第35話 モンスター氾濫 ①
あれから数日後、結衣の部屋。
いま俺は結衣とミーティング中だ。
「それにしてもお兄ちゃん、幸運の指輪の効果ってすごいよね?」
結衣は指輪ちゃんをかかげ、うっとりしながら感心している。
これまでの成果として、もう1つ準・賢者の石を手に入れたた。
この数ヶ月で俺は3つも手に入れているが、これは確率的にありえない事だ。
それだけでなく、実は装備もひとつ手に入れているんだ。
絶対に指輪のおかげ、幸運の指輪ちゃん様様だ。
───────────────────
『往生際の悪いシャツ』
防御力は皆無だが、HPがゼロになる攻撃をうけても、必ず〝HP1〞だけ残す〝
リキャストタイム:30日
───────────────────
性能が凄すぎる。悪足掻きは防御力のない俺にピッタリだ。
今まではステ振りで悩んでいたんだ。
下手に防御力を求めてしまうと、素早さや魔力を犠牲になり、俺の特性が台無しになる。
かといって死ぬのは怖いから、耐久を切り捨てるっていうのも出来なかった。
だけどこれで悩みは解決だ。
なので耐久度はとうぶん上げないでおく事にした。
と、順風満帆。怖いくらいに追い風なのだけど結衣の顔が暗くなる。
「肝心の錬金術コーナーに出会えないのよねえ」
うん、そうなんだ、その気配すらない。
いつ遭遇してもいいように、魔石だって必要数の倍は持ち歩いている。
それに神様の機嫌をそこねないよう、いい子にもしているんだ。
ちゃんと右側通行だって守るし、ダンジョンに入る前には一礼してから入っている。
なのに、まるでダメ。
いくつものダンジョンを踏破したが、成果はなくついにレベルが39になってしまった。
「お兄ちゃん、一旦ここで精算しよっか?」
「せっかくの準・賢者の石がーーーっ、ぐやじいー!」
「うわっ、お兄ちゃん……ぶっさいく」
結衣は無情にも鏡を見ろと手渡してくる。
「なんだよー、優しくしてくれてもいいじゃないかー」
「それはいいから、早くアイテム出してよね」
頭をぽんぽんして貰いたかったのに、なんて冷たい妹だ。
頭を突き出しても無視される。
むしるように全てを取られるし、本当に泣きたくなってきた。
──ピロンピピン、ピロンピピン、ピロンピピン──
「むむむ、緊急アラート?」
急いでスマホを見てみると、そこにはハンター専用の通知メールが入っていた。
【緊急事態発生。東京都○○市のA級ダンジョンにおいて、監視防衛システムが攻撃にあいました。スタンピードの予兆あり。範囲内にいるハンターは、ダンジョン協会に集合せよ。─ハンター契約第41条により、これは強制徴集である】
「A級のスタンピードって、国家レベルでの災害じゃないか!」
ショックでスマホを落としてしまった。
俺の言葉に結衣も驚き、顔面蒼白になっている。
ダンジョンという限られた空間だからこそ、人類はモンスターと対抗できる。
だがそれが外で自由に暴れたら、手がつけられない。
特にA級は国が滅ぶ危険があるため、その事故を防ぐセキュリティが何重にも張り巡らされている。
なのに、それがナゼか全て破られた。事態は決して軽くない。
「結衣、お兄たんはいくよ、母さんとふたりで避難しろ!」
「待ってお兄ちゃん、回復アイテム忘れているよ」
「えっ、それは売る物じゃあ?」
「バカお兄、命の方が大事でしょ!」
口をキッと結んで、アイテム群を渡してきた。その手は震えている。
「それとレベル40になっても、タイミングを考えて限界突破してよ?」
そう言われたけどその真意が分からない。
口ごもる俺に泣き笑いで言ってくる。
「もう、その時点で回復アイテムも失くなるんでしょ。しっかりしてよ!」
そうだった、結衣に言われなければ危うくやっちまう所だったよ。
気合い注入のパンチをもらい、俺は全速力で駆け出した。
既にダンジョン協会前には沢山の人だかり、報道陣もいっぱいだ。
中に入ると、大人数を収容できる練習場に案内された。
「あっ、シュータさん、こっちよ」
中央の方でエミリさんが手招きをしている。
人混みをぬっていくと、200名以上の白銀霊ギルドメンバーが集まっていた。
「おつかれさまです、えらく人多いですね?」
「ええ、Cランク以上のハンターは集められているからね。だけどそれでも人手は足りないわ」
エミリさんは他のギルドを一瞥する。
見えるだけでも、俺がからまれた爆炎獅子や、チョップーズにフェアリーマジックなど大手ギルドは勢ぞろいだ。
それとSランクハンターも一人いた。
うちに次ぐ大人数の大日本英雄帝国会。
そこのギルドマスター、
むこうもこちらに気づき、エミリさんと会釈をしている。
各自が情報収集をしているなか、やけにうるさい人がいた。
「やっと集まったのか。これだから民間人は。……分かっておるわ。従わせればいいのだろ、ふん!」
その声の主である軍服姿の一団が入ってきた。
そして壇上にあがり、静まるよう言ってきた。
「私は陸上自衛隊、陸将補の岡部だ。今この時より君ら全員を我が指揮下に組み入れる。それによりこの難局を乗り越えるものとする」
「り、陸将補殿、そのような言い方は……」
「細かいことを。国の緊急事態だぞ!」
陸将補がうしろのスーツ姿の人間と揉めている。
その統一感のなさもそうだが、言っている内容にハンターはみな眉をしかめている。
「おい、おっさん、俺たちはハンターだぞ。その意味をわかって言ってるのか?」
誰が言ったかは知らないが、反抗するその声にみんな同調をしている。
ハンターはその活躍により制限をかけられない自由な身。
契約上や国際法でも、国家権力に組み入れられる事はない。
だからこの宣言には多くの者が反発をしているんだ。
「ええーい、結束が必要ないま、お前たちのみで乗り越えれるものか。軍が率いてやるのだ、ありがたく思え!」
空いた口がふさがらない。もちろんハンターたちは怒号でかえす。
中には獲物に手をかける者もいるし、いつぞやの協会本部長さんも鬼の形相だ。
とはいえハンターには義務があり、さすがに退出する者はいない。
だから余計にヒートアップをし、収容がつかない状態なんだ。
が、その中でひとり手をあげ注目を集める人がいた。エミリさんだ。
Sランクの一人にして、国内最高レベルの彼女の行動にみんな
陸将補はこの静けさの原因だと理解でき、何かと
エミリさんは咳払いをひとつ。
皆は沈黙をつづけ見守る。
「Sランクハンターの神花です。先ほど軍部からの提案なのですが、あまりにも横暴で受け入れがたいものだと判断致します」
「な、なんだと女!」
「それに我らが良くても、軍事力として使い潰された者たちの魂が受け入れてくれないでしょうね」
「ふ、古い話を持ち出すな。お前のような考えが国を滅ぼすのだ」
「いいえ、身内に起きた悲劇は簡単には消えません。それとも陸将補殿にとっては、とるに足らない出来事でしたでしょうか?」
「減らず口をたたきおって。お、おい、あの女を捕縛しろ!」
将補は血走り唾をとばす。
うしろに控えている隊員は、将補の言葉に
いくら精鋭であろうが、Sランクにかなうはずがない。
その戸惑いをみて余計に激昂する将補だが、当の本人であるエミリさんは静かに状況を見守っている。
そして、相手が動かないとみて、今度はハンターにむけて語りだした。
「だが、ここにいる全員は故郷を大切に思うものばかり。そして臆病者でないし、ましてやモンスターの氾濫を見過ごす者などひとりもいない」
見える者すべてが
中にはスタンピードへの怒りで震える者もいる。
「ならば、する事は
「「「おう!!」」」
メンバーはタイミングを合わせて、ダンッと一歩前に出る。
その地響きの迫力で心も震えてくる。
それに傘下としてでなく、あくまで協力者として対等だと念をおしている。
命令を降したい軍部と真っ向から立ち向かう形だ。
将補が戸惑っていると、その隙をみて他のギルドものって来た。
「大日本英雄帝国会も右に同じだ!」
「フェアリーマジックも協力するわ」
「チョップーズを忘れるなよ」
我も我もと名乗りをあげて、全員の意思はかたまった。
「さあ将補殿、この提案を受け入れますか?」
真っ赤になる陸将補にスーツ組が耳打ちをする。
すると陸将補は一段と赤くなって震えたが、深呼吸をしてうなずいた。
「ふぅーーーーー、ああ……受け入れる。よ、用意したヘリで現地へ向かうがいい」
この譲歩を機に、協会本部長さんは共同の記者会見の段取りをつける。
そしてこのあとの事はスムーズに進められていった。
──────────────────
番場 秀太
レベル:39
HP :575/575
МP :1955/1955
スキル:バン・マンVer4
〈攻撃威力:5300〉
筋 力:50
耐 久:120
敏 捷:150(+250)
魔 力:400
装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2
保安官バッジ
幸運の指輪・Ver4
深淵のゴーグル
往生際の悪いシャツ
ステータスポイント残り:60
所持金 500円
借 金 20,500,000円(▲8,000,000円)
───────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます