第33話 お一人様用、錬金術コーナー ④

 天才的なひらめきに我ながら満足だ。


 壁をぶっ壊せば、中のものは出てくる。

 もし警報が鳴ったとしても、ちゃんと説明すればわかってくれるさ。


「よし、いくぜ。ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル、リロード!」


 いったん止めて確認をしてみる。

 外側のタイルが砕けたけど、シャッターまでには届いていない。


「MPは余っているんだ。とことん派手にいってやるぜ。ドゥルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル、リロード。ドゥルルルルルルルルルル……」


 撃っても撃っても岩肌ばかりだ。


 こちらも意地になってきて、一点に集中して撃ち続ける。

 喉の渇きなどかまっていられない。俺の全てがかかっているんだ。


 だけど撃ちつづけると、ついにはMPも尽きてきてしまった。


 瓦礫がれきの山と砂ぼこりに、視界は遮られている。


 しかし手応えはあった。壁は貫通できている。


 いまだに晴れない砂ぼこりを払いのけ、喜びながら中に入る。


 しかし、4畳の狭い場所ではなく、むちゃくちゃでかい広間にでた。


 見回しても錬金術コーナーの機械はない。

 想定していない状況にぼうぜんとなった。


「なんでだよ、ちゃんとぶっ壊したじゃないか。いったい何が間違っているんだよ?」


 何か手がかりはないかと探していると、向こうの方に3匹のハイオーガが肩を寄せ合い、こちらを見ているのを確認した。


「おい、ここにある錬金術コーナーはどこだよ?」


『なんたる野蛮な人間だ。貴様は入り口もわからぬのか!』


「うっせー、それよりコーナーだよ、コーナー! この壁の中に部屋があっただろうが?」


 指さす壁を見るハイオーガたちが、何か納得して大笑いをしてきた。


『ガハハハハ、兄貴あいつアホだぜ。あんな薄いところに部屋だってさ』

『人間は下等だが、こいつはその中でもとびっきりだな』

『これで分かったろ。あとは大人しく俺らに殺されろ』


 役に立たない答えが返ってきた。

 隠しているのかともう一度と質問するが、本当に知らないようだ。


「だったら、お前らに用はない。リロード、ドゥルルルルルルルルルルルルルルル!」


 怒りと悲しみをこめ、全ての弾を撃ちつくす。


 コロンと3つの魔石のほかに、琥珀色した準・賢者の石がころがった。

 さっき必要だったのに、今さらかよと愚痴る。


「いや……まさか!」


 これは神の啓示かと思い外にでるが、やはりガラスの扉はどこにもなかった。

 その後、再び現れないかと長い時間、ここで一人待ち続けたよ。



 で、そのあとの記憶は定かではない。


 気がつくと自宅で、結衣の膝の上で大泣きをしていた。

 温かい太ももである。


「うわーん、本当に本当にあったんだ。夢じゃないのに、夢みたいに消えちゃってさ。俺ーもうなんだか分かんないよ」


「はいはい、分かりましたよー」


 背中をさすられ、少し落ちついてきた。


 床には大きな魔石が3つと、準・賢者の石が転がっている。

 どうやら、何処にも寄らずに帰ってきたみたいだ。


 俺が我にかえったのを確認した結衣は、タブレットを片手にイタズラっぽく笑ってくる。


「お兄ちゃんは、とても珍しい体験をしたみたいだよ。ほら、これを見て」


〈世界で3例しかない錬金術コーナーの目撃談〉


 そこには俺が体験したそのものが書いてあった。

 しかも画像まであって、嘘じゃないと証明されている。


 信じてくれた結衣にジーンとくる。

 それに結衣は目を細め、指で近づくように合図してきた。


「でね、3人に共通している事があるの。それはお兄ちゃんにも当てはまるのよ」


 3本指をだし、その説明を始めてくれた。


 まずは看板にもあったけど、ソロでダンジョンを攻略している事。


 次に当てはまるのは、C級以上のダンジョンであること。


「それと3つ目は、みんな『幸運の指輪』を装備していたのよ」


「偶然じゃないのか?」


「いいえ、特に指輪は重要だと睨んでいるわ。他のハンターは可能性ゼロだけど、ごくわずかだけどこの指輪が、コーナーとの遭遇率を上げてくれるのよ」


 結衣の言うとおりかもしれない。

 世界には何千万人というハンターがいる。

 だが、この30年間で遭遇したのはたったの4回だ。

 いかに条件が厳しいかが想像できるよ。


 だが、これで逆にスッキリとした。

 これを知らなかったら、いつまでも探し続けて変な方向にいくところだったよ。


 すっぱりと諦めて、借金返済に集中だ。


「うふふ、諦めるのは早いんじゃない?」


 気持ちの切り替えをしていると、ここからがもっと重要な事だと念をおされた。


「だってお兄ちゃんは、その指輪を3回も進化させたんでしょ? 幸運度はかなり上がっているはずよ」


「ほえっ?」


 他の3人が進化できたのは、それぞれひとつだけ。

 幸運の指輪はしていないそうだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお。じゃあ、俺にもまたチャンスが!」


 信じられない話だが、結衣がいうと妙に説得力がある。

 うちの軍師に間違いはない。


「それじゃあ、これからの具体的な計画を言うわよ……クンクン、あら、良い匂い」


 これからっていう時に、台所から母さんの声がする。


「晩ご飯ができたわよー、はやく来なさーい」


「はーい、いま行くわー」


「ちょっと、今後のプランは?」


「ダメダメー、好物のマーボー豆腐なんだから、それは後」


「あうあうあう」


 2人とマーボーには勝てないと、潔く食事をすることにした。

 そして至福の時を堪能し、いまはソファーでくつろぎ中だ。


「それでね、お兄ちゃん。指輪の事なんだけど……」


「ふぇっ? 指輪ってなんの事?」


 結衣に〝オマエナニイッテンダヨ〞との顔をされ、どこから出したのかしゃくで横っ面をはたかれた。


「どう、これで思い出した?」


「は、はい」


 と、結衣はいつの間にかコスプレで大変身。お坊さんの格好になっている。

 つるつる頭でもかわいいな。


 そんな事を考えていたら、また笏で叩かれた。このお坊さんは厳しい。


「集中しなさい!」


 そのまま床に正座させられ、結衣の計画を聞くはめになった。


「借金返済を一時的に中断?」


「うん、来月分まで払ってあるし、魔石をためてもいいわよ」


 指輪の性能アップを信じて、いつ錬金術コーナーと遭遇してもいいように、準・賢者の石などの素材を持ち歩くよう言われた。


「おおお、ガンベルトの新たな能力が楽しみだぜ」


「違うわよ、カーーーーツ!」


 ギシッとめり込む痛さに悶絶。

 のたうち回る俺をよそに、指輪をグイッと突き出してきた。


「最優先であげるのはコレよ!」


「へっ?」


 さすがにこの案には反対だ。

 結衣は能力アップの恩恵が、いかに凄いかをわかっていない。

 現場のことは現場に任せるのが一番だ。幼い結衣にまだ早かったかな。


「バカねー、運をあげて錬金術コーナーと遭遇する確率をあげれば、いつでも装備を強くできるのよ?」


「あっ……き、気づかなかった」


 目からウロコだよ。

 無駄に年をくった俺を追いこし、妹はどんどんと成長している。

 そんな聡明な妹にはいつも助けられる。

 この子がいなかったら、全てのチャンスを不意にしていただろう。


「お、お兄たんはうれしいよ!」


「キャッ!」


 嬉しさのあまり結衣に抱きつこうとしたら、今度はみぞおちを突かれた。息ができずに、体を折る。


「もうお兄ちゃんったら、調子のり過ぎよ」


 体の芯にこたえる痛みだけど、結衣のおかげで目標ができた。

 明日から魔石をため込むぜ。


「それと、レベル40には気をつけてね。その前にいったん全部売り払うからね」


「はい、和尚さま」


 前みたいなバカな事になりたくない。

 和尚の言葉をしっかりと心にきざんだ。


 ──────────────────

 番場 秀太

 レベル:35

 HP :575/575

 МP :1205/1205

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3500〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+250)

 魔 力:250


 装 備 早撃ちのガンベルト・Ver2

     保安官バッジ

     幸運の指輪・Ver4(New!)

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:50


 所持金 500円

 借 金 28,500,000円

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