。それは被害にあっていない証拠で、まだ住民は生きているって事だ。


それが俺の口を開かせた。


「なあ、救いに行ってもいいかな?」


 俺の呟きに2人はギョッとしてくる。バカな事を言っている自覚はある。

 マニュアルにもそれはダメだと書いてある。被害が増える悪手だよ。


「でも両方とも、簡単に動けない人たちだ。俺たちが助けなかったら確実に死ぬ。俺には見捨てれないよ」


 最悪ひとりでも行くつもりだ。


だけど何も言わずに動くのは、ふたりを信じていないと言うのも同じ。それだけはしたくない。


だが、2人は大きくうなずいてくれた。この2人と来れて良かったぜ。


「よし、病院はエミリさんとお壁ちゃんに頼むよ。幼稚園はおれひとりで行くぜ」


 これにエミリさんが猛反対してくる。


「ひ、一人ってそれはダメよ!」


「人手がいるのは、救う人数が多い病院だ。その役にうってつけなのも2人だよ。エミリさん、俺を信じてくれ。誰も死なせないし、俺も死なない」


「でも……わ、分かったわ。絶対よ!」


 ぎゅっと手を握られて小さく『信じているわ』と呟かれた。

 握りかえす手を離すのはおしいが、無事を祈ってダッシュした。



 幼稚園に近づくと悲鳴が聞こえてくる。

 見ると園庭にナーガが侵入していて、いまにも子供たちを襲いそうな体勢だ。


「させるかよ、バン、バン、バン、バン!」


 ナーガは断末魔をあげてかき消え、俺はその場に走りよる。


「子供たち、ハンターのお兄たんが来たからもう安心だよ、キランッ!」


 さっきまで泣き叫んでいた子供たち。

 でも俺の颯爽たる登場をみて、今は目を輝かせて驚いている。


「すんげー、わるものをやっつけたよ!」

「うん、カッコイイよね。バン、バンだってさ。あははははっ」


幼い子は現金なものですぐに楽しい事に食いついてくれる。


 足や腰にまとわりつかれ身動きがとれない。子供たちの機嫌がなおって、先生もひと安心の顔だ。


 子供にでもチヤホヤされるのは嬉しいな。……もとい、敵はまだ迫ってきている。

 子供たちを先生に任せ、屋根の上に登らせてもらった。


 見られているので、ヒョイヒョイと軽やかに。


「すんげー、あのおにいたんヒーローだあ」

「がんばれー、バンバーン!」

「やっつけろーーーーーーーーーーー!」


 照れくさくて早く隠れろと促すが、ちっとも言うことを聞いてくれない。

 先生、手を焼かせて勘弁な。


「それよりも大群が来たか。いっちょ派手にいくか。ドゥルルルルルルルルルルルルル、リロード。はぁー、ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル、リロード」


 吹き飛ぶ音が大きくて、それに子供は大興奮。き、きもちいい。

 アクションつきで応援をしてくれて、まるでヒーローショーのノリなんだ。


 しょうがないと俺も手をふる。

 これは少しでも子供たちの恐怖心をとるためで、決して浮かれた気持ちじゃない、ニヒッ。


「うらうらー、悪者はすべてお兄たんがやっつけるぜ、バン、バン、バン、バン!」


 声援のかいもあり見える敵はすべて倒し、一時的に平穏が訪れた。


「ありがとう、ばんばん」

「ぼくもおてつだいするよーーー」


「あははは、はやく建物の中に入りなさい。……んんん、あそこにも人が?」


 と、すぐ近くで逃げ遅れた人を発見した。だが、何か様子が変で逃げる素振りをしていない。


よく見ると、見覚えのある人だ。


「あ、あれはぺ・ポコ!」


 あの奇抜な色合いのローブは間違いない。

 〝逃走犯〞、〝ゲートへの攻撃〞、〝スタンピード〞、全てのワードがつながった。


 だけどテロ犯にしては姿を隠そうともしていない。

 というか心ここにあらずといった雰囲気だ。


 視界内の俺にも気づかず、大きな独り言を言いながらこちらに向かってきた。


「へへへっ、クソの祖国もバカな日本も滅びやがれ。……でも、足らないな。……うー、もっとだ、もっと破滅的な厄災がいるぞ!」


 憎悪で顔をゆがめたり、急に無表情になったりとかなりヤバい状態だ。

 こんなのが幼稚園にきたら、何をしでかすかわからない。

 バン・マンを構えながら警告をする。


「おい、ぺ・ポコ。とまれ、それ以上……」


「バンバン、うしろー、あぶないーー!」

「きた、きたーー、あーーー!」


 子供たちの声を聞き振り返る。

 見るとナーガとバジリスクの集団が迫ってきている。


 判断に迷ったが、ぺ・ポコはひとまず置いてモンスターを殲滅することにした。


 ぺ・ポコは相変わらず大きな声でわめき散らしている。


「そうだ、もっとゲートの魔力を乱せばいいんだ。よーし、見てろよクズどもよ、あーはははははは!」


「ま、待つんだぺ・ポコ。これ以上バカな行為は!」


 モンスターを抑えるので精一杯で、ぺ・ポコを取り逃がしてしまった。

 やり場のない怒りを抱え、うっぷんを晴らすように撃ち続けた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、やっとか!」


 時間にしてわずか10分。


 その間に何百という敵を打ち倒し、途中でレベルも40になっていた。


「おっと限界突破しちゃいけないんだったな、危ない、危ない」


 ちょうどその時に、自衛隊が駆けつけてくれた。


「お疲れ様です、番場ハンター。途中から見ていましたが凄まじい力ですね?」


 率直な感想は嬉しいが、今はぺ・ポコを追うのが先決だ。


 大まかに説明をし、彼らに病院と子供たちを任せる。

 それとエミリさんたちに連絡したかったが、手が離せないのか電話に出てくれない。


「こうなったら俺ひとりで止めるしかないな」


 本物のヒーローに憧れるが、このチャンスは複雑な思いだぜ。





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