第28話 昇格事前クエスト ⑤

 次の日、俺はちびっ子と一緒に協会の応接室にいた。

 向かいには本部長が座り頭をさげている。


「番場ハンター、薬師寺ハンター、誠に申し訳ない。こちらの調査不足だった」


「2人とも無事ですし、頭あげてください」


「バグアップは全国的に多くなっている。これは明らかにうちのミスだ」


 ダンジョンの突然変異だなんて不測の事態だし、誰かに責任があるわけでもない。

 それなのに本部長は平謝りをしてくる。

 ちびっ子と2人で困ってしまい、なんとか他の話題に変えようとする。


「そう言えば、あのぺ・ポコはどうなりましたか?」


「そ、それが……逃げられたのだ。重ね重ね本当にすまないーーーーー!」


 想定外の返答に焦ってしまい、思わず聞き直してしまった。


「あの厳重な警備をかいくぐったんですか?」


「すまないーーーーーーーーーー!」


 話を聞いてみると、ぺ・ポコはとんでもないことしたそうだ。


 あの後だいぶしてから、ぺ・ポコはゲートから出てきた。

 抵抗を予測していたが、ぺ・ポコは意気消沈し同行を求めると素直に応じた。

 それでもこちらは気をゆるめずにいたのだが、突如ゲートで爆発音がおこる。


 決して油断はしていなかったが、ぺ・ポコが兵士と距離をとるには充分な時間であった。


 しかもそのまま逃げるのではなく、ゲートに向かって炎魔法を連発させてきたそうだ。


「そ、そんな事をしたらスタンピードが起こるじゃないですか!」


「ああ、現場は大混乱だ。兵士たちは捕獲よりも、身をていしてヤツの攻撃を防ぐのを優先したのだよ」


「くっ、卑劣な」


 炎に向かって自ら当たりにいく。


 兵士がそんな無謀な事をしたのは、スタンピードの被害の恐ろしさを知っているからだ。

 それを利用したぺ・ポコの行動に唖然となる。


「すぐダンジョンは消滅してくれたから、大事にはいたらなかったが、結果的にぺ・ポコを取り逃すはめになってしまったのだよ、すまない」


 本部長はケジメとして謝罪してきている。


 これを2人で受け入れ、ちびっ子が次の話に移した。


「シュータ様も私も気にしていませんので、もういいですよ。それよりも報酬の方をお願いします」


「そ、そうだな。おーい」


 合図をすると、脇に控えていた受け付嬢さんの佐々木さんがトレーを差し出してきた。


 Aランクを表すゴールドプレートがあり、ちびっ子に渡された。

 その他には600万円ずつの報酬を渡された。


「番場ハンターにはまだシルバープレートをお渡しは出来ませんが、レベル40になられた時点で、すみやかに手続きを済ませますのでご安心を」


 本来、高レベル帯のランクアップは、レベルの壁を越えてから与えられるはず。

 上に行くほどステータスの差は大きくなるので、スキルやテクニックだけでは難しい。


 これは当たり前のことだが、本部長はそれを忘れて資格のない俺に、早くも約束してしまっている。

 おっちょこちょいにもほどがあるので、軽く指摘をしておくことにした。


「本部長、レベル41の間違いですよ。勘違いされましたね、あはははは」


「いえ、合っておりますぞ。番場ハンターの実力なら、今の時点でもお渡ししても良いと思いますが、如何いかがですかな?」


「いやいや、おれまだ34ですよ。それでBランクになったら、周りのヤッカミやらで大変な事になりますよ」


「はい、だから40まで待つのです」


「へっ?」


 意図することは理解できる。

 だがその評価が俺にかと疑問におもい、横のちびっ子に助けを求める。

 するとちびっ子は、スッと俺の膝に手をおき微笑んできた。


「誇っていいと思いますよ。シュータ様はそれだけの事を成し遂げています。逆にもっとあっても良い位ですわ」


 おちゃらけていない真面目な眼差し。

 照れくさくて、頭をポリポリとかいてしまう。

 佐々木さんをみても同じような表情だ。

 俺は解ったと首を傾ける。


「じゃあ、それで頼むよ」




 家に帰えると現金を結衣に渡し、自分の部屋にこもる。

 エミリさんとの楽しいおしゃべりの時間だ。


 ツーコールもしない内に出てくれた。


「あ、こんばんにゃー、シュータですにゃー」


「こんばんは。まだ外なので、普通に話させてもらいますね」


「すいませんにゃ。……あっ、スミマセン」


 しまった、タイミングが悪かった。


 エミリさんの猫好きがきっかけで、始まった2人の間だけのお遊び。

 素に戻ると気恥ずかしい。


「今日は全ギルドマスターが集まる政府との定例会でしたね?」


「はい、それで今日のダンジョンは如何でした?」


 休憩中みたいなので、今日の事を手短に伝えた。


「えっ、バグアップ! シュータさんお怪我は?」


「かすり傷1つありません。それにちびっ子も一緒だし心配はいりませんよ」


「はあー、良かったー。心臓が止まりそうだったわ」


「大げさですよ、ハハハ」


「ううん、シュータさんは大事な人よ。何かがあったらと思うと……」


「えっ、大事な人?」


「あっ!」


 汗がでる。


 長い沈黙。


 ひとつのワードに焦り頭が働かない。


「あ、あの俺、Bランク確約をもらいました」


 なんとか話を絞り出せれた。

 向こうからも、安堵の吐息が聞こえてくる。

 そして、弾けるような声が届いた。


「きゃー、おめでとう。そうだわ、シュータさん。2人でお祝いの食事をしませんか?」


「は、は、は、は、はいにゃ」


「じゃ、じゃあ、あした7時にね」


 電話をきった後も、余韻でエミリさんの声が響いている。

 デートの誘いに戸惑い、幸せでどうにかなってしまいそうだ。


 ──────────────────

 番場 秀太

 レベル:34

 HP :575/575

 МP :1055/1055

 スキル:バン・マンVer4


 〈攻撃威力:3140〉


 筋 力:50

 耐 久:120

 敏 捷:150(+50)

 魔 力:220


 装 備 早撃ちのガンベルト

     保安官バッジ

     幸運の指輪

     深淵のゴーグル

 ステータスポイント残り:40


 所持金 55,500円(お小遣いをねだりました)

 借 金 28,500,000円(▲5,420,000円)

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