第36話 モンスター氾濫 ②

「す、すげえ。これがSランクの、エミリさんの力なんだ」


 自分の持つ大きな力を盾にするだけじゃなく、みんなをひとつにまとめ上げた。

 感動する俺にエミリさんは、振り返って笑いかけてくる。

 強さだけじゃなく、柔らかさも持った天使だよ。


 それと肝心の作戦は、スタンピード発生マニュアルにもとづき行われる。

 まず実行部隊にはSおよびAランクがあたり、B、Cランクは住民避難誘導などが担当となった。


 高ランクから順次ヘリに乗りこんでいく。

 俺も後発隊に合流しようとしたら、エミリさんに呼び止められた。


「シュータさん、お壁ちゃん。私と一緒のヘリに来て。あなたたちの力を借りたいの」


「えっ、向こうで一緒に戦うって事ですか?」


「ええ、貴方たちなら充分に通用するわ。是非ともこの窮地を救って欲しいのよ」


「ま、任せて下さい。イケルよな、お壁ちゃん?」


「はいーー、不肖ながらこの岡部ルナ、全力であたる所存であります。それにこの新装備の見せ処であります」


 お壁ちゃんはスキルレベルを磨き上げて、立派に育っているそうだが、その新装備が双盾ってヘンテコな感じだ。


「防御力重視はいいけど、ちょっとかたよりずぎていないかい?」


「いえ、仕込み刃がありまして、色々と攻撃力不足を補っているであります、はいー」


 ギランと光る盾、エミリさんも頷いている。なんだか心配は無さそうだな。


 自信満々のお壁ちゃんにつられて、ふたりで笑いながら3回ハイタッチ。

 他のギルメンにも迎い入れられ、白銀霊ギルド総勢16人でヘリに乗りこんだ。



 ──現地、陸上自衛隊ベースキャンプC地点


「ギルド白銀霊の主力16名、到着しました」


「はっ、ご協力感謝します。これが市街地、そしてダンジョン内の地図です。ボスは第4層と比較的浅い所におります」


 ダンジョン内は複雑な地形だが、地図さえあれば問題ない。


 ダンジョンを消滅させればスタンピードはおこらない。

 単純なことだが、ボスを倒すのが唯一の対処法だ。


 そのためには早く突入するのが良いのだが、この場所はダンジョンから少し離れている。


 昔は対処法として、ダンジョン近くにベースキャンプをかまえたが、事故が多くやむなく廃止。


 以後、離れた3ヵ所からボスを目指して攻める形をとっていて、今回も同じ手法をとっている。


「みんな準備はいい?」


 確認をすませ、俺らは3つのチームに別れすぐに出発となった。


 Aランクは6人と7人の2チーム。

 それとエミリさん、俺、お壁ちゃんの3人だけのチームだ。


「よーし、暴れっか……んんん、ちびっ子どうかしたのか?」


 各自が気合いをいれているのに、ひとり体育座りをしている。

 声をかけると、オーガの如く睨んできた。


「なんで私だけがのけ者なんですか? シュータ様やお壁ちゃんだけズルいです!」


 あらら、ちびっ子はまだまだ子供だな。自制心が足りてない。

 こうなると理屈が効かなさそう。


「サーヤちゃん、あなたはチームの要でしょ。抜けたらすべて崩れるわ」


「エミリさんの所にもヒーラーは必要ですよね。私なら上手くやりますよ」


「いいえ、この構成なら回復役はいらないわ。それはあなたもよく知っているはずよ」


「うーーーーっ」


 その通りだ。A級モンスターなど敵ではないエミリさん。

 それと完全防御スキルのお壁ちゃんに、近づかれる前にやる俺だ。

 異色の組み合わせだけど安定感はある。


「それにね、私が一番信頼しているのはサーヤちゃんよ。それを他の人に任せろって……うーん、どうしよう。他に誰がいいのかしら?」


「えっ、えっ、えっ。待って下さい。私やりますよ、こっちはちゃんとまとめます!」


「そう? じゃあ、お願いね」


 ちびっ子は膨れっ面からニコニコ顔へ。

 他のメンバーに笑われているが、かわいく威かくで返している。


 そろそろ行こうかとしていると、自衛隊員から悪い知らせを告げられた。


「スタンピードが始まったですって?」


「はい、魔導探知機の反応がありました。お気をつけ下さい」


 一同、目つきが鋭くなる。


「みんな急ぐわよ!」


「「「はい!」」」



 そこからは早い展開だ。メンバー構成の理由で、俺ら3人が先行して進んでいる。


 1kmほど進むとモンスターの群れを発見した。ドデカイ双頭のヘビだ。


「いいわね、基本的には私とシュータさんで仕止めていくわ。お壁ちゃんは外れた敵だけをひきつけて。処理は私たちがするからね」


「はいー、防御には自信がありますので、ごゆっくりー!」


「うふふ、頼もしいわね。じゃあ始めるわよ。【聖剣技防御力アップ】【神速度アップ】!」


 唱える度にエミリさんの身体が光に包まれていく。

 まだ重ねがけできるバフはあるが、長期戦だといって控えているそうだ。


 そしてギルド名にもなっていて、エミリさんの代名詞にもなっているスキル【白銀霊】を発動させた。


 その効果は被ダメージ分を蓄積させ、逆転解放させることで相手に超絶ダメージを与える技。


 と、これだけでも凄いのだが、それとは別に防御面の効果も持っている。


 それは与ダメージの半分をHP回復として吸収する能力だ。


 はっきり言ってチートである。

 攻守にかけて最高峰のスキルだ。


 だがこの万能のスキルにも規制があり、受けるダメージは総HPの半分以下であること。

 そして与えるダメージは前に与えたダメージより上回っていること。


 この2つが条件は絶対らしい。


 それでも。


 ─ズバババババババババババババッ!─


 この上ない能力で、次々と倒していっている。

 その姿はとても優雅で見惚れてしまう。

 目が合うとテヘッと笑ってくれるし、見ていて幸せな気分になるぜ。


 俺も天使に負けていられない。


「カモン、Ver4! ドゥルルルルルルルルルルルルルルル!」


 まだうしろの一団を狙い、一気に倒していく。


「きゃー、シュータさんカッコイイ!」


 満面の笑みのふたりからサムズアップ。

 特にエミリさんの声援が嬉しくて、ついおどけてしまう。


「私もお師匠さんに負けないであります。いきます、ドカント・ウォール!」


 わき道にそれた敵の進路上に、スキルを出してぶち当てた。

 突然現れた壁に無防備に突っ込み、半数以上がグロッキー。

 それでもヘイトがあるので、ふらつきながらお壁ちゃんに向かっていく。


「ナイス、お壁ちゃん!」


 タワーシールドでさばく敵を、俺とエミリさんとで討ち取っていく。


 やがて見える敵はすべてたおした。


「2人ともすごいわ。初めてにしては上手く連携がとれたわね」


「いやーエミリさんがいてくれるからですよ」


「はいー、確かにそうであります。ですが師匠の安定感には脱帽であります。時たま銃の映像が手元に見える事がありますです、はいー!」


「えええ、お壁ちゃんにもあの銃が見えるの?」


「はいー、師匠は最強ですからーーー」


「ははは、お世辞はやめてくれよ」


 敵の数は多いが、市街地のため掃討しやすい。

 建物に潜んでいることもない。


 これなら思っていたより楽にいけそうだ。

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