第29話 ギルメンのつながり

 結衣に頼み込んで、5万円の軍資金は用意した。

 向こう一年間はお小遣いなしの約束をさせられたが、それに見合う価値はある。


 それを活かすため、準備に一日をついやした。


 そして、いま待ち合わせ場所に立っている。

 30分前は少し早いかと思ったけど、エミリさんもじきに驚いた顔をしてやって来た。


「シュータさん、随分と個性的な服ね」


「ははは、普段着でお恥ずかしい」


 午前中に服屋に駆け込み、店員さんに見繕ってもらった上下だ。

 青を基調として、ラメとスパンコールがあしらってあり、かなりイケていると勧められたんだ。


 エミリさんは、俺の格好良さに言葉も出ないようだ。


「エミリさんこそ、春色の素敵なワンピースですね。まさに天使のようですよ」


「は、恥ずかしいです」


 きらめく服の力か、スムーズにセリフが出てくるし、一晩考えたポーズもうまくキマったぜ。


 釘付けの視線を感じながら、すかさず店までエスコートをする。

 とは言っても、店はエミリさんが予約を取ってくれた所。


 着いてみると、そのおしゃれな店構えに思わず声を漏らしてしまった。

 店内は落ち着いた照明で、大人が通う店といった感じだ。


「うふ、喜んでもらえて嬉しいわ。ここはお料理も美味しいのよ」


「それは楽しみですね」


 こんな場所など俺の人生には縁がなかった。

 少し緊張してふわつきながらだが、案内された窓側の席につく。

 きれいな眺めに2人で微笑ほほえみあう。


 最高のシチュエーションだ。


 ただ、焦ってはいけないと自分に言い聞かせる。

 闇の俺を暴走をさせず、いつも電話で話していたノリで、楽しませるのだと。


 深く息を吸い、緊張をほぐすため店内を見回すと、隣の席の女性2人と目があった。


 1人は直立して敬礼をしてくる。

 そしてもう片方は、ピンクヘアーの猫耳だ。


「ぶはっ! お壁ちゃんにちびっ子か?」


「はいー、お師匠さんお久しぶりであります!」


 最悪のタイミングの最悪の場所で、最悪の2人に出会ってしまった。

 ニヤニヤしているお壁ちゃん、ブスっとしかめっ面のちびっ子だ。

 ろくな事になるはずがない。


「お、お前ら、なんでここに?」


「はいー、2人ともランクアップのお祝いであります!」


 ちびっ子を見ると、いぶかしがった目をしている。

 万引きGメンのような迫力だ。


「エミリさん聞きたいんですが、予定があるってシュータ様とのデートだったんですね?」


「ち、違うわよ! サーヤちゃんのお祝いは別がいいかとズラしただけなの。本当にそれだけ、他意はないわ」


 標的にされたエミリさんは、シドロモドロと崩れていく。

 だがGメンは追求の手を緩めない。


「怪しいー、それに普段と全然格好が違うじゃないですか。気合が入っているのが見え見えですよ。ねっ、お壁ちゃん?」


「はいー、エミリさんはまだしも、お師匠さんはやりすぎです。まるでサンマか太刀魚みたいに光っていて、だんぜん笑えるであります!」


 見透かされ、エミリさんと2人で顔を赤らめうつむいた。

 そんな俺らを尻目に、ちびっ子は店員さんに個室はないか聞いている。


 ないと分かると、2つのテーブルをくっつけるよう指示を出していた。


「え、え、え、何をしている?」


「デートじゃないお祝いなら、まとめやってやったほうが楽しいわ。シュータ様もそう思いますよね?」


 うなずくしかない。

 仕方ないねと、エミリさんとアイコンタクトをし苦笑する。


「またーーーーー、もう2人離れて!」


 ちびっ子に言われなくても、元から向かい合う座りかた。迫力におされてしまう。

 この子ってこんなにも強かったんだと、改めて驚かされた。


「エミリさん、昇格祝いって事は、ここはおごりですよね?」


「ええ、そのつもりよ」


「よっしゃーーー、この店で1番高いワインを持ってきてちょうだい!」


「コラコラ、未成年なのにダメだろ」


 慌てて止める俺に、ちびっ子はニヒルに笑いため息をつく。

 まるで俺の事を、わがままを言う子供のように扱ってくる。


「いいえ、ハンターは特別に頼んでもいいのです!」


 そんな法律どこにもない。

 調子に乗ったちびっ子におしおきで、取り敢えずほっぺをつねっておいた。


「いたい、いたい、もうシュータ様、手加減してくださいよー」


「これ以上騒ぐと他の人に迷惑だぞ。お壁ちゃんを見習えよ」


「はいー、コースを6人前頼みましたので、ご安心を。はいーーーーーーーーー!」


 この子も調子に乗っていたか。

 右手にちびっ子、左手にお壁ちゃん、ダブルでつねっておいた。



 そこから4人で楽しく食事も進み、会話はいつしか今後のハンター活動の話になった。


「自分はレベルより、とにかくスキルを磨きたいと思うであります。そして少しでも多くの人を守るであります、はいー」


 お壁ちゃんらしく、当初の目標がぶれていない。

 スキルのスペックを考えたら、充分Sランクでも活躍できる。

 それにその能力を無駄にしない努力家でもある。


 そして次に話し出したのはちびっ子。


「まあ、私は逆ね。レベルをガンガン上げて、60の壁を越えたいわ」


 この日本にSランクハンターは、7人しかいない。

 しかもヒーラーはいない状態で、合同で動くにしても安定感に欠けている。

 だからその穴を込めたいそうだ。


「それでシュータ様はどうなのですか?」


「俺は当分ソロでB級ダンジョンを回るよ」


「やはりシュータ様は別格ですね。普通レベル34のソロならD級が当たり前なのに、こころざしが高いですね。いったい今どれくらい強いのですか?」


「ははは、そんな大した物じゃないよ」


 そう、2人のように大層な志なんてない。

 気恥ずかしくて答えたのに、変な所に食いつかれた。


 攻撃力を聞かれたので、素直に数値を伝えると、揃って驚かれた。


「さ、3100?」


 慌てたのはエミリさん。

 他に聞かれたら騒ぎになると、ちびっ子たちをたしなめた。


「あわわわっ、シュータ様スミマセン。でもそれって、Aランクのダメージ領域ですよ? それを連射って聞いたことないですよ」


「お師匠さんは凄いであります。Cランクなのに既にAランク級とは、さすが自分のお師匠さんですね、はいー!」


 2人の熱い視線にいたたまれず、エミリさんに助けを求める。

 でも微笑み、2人に当然だと言っている。


「ねっ、私のいった通りでしょ。彼は最高のハンターよ」


 頬杖をつき、優しい笑顔で俺の方を向いてきた。

 好きって言われるより恥ずかしいかも。


 吸い込まれそうな瞳を見ていたら、自然と言葉が出てきた。


「エミリさんは何か目標があるのですか?」


「わたし? うふふっ、それはあなた達がSランクになるのを待っているわ」


「「「へっ?」」」


「このメンバーで悲願のS級ダンジョンを攻略し、あの見捨てられた場所を取り戻したいわね」


 スケールがでかすぎる、見てるもの、背負っているものが違う。

 この人は本当に天使なんだ。


 他の2人も感動し、力を入れて前のめりだ。


「じゃあ、乾杯しましょ。3人の昇格とギルドの未来に!」


「「「「カンパーイ!」」」」



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