第34話 お一人様用、錬金術コーナー ⑤
「あと装備が良いものがあったら、買いなさいね」
「おう」
話の区切りはついたんだけど、相談したいことが1つある。
だけど賛成してくれるか心配だし、ちょっと踏ん切りをつけるには勇気がいるよ。
「お兄ちゃんどうしたの。モジモジしちゃってさ」
むはっ、見抜かれていた。
せっかく促されたのだからと、勇気を出して話してみた。
「あのさ、この指輪のことを、ギルメンに話しちゃいけないかな?」
「ん? うーーーーーーん」
結衣はこめかみに指を当て、目をつぶって考え込んだ。
普段あまりしないこの仕草に緊張させられる。
「ギルドのみんなに指輪を使わせて、装備を強化したいって事よね?」
「うん、ダ、ダメ?」
まばたきをしないでじっと見られる。
目をそらすのも変だけど、何が正解かわからず直立不動だ。
「まっ、いいんじゃない(貸しが作れるしね)」
「あ、ありがとう」
ケケケと笑う結衣の笑顔が、まるで女神のようだ。いや、菩薩のような神々しさだ。
お兄たんは結衣の魅力を再発見できてうれしいよ。
次の朝、ちょうどエミリさんとちびっ子に出会ったので、昨日のこと話してみた。
「えっ、シュータ様、あの都市伝説的な錬金術コーナーのことですよね?」
「そうでもないんだよ。その証拠に装備を見てくれよ」
驚く顔に優越感を感じつつ、装備品を見てもらった。
が、ここで大きなミスを犯した事にきづく。
俺のプレートを触れながらでないと詳細をみれないので、ふたりとの距離が近いんだ。
内容に驚くあまり覗きこんでくるし、
「す、凄いわ。これがあればみんな強くなれるのね!」
「え、ええ、そのつもりで話しました」
気もそぞろで落ち着かない。
「「きゃーーーーーーーーーーーー!!」」
両サイドから抱きつかれ更に追い討ち。嬉しさよりも困惑する気持ちが
特に右がいい匂いで、手を回せば抱擁するチャンスが巡ってきているんだ。
だけど上げた腕が下ろせない。ヘタレな俺が邪魔をする。
たった20cmで神域なのに、その神々しさに押し負けている。
だけど俺は元々バカな人間なんだから、あれこれ考えずに欲望のまま行動してもいいんじゃないか?
うんうん、闇の俺もそう言ってきているよ。
よ、よし、やってやる。このゴッドハンドで神の領域を突破だ。
「シュータさん、それはいつから使えるの?」
いつのまにやら2人は離れていて、指輪の話をして盛り上がっていた。
一世一代の大決断をしたのに、せっかくのチャンスをフイにしてしまった。
なんたる失態、息ができないほど後悔の念が押し寄せてきた。
や、闇の、あいつが、やってくる、グフッ。
「シュ、シュータさん大丈夫?」
でも天使の笑顔が俺を引き戻してくれる。
危うく闇の中にどっぷりとはまるところだったぜ。
「は、はい、なんでもありません。ですが2つ課題があるんです。1つはこの指輪が完成していないこと。そしてもう1つはこれを扱うハンターが最低でもC級、できればB級をソロ攻略する必要があるんです」
「そうなると、かなりメンバーが限定されるわね」
ひとまず2人には先行の報告だと伝え、指輪の完成を楽しみにしてもらうことにした。
「本当にシュータさんには助けられてばかりね」
「そうですよ、シュータ様はうちのギルドの英雄ですよ」
お世辞でも嬉しいが、2人の目は真剣だ。
照れくさくなりちびっ子のほっぺをつまんでおいた。
笑い合い力も抜けたのだけど、エミリさんが声のトーンを変えてきた。
「あのぅ2人とも、ペ・ポコのことは覚えている?」
ちびっ子と見合わせうなずく。
「まだ捕まったとは聞いていませんね」
「ええ、協会も打つ手なしみたい。だから2人には気をつけてもらいたいのよ」
この報告には驚かされた。
この現代では防犯カメラなどは完備されていて、逃げ切ることは到底不可能だ。
他人の手引きがあったとしても、潜伏するのは難しい。
そう考えている俺を見て、エミリさんが付け足した。
「逃亡犯は5つのスキル持ちなのよ」
「へっ?」
複数のスキル持ちは珍しくはないが、5つともなると世界に数人だ。
そんな才能あふれる者が犯罪に手を染め、追われる身になるとは人生は残酷なものだな。
「2つのスキルは知ってのとおり、ドロップ率と黒魔法ね。その他には毒耐性よ」
やはりハンターとしての素質は凄い。誰もがうらやむ内容だ。
が、あとの2つがよろしくない。聞かされて納得がいった。
「あとふたつは〝変身〞。それと〝親友作成〞という1人にしか効かないけど、精神操作系を持っているのよ」
「なるほど、だから逃げ続けられるのか」
知り合いに化けられたら厄介だと心配したが、その点は大丈夫だそうだ。
声や仕草まで真似できなくて、別人になる目的にしか使えないようだ。
とはいっても、俺らがやれることは少ない。
それにこちらが目的だとも決まっていないし、いつ何処から来るかも分からない。
唯一の対抗策としたら、強くなる事くらいだな。
ならば、やらなくてはいけないことが山積みだ。
2人とは別れて、錬金術コーナーに出会うべくダンジョン攻略を開始した。
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